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明後日は死ぬ。  作者: 彼方夢
第二章 ラブホテル階層事件

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事件はまだ解決していない。

 逮捕された犯人は四十代の男性だった。

 俺は角砂糖をコーヒーに投入しながら、思考の模索をする。

 麗にパパ活をさせて捕まえた“ねずみ”はジョーカーは「女」だと言った。

 二個。三個。四個。

 ずずっと啜ると強烈な甘みが舌を殴った。

 溜息を吐いてから席を立つ。家で考えていても埒が明かない。

 玄関の扉を開けるとじりじりと蝉の鳴き声が鼓膜に到来する。

「もう夏か」

 最寄り駅まで歩いていると甘味処の台に座り、茶を飲んでいる不格好な男がいた。店に不躾にも煙草にまで火を点けやがった。俺は物凄く険しく不快感に包まれた顔をしていることだろう。 

 その男がこちらに目を遣って、

「おう少年。熱いな」

 と軽々しく口を利いてきた。

「はい」

「水ようかん食べるか?」

「いえ」

「おいおい、子供が大人の誘いには断るもんじゃないぜ。食っとけ」

「……分かりました」

 店の中に入って椅子に座り、ようかんを食す。わりかし喉が潤った気がする。そしてとにかく甘い。

「ありがとうございました」

 一応筋は通すつもりで男に頭を下げた。

 名刺を差し出される。一瞬理解が追い付かなかった。

 その名刺には「姫島探偵事務所」と書かれていて、男の顔はなぜか不満そうだ。

「頂いておきます」

「困ったことがあったら言って」

「はい……」

 俺は今度こそ最寄り駅へと向かった。

 


 休み時間。校舎裏の階段で卵焼きを食していると隣に誰かが座った。

「おう、麗じゃん」

「よっすー」

「あっ、そうだ。突然だけど遊びに行かね? 埋め合わせみたいなものだけど」

 麗は呆けた顔をしたそのあとに、にんまりと笑いだした。

「嬉しい。どこに行く?」

「横浜。中華街」

「ベタだな」

「じゃあもうやめるか?」

 彼女はけらけらと笑う。

「ごめんね。いいと思うよ。行こうよ」

「決まりだな」

 俺は弁当を片付け、立ち上がった瞬間に名詞が落ちる。麗はそれを拾う。

「なにこれ。探偵事務所?」

「らしいね。行きしな貰ったんだ」

「ふーん」

「俺の将来の就職先かな」

 彼女は失笑する。「冗談でしょ?」

「そうだな。じゃあ教室に帰るわ」

「うん。また部室で」

 エアコンの効きが悪い校舎の教室で下敷きを団扇うちわ代わりにしながら授業を受ける。何とはなしに黒板の文字が見えづらい。

 大きな音が響く。そのあとに自分が床に崩れていることが認識出来た。

 ――えっ、なんで?

 聴覚がどんどんぼやけだしていくのを自覚しつつ、意識がスッと途切れた――



 覚醒したとき、薬品の匂いが鼻腔を刺激する。

 ガラガラとカーテンが開かれる。女性が前かがみになって俺の左腕の点滴チューブを取り換える。

「おっぱいだ」

 女性と目が合う。

「もう大丈夫そうね」

「香苗先生……俺はいったい」

「夏バテね。朝、多量のカフェインを摂取したでしょ。それね」

「ああ……」

「今度からは気を付けなさい」

「……あの」

「なに?」

 香苗先生はこちらを目踏みする。

「なぜ休職届を出さないのですか?」

「休んでほしいの?」

「……いや、そういうわけじゃなくて」

 香苗は重苦しい溜息を吐いた。そして胸に押し固まった積年の恨みを聾するかのように告白を始める。

「私も不倫していたのよ。楽しかったわ。もし不倫がばれたらもう教職には就けない。そのスリリングさも興奮材料だったわ。だからね」

「だから?」

 香苗は少しはにかんだ。

「私も同罪ってわけね」

「……」

「もし彼が出所できる日が来たら、ともに罪を償い続けるわ。『《《明後日死ぬ運命に遭っても》》』ね」

「すみません。告白してくれてありがとうございます」

「ええ」

 授業終了の放送が鳴る。俺はこのまま部室に直帰することにした。

 


 




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