憧れの人とラブホ
同好会の部室に香苗先生が訪れる。少し顔は険しい。
「昨日、なかなか無理をやったそうじゃないの」
「すみません……」
「今後、こういうことが増えると同好会の存続が危ういからね」
「はい……」
「今日、麗さんは休みを取っている。……ただでさえ彼女は――」
「ん?」
「いや、なんでもない」
香苗先生は言い終えると部室を後にした。
「俺らも帰るか」
「そうだな」
「むさくるしいところに男二人いてもあれだしな」
校舎から出てただぽつぽつと歩いていた。
「椎名くん」
駅前の広場で“彼女”はスマホから目線を上げたところに、俺と目が合った。
「麗美さん」
天沢麗美。俺の憧れの女性。
「こんなところで何しているんですか?」
駅前は混雑している。けれどそれに比例するようにアミューズメント施設は多い。いくらでもこの場にいる理由ならあるだろうに。
この人を前にすると頭が回らない。
「ねぇ……遊ぼうよ」
「俺とですか?」
すると麗美は挑むような目を投げかけてくる。
「そう。あなたと」
かぁっと全身の血液が沸騰したみたいに体が熱い。辛い。でも、この辛さが還って快楽だ。
「分かりました……どこに行きます?」
彼女が指差した場所は大人の遊楽亭――ラブホテルだった。
「本気ですか?」
「私はいつだって本気よ」
女性にこう言われてしまってはもう逃げ道はない。腹をくくった。
衣擦れ音。俺は麗美と口付けをしていた。そして陰部に手を入れた瞬間、彼女の赤く甘美な表情が男を刺激する。
このままどこまでも……そう思っていたのに、どこかのフロアで悲鳴が上がった。
麗美は這いつくばった姿勢から立ち上がり、スマホでどこかに連絡をかけた。
「着替えなさい」
「え?」
「早く!」
すっかりホテルの周りを警察車両が包囲した。
「囮捜査、お疲れ様です」
廊下に出ると、男性刑事が麗美に敬礼をする。
「ジョーカーは?」
「確保しました」
「取り調べでみっちり調べないとね」
「では」
刑事がどこかに行く。この場には俺と麗美だけ。
「騙したんですか?」
「ごめんなさい。仕事のためだったから」
「俺……麗美さんのこと、中学の時から好きだったんですよ」
「ええ」
中学時代。バスケ部の先輩のしごきに耐えられなくて、毎日校舎裏で泣いていたら二年上のマネージャーだった麗美がいつも励ましてくれた。そのおかげで俺は立ち直れた。
「……刑事になったんですね」
「うん。どう?」
「似合わないっすよ」
悪口がするすると口から出る。これ以上この人の前にいるべきじゃない。取り返しが出来ない確執を生んでしまうことになる。俺は踵を返した。
「頑張って。少年」
涙が出ていたことに気付いたのは、月を見上げたときだった。




