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第二章パドローネ・エ・スキアーボ

 ツェッドが友愛を知ってから一か月後、ツェッドは再びカイトの店の前にいた。

 ツェッドはこの一か月長期の依頼に行っており中々この店に来ることが出来なかったのだ。

 カランとドアベルを鳴らして店に入ればカイトが一か月前と変わらない様子でツェッドに珈琲を出した。

「本日は何用ですか?」


「決まっているだろう。アンナリ・パッラが見たい」


 というかこの店はそのための店だろう、とツェッドが付け加えるとその通りですね、とカイトは笑った。


「今回の依頼はどのようなものだったのですか?」


「何故その話をする必要が?」


 ツェッドは早くアンナリ・パッラを出さないカイトに苛立ちながらとある騎士団とスタンピードの処理だ、と答えた。


「そうですか……ではこちらのアンナリ・パッラが今回は相応しいでしょう」


「俺の求めているものが手に入るなら何でもいい」


 カイトが数あるアンナリ・パッラの中から一つを取り出すと、ツェッドは半ば奪い取るようにそれを受け取り、それに触れた。

 スゥ、とツェッドの意識がアンナリ・パッラに取り込まれる。

 そんな様子を外套を被り藍色のワンピースを纏った女性が見ていた。


「何が愛を見てきた、よ。見てきても何一つ変わってないじゃない」


「そうですかね?」


 女性はカイトにそうよ! と答えるとさっきのツェッドの態度に腹を立てた。


「でも今回の世界は彼に影響を与えると思いますよ」


「どんな世界なの?」


 カイトは女性に珈琲を差し出しながら人差し指を口の前に立ててウィンクをした。


「騎士の努力も空しくスタンピードで滅びた世界、パドローネ・エ・スキアーボへ」


「スタンピード……丁度こいつが行ったばかりね」


「ええ、だから何かしらの影響を受けて帰ってくると思いますよ」


 多分ね、とカイトは言うと女性に珈琲を勧めた。

 




