嘘と処刑台
ニコラとバートは死を持って世に訴えた。最も有罪なのは猟奇殺人なんてものではなく、思想犯である、と。
「しっかり縛っとけよ。靴紐」
目出し帽を被った四人組は黒のセダンに乗り込んだ。揺られながら犯行内容について念入りに脳裏で反芻する。
「三人殺して。ひとりはバラシ」
物騒な言葉が飛び出してはいるが、これがこの男たちの日常だ。
□■□
「どうしてお前、最近事務所入り浸っているんだ?」
「駄目ですか?」
八月。猛暑。東京の人の汗臭さと木霊する蝉の鳴き声に疲れた俺は、このエアコン22度設定の避暑地に逃れてきたのだ。
「お前、バイトってこと忘れているよな? 絶対……」
「忘れていませんよ」
「どうだか……じゃあ一件、仕事を回してやる」
「ええ……」
「絶対に忘れてやがるな。……斉藤美玖さん二十八歳が昨晩、秋名山の山中で見つかった。バラシの方法から相手は暴力団だ。現在妹の芽郁さんも見つかっていない。手伝ってくれるか?」
「はい」
俺はエアコンの温度を一度下げた。これに対し激高した姫島さん。
「誰が電気代支払っていると思っているんだ」
「すみません」
「ったく、唯でさえ電気料金が値上がりしているというのに」
「そういえば姫島さん」
「なんだよっ」
「朝刊に乗っていた電気施設爆破テロ未遂についてどう思いますか?」
「餓鬼なのに新聞なんか読んでるのか。もっとこう、なんだ、スマホゲームとかしろよ」
「どうなんですか?」
姫島さんは煙草を点け始めた。もう俺に許可を取ることは無い。
「激発物破裂罪――死刑、もしくは無期量刑……ただ、そんなことまでして燃料タンクを爆破してやる意味がないんだよ」
「どういう意味です?」
「単機としての火力は徳島県の橘湾火力発電所の105万kwが日本最大級だ。だがそもそもそれを潰したとて、どうするんだ?」
確かにそうだ。インフラを一個破壊したとて日本を揺るがすには到底足りない。日本を揺るがすにはそれ相応の火力が必要なのだ。
「だから今回のも愉快犯による犯行。日本へのテロとか杞憂だよ」
「杞憂とはいえ立派な犯罪ですけどね」
するとスマホに通知が入った。空メールだ。連絡手段の主流はラインなのでどうして、しかも空メールなのだろうと疑問に思いフォルダを開く。
そこには、
【日本沈没】
とだけ書かれていた。空疎な文に少し恐怖を感じてしまう。
「なんだこりゃあ」
どうやら姫島さんのところにも届いていたらしい。
「まさか……な。縁起でもない」
「どうかしたんですか」
「本気で犯人が『日本沈没』しようと思うのだったら次に狙うは……原発か」
もし、そうなればまた夏は暑くなりそうだな。
まだまだ続きます。探偵事務所(同好会)の動向を解くとご覧あれ。




