絞首台から飛び降りた末路
覚醒。瞼を開けると蛍光灯の光が煌めく。それから、徐々に視界が光に慣れる。するとここは病院だということを理解した。
「痛っ……」
顔を動かそうとすると激痛が顔の表面を刺激した。そんな痛みのせいで歯軋りする。
そうしたら、看護婦が俺の覚醒に気付いたようだった。医者を呼びに行く。医者が病室に訪れると、俺の勘違いか飄々としているように見えた。
「目覚めたのですね。よかった……」
安堵しているようだが、その態度の嘘臭さが還ってリアリズムを俺に与える。
世の中、しがらみだらけだな。
「よぉ」
友樹が、深い意味はないとは思うが、羊羹を土産に持ってきた。
「疲れているようだな。病室生活で暇と性欲を持て余しているだろうに」
「……背広連中の相手に疲れているんだよ」
それはどういうことかと言うと、病状が安定すると、天沢麗美ら刑事が長らく病室に詰め込んでいたのだ。要件はとにかく、「姫島との関係を教えろ」と――
「学校にはまだ戻れそうにはなさそうだな」
「当たり前だ」
俺は咳き込んでから、“あれ”を見てこいという意味を込めて顎をしゃくった。
「なんだよ」
「姫島さんはどうしている?」
「……俺も、かくいうお前も面会は無理だ。そもそもあの人がいる場所は警察病院だ」
「くそっ」
「あの人には共謀罪の疑いがかけられている。認められている面会者は現状、弁護士だけだ」
「あの人じゃないんだ。あいつら、ナチュラルの犯行だ」
「いいか。そんなこと、きっと刑事連中も分かっている。だけれども、現行組織として、別の組織への見せしめのための十字架を背負わせる人間の必要性を謳うこともあるってことだ。あの人は大人だ」
「っ――」
「もう一度言う。いや、何度だって言ってやる。姫島は、姫島さんは『大人』なんだ」
のちに姫島聡は組織犯罪共謀罪の「容疑者」として、東京拘置所へ収監された――
もし、裁判で無罪を勝ち取ったとしても「犯罪者」として世間に名が渡った姫島さんが、また探偵業を行うのは不可能だろう。
結局、この事件はナチュラルの幹部が別件で逮捕され、奇跡的にそこから紐づけ捜査がなされたことで姫島さんの無罪放免が決まった。
けれど先述の理由から姫島さんはしばらくの隠居生活を余儀なくされる。
俺は、絞首台から飛び降りることを余儀なくされた姫島さんの代わりに、事務所を継ぐことを決心する。
「あなたたちを祝して ニコラとバート。
私たちの心の中で 永遠に休んでください。
最期の最後の瞬間は あなたたちだけのものです。
受難は あなたたちの勝利となるときです」
勝利への賛歌――1971年 ジェーン・バエズ




