探偵同好会?
「ただいま」
高橋健斗は電気を点けても広がっているのは誰もいない空間。妻は別室。娘は遊び惚けている。
ネクタイを緩くして、上着を椅子に掛ける。昔は上着を乱暴に扱ったら怒った妻は、もういない。
なんのために生きているのだろう。
いっそのこと風俗にでも行こうか。だが、新宿は高級ソープが軒を連ね、割増しで料金を取られるらしい。なら池袋はどうだろうか。いや、あそこは嬢の質が悪い。
というかなにを考えているのだ。どこでもいいじゃないか。さっさと性欲を発散させられれば。それなのに。こういうところだよな。
口寂しくなってピースに火を点ける。そういえばこの銘柄もかれこれ二十年ほど吸っているな。なんで吸い始めたのだっけ……確か……
嫌な記憶が脳裏にちらついて舌打ちする。煙草を灰皿にすりつぶした。
次からは別の銘柄にしようと心に決めた。
妻が起きてくる前に早々と出勤し、始発に乗るための朝焼けを感じる。駅舎前のコンビニでサンドウィッチとコーヒーを購入し、電車に乗り込んだ。
乗り換え線で降り、少し時間があったので喫煙ボックスに入った。
少し潰れたピースから一本取り出し、吸った。
これは初恋の女性との思い出の煙草だ。
若さだけが取り柄で、社会のことなんか何一つ分かってなくて。
健斗は……そんな、いや、駄目だ。社会の歯車となるために若さを犠牲にしたのだろう。
それだけは後悔したらいけないのだ。
「大丈夫ですか?」
俺は気付かぬうちに泣いてしまっていたらしい。
「大丈夫ですから」
と言って、喫煙ボックスを後にした。
□■□
「また⁉」
俺は親父のいつも取っている新聞の見出し記事を見ては驚いてしまう。
「まだガーターベルト犯人見つかってないの?」
父はまた不躾な顔をしてとっとと学校へ行けと追い出そうとする。もちろんそのつもりだ。
登校中に友樹と会い、彼はいつものよく言えば屈託ない、悪く言えば憎たらしい顔に訊ねる。
「お前、探偵同好会に興味はないか?」
「ないね」
「おい。それじゃあ話が終わってしまうじゃないか」
「まだなにか話はあるのか?」
「俺らで事件を解決して、女性を救おうぜ!」
「勝手にやっ――」
「あーあいやらしい」
カーディガンを今度は二枚重ね着(果たして意味はあるのかどうかはさておいて)した麗が侮蔑する目でこちらを見ている。
「椎名くんがそういう人だとは思いませんでした」
友樹が俺に耳打ちしてきた。
「お前は美人と仲が良いよな! 殺すぞ!」
「頼むから殺さないでくれ」
すると、麗は腰に手を当てこちらを見据えてきた。
「で、話は聞いていましたよ。私にも協力させてください」
しばらく麗は咳込み続けた。




