ドーナツポップ
「ねえ、起きてよ」
俺は声のしたほうを見ると黒い下着にガーターベルト。自分の布団をかぶっているその姿を見て興奮する思いだ。
「おはよう」
「ああ……」
これは夢ではないだろうか。
「可愛いな……」
「ごはん作ってもいい?」
「えっ、いいけど……冷蔵庫なにかあったかな?」
彼女はコンロの火を点けて味噌汁を作り出した。戸棚にあったサトウのごはんをレンチンし、余りもののポテサラを食卓に並べる。
「ありがとう」
「私もいただいてもいい?」
「ああ。別にいいよ」
また手際よく料理のセットをする。
「学校、途中まで一緒に行くか?」
奈央は少し驚いた顔をし、それからくすりと笑って、
「分かった。行きましょう」
食器洗いをし、奈央はスカートを履いた。ガーターベルトのエロイズムが強調される。
「さあ、行きましょう」
「ああ」
□■□
乗り換え線で奈央と別れて、俺は通学路を歩いていた。
「よお、椎名。さっきの美人。名前なんて言うんだよ」
「奈央さん」
「紹介してくれよ」
「お前には彩さんがいるだろ」
「彩は別れたよ。だってあいつ全くヤラせてくれねぇんだぜ」
友樹の顔面を見遣る。こいつはこういう男だった。
「で、ほかの女に乗り換えようって話か?」
「ああ。さっきの女、すごいいい女だからな」
こいつのことは嫌いではないが、軽薄な性格はとても癪に障る。だからこそ、言ってやった。
「あれ、俺の女だ」
「へえ。お前って簡単に恋人とか作れるタイプだったのか」
「――どういうことだよ」
「天沢麗美さんのことを忘れたのかな、って。そんなわけないよな」
天沢麗美とは俺の五つ年上の恋人。いや、恋人だと俺は思い込みたかったのかもしれない。中学生の時にロマン喫茶で出会った大学生。黒髪ロングでナチュナルメイク。清楚を絵に描いたようなその女性は、俺を見るなり笑いかけた。手に持っていた片桐大三郎という芥川賞の著作を読んで。
俺にとって甘酸っぱい青春の思い出の一欠けらだった。
今日もいつも通り授業は終わり、岐路に就いている最中、奈央はミスドの前の看板を物色していた。そこに声をかける。
「どうかしたのか?」
「ポンデリング、食べたいなって」
「お金は渡されたのですけど、その、一緒に食べたいなって」
通学用に数万円は渡しているのだが、まあ、思い出作りだろう。せっかくだし一緒に食べようじゃないか。
俺はチョコ&抹茶シュガー。奈央はポンデリングとドーナツポップを注文した。席に座り、黙していると頬に感触があった。
彼女が微笑みながらドーナツポップを押し当てているのだ。
「何している?」
「いいから」
俺はそれを食べると彼女は満足な笑みを見せた。
その表情はどこか麗美さんを思わせた――




