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明後日は死ぬ。  作者: 彼方夢
最終章 新宿占領

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白日の下に

「お姉さん、可愛いね。どう? いい仕事あるんだけど」


 均等な距離感で女性に声をかけるスカウト。けれども、こんなご時世でホイホイ連いていく女性など少数派だろう。

 けれど、このスカウトの子たちだってそんなこと理解しているのだ。スカウトにとって大事なのは、「声をかけた」という事そのものが大事なのだ。


 俺はパーカーを目深に被り、うつむきながら歩く。なにも「自分が声を掛けられるかも」なんて被害妄想丸出しのわけではない。このスカウトの連中が「ナチュラル」だったら色々と厄介だからだ。自己防衛、自己防衛。


 するとひとり、女子高生がスカウトに捕まったのが視認できる。溜息をこぼし、救いに行く。


「おいおい」

「なんだよ、おっさん!」

 スカウトの青年が俺を一睨みする。

「いや、俺まだ二十歳ぐらいなんだけど……」

「二十歳って俺より年下じゃねぇか。ちっ、もういいわ」

 スカウトの子は消えてくれたみたいだ。これでこの子の無事を確保――

「なにしてくれてるわけ?」

「は?」

「せっかく良い求人あると思ったのに」

「おい、いや、いいか。ああいうのは、口から出任せというか、なんと言ったらいいのだろうか」

「消えろよ。おっさん」



 勘弁してくれ。俺のライフはもうゼロだ。


■□■



「なんで俺が奢らなくちゃいけないんだ……ついてねぇな」

 慰謝料を払えとか言われ、ファミレスで奢ることになり、挙句に大飯食らいで、延々と食事を採っている女子高生。


 俺はフライドポテトをひとつまみし、

「あのな、あれはそういう手口の詐欺なんだ。学校で習うだろ」

「授業聴いてねぇし」

「まるで君は俺からすれば、宇宙人みたいだ」

「馬鹿にしてんの?」

「ああ」

「むかつく!」


 こいつはまた店員を呼び、今度はハンバーグステーキを、しかもライスセットまで注文しやがった。人の金だと思って……


「……金に困ってるのか?」

「――なに?」

「いや、あんなスカウト、金に困ってないと受けないからさ」

 女子高生は顔を伏せ、声をゆっくり、ゆっくりと絞り出す。


「実家がかなりの貧乏で、正直、金に困っていて……それで、スカウトを受けっちゃったっていう感じ?」

「行政は何もしてくれないのか? 児相とか」

「なにも……だって考えてみなよ」

「ん?」

「例えば私ほどじゃなくても、金に困っている子がそういうスカウトから仕事を斡旋してもらっているんでしょ。そんなの、行政の偉いさんは知っていると思う。だから、言い方悪いけど、放置……いや、放牧だね」


「――なるほど、還って利益を生み出してくれる。犯罪利益の温床先が『総務省』であり、その管理者が事務次官ってわけか。……ここまでなると、打つ手はあるのか?」


「さっきからなに言っているの?」


「いや……そうだ、仕事に困っているならこれを渡しとく」

「なにこれ? 名刺?」


「人生に困っている奴には渡しておくようにしているんだ」


 女子高生が名刺を眺める。

「どうして?」


「俺の恩人からの教えでね。じゃあ、そろそろ行こうか。これ以上食われると財布が軽く、寂しくなるからさ」


「うん。ありがと」

「名前は?」

「綾川《あやかわ》 亜里沙《ありさ》」

「……まさか、同姓同名じゃないよな?」

「ん? どうしたの」

「東北にいたことは?」

「あるよ。四歳のころに」

「……兄貴か……もしくは叔父はいるか?」

「さっきからなに?」

「いいから答えろ」

「っ、いるよ!」

「翔という名前ではないよな?」

「えっ、なんで名前知っているの?」

「こんな偶然あるんだな……」


 ひとりでに考え込む。

 なら、もしかすると、姫島さんと翔さんを再会させることも……


「なににやけてるの? きもっ」

「なぁ、素朴な疑問なんだが、そんなに俺って老けて見えるか?」

「そうね。見た目はそんなにだけど……例えばなんか癖とかかな? 爺臭いっていうか」

「爺臭い癖……そう言えば、高校を卒業してから日記を付け始めたな。スマホのメモ帳アプリで」

「あっ、それだ」

「なにがそうなんだ」

「だって、日記って爺臭い趣味筆頭じゃん」

「そんなもんかな」



 女子高生と会話に花を咲かせられる爺がいてたまるか、とも思うが。




 ファミレスから事務所に帰宅したので、俺はカーテンを閉める。

 スマホの着信が鳴った。

 なんだろうか……

「もしもし?」

「あっ、緑羽です。実は――」

「え?」

 急いでジャケットを羽織って、駆け出す。

 


 総合病院の待合室。

「攻城くん!」

 俺は立ち上がって軽く頭を下げる。麗の両親に。

「不躾ですが……入院は来週のはずじゃあ?」

「もう、娘の時間は残されていないようです」

「そうなっ……ですね」

 俺は呆然としながら、それでも感情を堰き止めることは出来なかった。



 そうするといつの間にか、新宿を闊歩していた。

「おう。てめぇのそのツラ、どっかで見たな」

「こいつ……もしかすると攻城椎名かもしれねぇ。連れてけ」

 俺は、ナチュラルの奴らの、成すが儘になってバンに乗せられる。

 黒頭巾を被せられ、次に視界が開けたとき、おおよその場所が判別できた。廃工場だ。



「とっととバラしちまいましょう」

「そうだな。おい、こういう場所にはアレ、用意してあるだろ」

「そうっすね」

 連中は嘲笑をこぼしながら道具を持ってきた。チェーンソーだ。

「ゆっくり、ゆっくり解体してやるからな。そのあとブツを冷凍して海に放り投げて魚に食わせるまでが楽しぃんだ」



 もう怖くはない。

 麗と一緒にいれるから――




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