探偵同好会結成!
「同好会には会員が最低でも三人は必要だが……大丈夫そうだな」
職員室で保健教諭からそう言われた。なぜだが保健教諭は白衣にガーターベルトだし、世の中の一般認識もまたそうだろう。
「で、どうする? 顧問は?」
「香苗先生は……難しいですよね」
保健教諭の香苗先生は、顎元に手をやって、少し考え込む素振りを見せた。
「別に構わんよ」
「えっ、良いのですか!」
香苗は微笑む。口元にある黒子がなんともまあなまめかしい。
「三階に空き教室があるからそこ集合でね」
「分かりました」
少し歩調が早まっているのを感じていた。
そして放課後。空き教室で三島由紀夫の金閣寺を読んでいた俺は、ついぞ欠伸をこぼした。
――暇だ。
ガラガラと立て付けの悪い引き戸が開く音が聞こえた。
「早かったわね」
「香苗先生……あっ、顧問の件改めてありがとうございました」
「いいのよ」
俺はなぜか居心地の悪さを感じて、「トイレに行ってきます」とか嘘を垂れて引き戸を開けようとしたが、聞いたことのないような轟音が鳴り、そこから開かなくなった。
……なんでスケベイベントが三十路の女教師と起きるのか意味が分からないよ……
意気消沈し這いつくばったところ、香苗先生も同じような姿勢で横に並んだ。いやなぜ?
そうしたらロッカーの上から箱が落ちてきて、俺はそれから身を挺す形で香苗先生を守る。上に俺。下に香苗先生。もういい、余計な描写はしたくない。何なんこれ。どっかの千葉のアトラクションか?
金属の歯軋りのような音を立てながら引き戸が開かれる。
そこに立っていたのは麗だった。
きっと彼女は思いっきりの侮蔑の眼差しを向けているのだろう。だが、あまり怖くはないぞ。
「最低」
それから顧問を含めた四人が集まり、ガーターベルト殺人事件について話す。
「いやあ、ガーターベルトは男のロマンだよな。なあ椎名」
「そうか?」
「くそっ釣れねぇぜ。香苗先生もガーターベルトは女のロマンだと思っているから付けてらっしゃるのですよね?」
「いいえ。ただの趣味よ」
「悪趣味」
これは……なんだろうか。一周回って俺が悪いのだろうか。室内から望める窓に映る夕焼けは一切の曇りはない。なのに、何なのだろうか。この一酸化炭素という毒ガスの曇りしかなくて、それらが散布され続けて俺らがいつか死んでしまうこの様は。……喩えが悪かったか。
「まあ、この格好をしていると男がたくさん言い寄ってくるのよね。ある意味、省エネ」
「あなたが消えることが地球にとって一番の省エネ。エコ」
「さすがっす」
……こいつら。詳しく聞いていたけど全員話聞いてねぇな。
俺は埒が明かなくなったのでガーターベルトの犯人の話に話題をすり替える。
「犯人像はどういうのだと思います?」
「ちぇ。ひとりだけ格好付けやがって。なにが『犯人像』だよ。そんなもの、プレパラートで覗いておけよ!」
「プレパラートはそういう使い方はしないわよ」
「ですよね。そうだぞ、椎名! もうちっと頭を使え!」
こいつの頭鉄バットでフルスイングしてやろうか。
「性的欲求を解消できていなくて、“未婚”の五十代ぐらいじゃない?」
「少し偏見が入っていそうですけど、まあ、それぐらいでしょう」
「でも……どうしてなのかしら……」
「え?」
香苗先生の疑問に俺と友樹は首をかしげる。
「ガーターベルトなんて風俗に行けば三千円くらいのオプションで付けられるのに」
「そうなのですか……」
「ただの愉快犯でしょう……あっ、だったら俺と先生もオプション込みでどうです?」
「それ、ただのセクハラよ。なにが『だったら』よ。そういうのは恋人が出来たらにしなさい」
「……はい」
すると部活動終礼のアナウンスが鳴った。俺は荷物をまとめ始めると、
「あっ、あの一緒に帰ろうよ」
と言われた。友樹にではない。麗だ。




