興奮
彼女の名前は片桐奈央。背丈は俺と同じくらい。端正な顔立ちに、目元には涙黒子。豊満な胸。窮屈そうなブレザー。そしてスカートから伸びる太ももにはガーターベルト。
「あの……」
「はい?」
「お兄さん……お名前は?」
「攻城椎名。そこの成宮高校に通う高二」
「あっ、あの偏差値65の都内トップクラスの!」
「まあまあ言うなって。――君は?」
「私は平均ぐらいだよ。学力も……頭の良さも」
「見た目は百点満点だけどな」
「はい?」
「いや、なんでもない。そうだ。忘れ物がどんなものか知りたい。詳しく教えてもらえるか?」
「ポーチ。スマホとか財布とかが入っている」
「え? は?」
この女はそんな貴重品を落として、今のんびり珈琲を啜っているのか。すごい根性だな。
俺は腕時計を確認する。
「もう深夜二時を回っているぞ。どうする?」
「朝になれば日差しも刺すでしょう」
「危ないだろ。……スマホがないから友人の家にも行けないのか」
「……はい」
「仕方ない……警察署に――」
「椎名さんのお宅に行けないでしょうか」
「はいはい」
「あっ、店員さん。マルゲリータ―三つ。コーラの瓶もふたつ!」
大食漢なのか、奈央はひとりでピザ二つ半を食し、瓶コーラを一封開けた。サイズが苦しくなったのかガーターベルトのサイズを調整する。
「ご馳走様です」
「はいはい」
数万円ほど彼女に渡して、後日返金してもらうというのはやめておこう。これは大きなチャンスだ。もしかすればこれを機に恋人ができるかもしれない。
山手線に揺られ、それから数十分。駅校舎から出ると高層マンションが見えてくる。
オートマンションの鍵を開けて奈央を連れて二十階へと目指す。
この道中、奈央はずっと「すごーい」という言葉を連呼していた。
「東京の家なんてこんなもんだろ」
「全然違うよ」
「全然違うのか……」
俺はタッチキーで鍵を開ける。奈央に「どうぞ」と言い、部屋に招き入れる。
部屋はソファに大型TV。そして本棚に大量の推理小説が並べられている。
「何か飲むか?」
「なんでも」
「じゃあさ、カルピスでも淹れるわ」
「うん」
コップを奈央の前に置いてやり、それからTVを点けると連続殺人犯の報道が流れていた。
どうやら犯人はガーターベルトを身に着けた女性を目星にしているらしく、女性の方は着用を控えるようにと注意喚起されている。
「これってさ、おっさんがガーターベルト身に付けていたらどうなるのかな」
「さあ?」
「……というかお前! 付けているじゃないか! どうすんだよ」
肩を竦める奈央を見て、俺は困惑した。
腰に手を置いて俺を見下ろす。
「成人女性の十五パーセント――1000万人もガーターベルトを好んで着用する人がいるのよ」
「なにが言いたい」
「いたちごっこよ」
まあどうでもいいけど……
奈央が風呂に入っている間、俺はベッドに寝転がっていた。
そのまま眠りに落ちる。




