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分からないまま、歩いていく 〜それが無理だと、誰が決めたんですか?〜  作者: ChikA


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第24話 鍛錬


魔法の訓練を始めてから、さらに一ヶ月が経った。


訓練場に集まった兵士たちの前には、昨日までと同じように石が並べられている。


ただし、今日は誰もすぐには手を伸ばさなかった。


エインが持っている紙に、全員の名前と数字が書かれているからだ。


「今日は、今までの訓練結果を確認します」


エインは紙を見ながら、一人ずつ兵士の名前を呼んでいった。


「魔力操作、合格」


呼ばれた兵士が一歩前へ出る。


「魔力総量、問題なし」


また一人。


「魔力操作、不合格」


今度は別の兵士が前へ出る。


「魔力総量、問題なし」


さらに一人。


しばらくすると、兵士たちは自分たちが三つに分けられていることに気づいた。


一つ目は、石に一定量の魔力を一定の速度で流し続ける課題をクリアした者。


二つ目は、まだ安定して魔力を流せない者。


そして三つ目が、魔力操作自体はできているものの、そもそもの魔力総量が足りない者だった。


エインは三つの列を見渡した。


「今日から、訓練内容を変えます」


一番前の列を見る。


「ここにいる人たちは、次に進みます」


兵士たちの顔に期待が浮かんだ。


「今までやっていたことを、動きながらやってください」


「……動きながら?」


「はい」


エインは石を拾い上げた。


「走りながら、一定量の魔力を流す。身体を動かしながら、魔力の量と速度を変えない」


「それだけですか?」


「今はそれだけです」


だが、それが簡単ではないことを、合格した兵士たちはすぐに思い知ることになる。


走れば魔力が乱れる。


腕を振れば流れる量が変わる。


足元に意識を向ければ、魔力の制御が崩れる。


止まっていればできる。


動けばできない。


エインはその様子を見ながら、淡々と指示を出した。


「止まらないでください」


「魔力が減っています」


「今度は増えています」


「もう一度」


合格したはずの兵士たちは、すぐに自分たちがまだ次の段階に届いていないことを思い知らされた。


一方、二つ目の列では、もっと単純な訓練が続いていた。


石を握る。


魔力を流す。


失敗する。


やり直す。


「できるまで続けてください」


エインはそれだけを告げた。


「昨日できなかったからといって、今日もできないとは限りません。逆に、昨日できたから今日もできるとは限りません」


兵士たちは黙々と石に向き合う。


何度失敗しても、やり直す。


三つ目の列では、さらに違う訓練が始まっていた。


「魔力を使ってください」


「はい!」


「全部です」


兵士たちは魔法を放つ。


火が飛ぶ。


水が噴き出す。


風が渦を巻く。


魔力が減っていく。


「まだです」


「もうほとんどありません!」


「なら、あと少しです」


「……!」


使い切る。


倒れる。


休む。


回復する。


そして、また使う。


エインはそれを繰り返させた。


魔力の総量が足りないなら、足りるようになるまで増やす。


単純な話だった。



そして、その訓練を行っているのは兵士たちだけではなかった。


少し離れた場所では、エイン自身が走っていた。

ただ走っているわけではない。


速い。


異常なほど速かった。


訓練場の端から端まで、一瞬で距離を詰める。

身体を前へ倒し、地面を蹴るたびに身体が跳ねるように進んでいく。その全身には魔力が流れていた。


頭。


首。


肩。


腕。


指先。


胸。


腹。


背中。


腰。


脚。


足先。


身体の隅々まで、一定量の魔力を流し続けている。

しかも、その流れを一瞬たりとも乱さない。


さらに、


「……あれ?」


兵士の一人が空を見上げた。


エインが走りながら右手を空へ向けている。


次の瞬間、光が空へ飛んだ。


一発。二発。三発。四発。


光が連続して空を貫いていく。


エインは走りながら、魔力を流す。魔法を撃つ。また走る。

撃つ。撃つ。撃つ。


空が光で埋まっていく。


「……何してるんだ?」


誰かが呟いた。


答えられる者はいなかった。


エインは止まらない。


魔法を撃ち続ける。


身体中に魔力を流しながら、全速力で走り続ける。


やがて魔力が減っていく。それでも止めない。

さらに撃つ。さらに走る。


「エイン殿!」


兵士の一人が思わず声を上げた。


「何をしているんですか!」


「魔力を使っています」


「それは見れば分かります!」


「枯らしたいので」


あまりにも当然のように答えられ、兵士は言葉を失った。


エインは再び空へ向かって魔法を放つ。


「身体を動かしながら魔力を制御する」


走る。


撃つ。


「魔力を使いながら、身体の隅々まで一定量を維持する」


また撃つ。


「それを続けながら、さらに魔力を使う」


さらに撃つ。


兵士たちは完全に引いていた。


「……あの人、本当に人間か?」


「俺たち、あれを目指すのか?」


「無理だろ……」


だが、誰も訓練を止めなかった。


エインがやっている。


それを見てしまった以上、自分たちだけが楽をする理由がなくなってしまった。


一人が石を握り直す。


「……もう一回やる」


隣の兵士も頷いた。


「俺も」


そして再び魔力を流し始める。


その頃、前衛の列ではアインが一人で座っていた。


目を閉じている。


瞑想しているようにも見える。


だが、その身体は止まっていなかった。


呼吸を整えながら、全身の筋肉を動かしている。


指。


手首。


腕。


肩。


背中。


腹。


腰。


脚。


一つ一つの筋繊維を意識するように、身体のあらゆる場所を動かしていく。


そして、その全身を覆うように魔力が流れていた。


魔纏。


一ヶ月前よりも明らかに薄い。


だが、乱れがない。


「……まだだ」


アインが呟く。


魔力がわずかに揺らぐ。


すぐに整える。


また揺らぐ。


また整える。


「もっと細かく……」


アインは目を閉じたまま、身体を動かし続けた。


力を入れる。


抜く。


呼吸する。


魔力を流す。


筋肉を動かす。


それらを一つずつ別々に行うのではない。


同時に行う。


より細かく。


より正確に。


魔纏の精度を上げるために。


少し離れたところで、その様子を見ていたエインが走る速度を落とした。


アインを見る。


アインも目を閉じたまま、魔力を纏わせ続けている。


「……やっぱり、すごいな」


エインが小さく呟く。


自分とは違う。


エインなら、仕組みを分解して、どこを変えれば精度が上がるのかを考える。


アインは違う。


身体そのものを使って、感覚を研ぎ澄ませている。

理屈では説明できない部分を、身体で掴もうとしている。


それを見て、エインは少しだけ笑った。


「僕も負けていられないですね」


再び走り始める。速度を上げ、身体中に魔力を流す。

そして、空へ向かって光を放つ。


一発。二発。三発。


魔力が減っていく。


それでも止まらない。


訓練場のあちこちで、兵士たちが自分の限界と向き合っていた。


できる者は、さらに難しいことへ。

できない者は、できるまで。

足りない者は、足りるまで。


そしてエインも、アインも、自分自身を止めない。


教える側だから強いのではない。

強くなろうとし続けるから、今の二人がある。


その背中を見ながら、兵士たちもまた、自分の限界へ向かって進み始めていた。

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