 ツェッドが目を開けると石造りの部屋の中だった。

 部屋には寝具とクローゼット、そしてテーブルと椅子が置いてありまるで騎士団の宿舎のようだ。

 想定の通りと言うか机の上には淡い光を纏った書物が一冊置いてあり、題名には『パドローネ・エ・スキアーボについて』と書かれていた。

 パドローネ・エ・スキアーボとはこの世界の名前だろうかと思いながらツェッドはその書物を手に取るとパラリと表紙を開いた。

――パドローネ・エ・スキアーボとはスタンピードが原因で滅びた世界。

 世界の中央にあり武力も最高峰のトリト王国がスタンピードにより滅びたことで周囲の国にもスタンピードが起き最終的に世界が滅びた。

 貴方は騎士団の指南役として招かれた剣豪である。

 この世界には過去龍人がいたことがあり、貴方は先祖返りとして受け入れられている。

 よって竜化をしても問題はない。

 また魔法が普通に存在する世界のため魔法を使っても問題はない。

 指南役として騎士団長ヴェルデと国王ジャイロに接する機会が多い。

また騎士団の宿舎の部屋の一つを宿として与えられている。――

 書物は一度目と同じくツェッドが読み終わると光となって消えていった。


「スタンピードが原因で滅びた世界。ねぇ」


 竜化をしても問題はないのはいいが指南役とはこれまた面倒だな、とツェッドは思った。

 竜化とは文字通り竜の姿になることで、龍人なら誰でも出来る能力だ。

 完全に竜になることも出来るし身体の一部を意識的に竜化することも出来る。

 前の世界、サクリフィチオでは龍人がいなかったのと竜化する必要性を感じなかったため竜化しなかったが、今回はする必要があるということだろうか。

 なんにせよ面倒くさそうだが目的のためにはそれらしく振る舞うしかない。

 今回の核は恐らく騎士団長のヴェルデと国王ジャイロだろう。

 ヴェルデという響きから女性のような印象を受けるが果たして……。

 そうツェッドが思っているとコンコンと扉を叩く音が聞こえた。


「ツェッドさん、いらっしゃるだろうか。ヴェルデです」


 都合よく相手の方から訪ねてきてくれたらしい。

 声も中性的だが女の声だとツェッドの直感が言っている。


「ああ。今開けるから待ってくれ」


 ツェッドが扉を開けると一つ結びにした金髪に緑の瞳をした騎士がそこに立っていた。

 その瞳は強い意志を宿しキリリとし整った顔立ちをしていて、姿は甲冑で覆われているといっても女性であることは明白であった。

ツェッドはそんなヴェルデを見て女が騎士団長かと内心呟いた。


「突然すみません。明日の野外演習のことでご相談が」


「わかった。場所を移そう。宿舎じゃ誰が聞いているかわからないしな」


 ヴェルデの話によると明日自分は野外演習の指南をするらしい。

 ツェッドはなんでいきなり面倒なことになってるんだと思った。

 そしてヴェルデにそれらしいことを言いつつ場所の変更を求めた。

 騎士団の宿舎等の構造を把握しておきたいからだ。

 ヴェルデはそれなら団長室に行きましょうと言ってツェッドの先を歩いた。

 ツェッドはその後を着いていきながら宿舎の構造を観察した。

 宿舎は石造りでロの字の形をしており、吹き抜けの一番下は簡易練習場になっているのか手合わせをしている騎士たちがちらほら見えた。

 ツェッドの部屋は最上階にあるらしく、渡り廊下を渡り兵舎に入るとすぐ団長室に辿り着いた。


「それで、明日の野外演習に何か問題が?」


「野外演習予定地にモンスターが頻出しているらしいのです」


 特に高難易度のモンスターが出ることもあるらしく……と続けるヴェルデにツェッドはそれの何が問題なんだと内心首を傾げた。

 せっかくの野外演習にモンスターが出るというのなら実践訓練としてこれと言ってないほど最高な条件だろう。

 それで負傷兵が出たとしてもそれは兵が弱かっただけでそんな兵はいなくていい。


「負傷兵を出すわけにはいかないので演習地を変更した方が良いと思うのですが……」


「お前は自分の部下が信じられないのか?」


 ツェッドの言葉にヴェルデはハッとした表情を浮かべたが、負傷兵を出すことの懸念が消えないのか、いやでも……と言葉を濁した。

 そんなヴェルデを見ながらツェッドはそもそもスタンピードが起きそうなんだからモンスターが頻出していてもおかしくないだろうと思った。

 その後、もしかしてまだスタンピードの傾向が出てないか出始めたばかりなのか……? と思った。


「高難易度のモンスターが出たら俺が対応する。それ以外はいい訓練になるだろう」


「ですがそれではツェッドさんが……」


「俺の腕が信じられないか?」


 ツェッドが剣に手をかけながらそう言った。

 ヴェルデはそういうわけでは……と言ったあと私も加勢させていただきます! と言った。

 正直ヴェルデの実力がわからない今加勢に入られても邪魔なだけだ。 

 ツェッドはふむ、と考えるふりをしてこの世界最高峰の武力を持つ騎士団の団長の実力を見てみたいと思った。


「正直加勢はいらないが……俺から一本取れたら加勢させてやる」


「!! では練習場に参りましょう!」


 ヴェルデは好戦的な一面も持っているのか手合わせを匂わせるとすぐに食いついて団長室から出ていった。

 その後をツェッドは着いていきながら野外演習にモンスターが出るのは訓練になるってことでいいのか……? と疑問に思った。


「やはりツェッドさんの言う通り対モンスターは良い訓練になりますし、ここの所モンスターが増えているので良い間引きになるでしょう」


「そうか……」


 自分で言っておいてなんだがヴェルデは優しそうな雰囲気しておきながら意外とスパルタらしい。

 すれ違う一般兵士達が「団長! ツェッドさん! おはようございます!」と背筋を伸ばして挨拶をしてくる所からもヴェルデのスパルタ具合が伺える。

 いや、騎士団だったら普通なのか……? 騎士団と仕事はしたことあるが積極的に関わってこなかったからわからないなとツェッドは思った。

 そしてヴェルデの後を追って階段を下りていく。

 数分足らずで練習場につくとヴェルデは剣を抜きよろしくお願いします! と声を上げた。


「どこからでもかかってこい」


「ではお言葉に甘えて……でやぁ!」


 ツェッドも剣を抜いて構えるとヴェルデがまっすぐ切り込んできた。

 ガキンッ! と剣と剣が合わさる音がする。

 ヴェルデの一撃はそこいらの男よりも重いがツェッドには関係ない。

 問題なく受け流すと少し力を込めて今度はツェッドの方から切りかかる。


「ぐっ!」


「ほう。これを受けるか」


 先ほどよりも鈍い音を立てて剣と剣がぶつかり合ったが、ヴェルデが剣を落とすことはなかった。

 ならばとツェッドはヴェルデの死角になっているところから切りかかる。

 ヴェルデはすぐさま対応しそれを受ける。

 どうやらこの世界で一番の武力を誇る騎士団の団長の実力は本物らしい。


「すげぇ……あの剣劇を受け切るどころか流しちまうなんて」


「さすがツェッドさん……でもうちの団長も負けてない! 団長! やっちゃってください!」


 剣がぶつかり合う音が響く中、観客と化した一般兵たちが盛り上がっているのが聞こえる。

 見てないで自分たちの訓練をしろと言いたくなるが、見取り稽古というものもあるしなと思いながらツェッドは剣を振るう。


「考え事しながらとは流石ですね!」


「まぁ手緩いからな」


 ツェッドはそう言いながらヴェルデの突きを避ける。

 そしてお返しとばかりに斜め下から切り込めば鈍い音を立ててヴェルデの剣が舞う。

 ツェッドはヴェルデの首に剣を添えながら加勢はいらないなと言い放った。


「そのようですね……自分もまだまだです」


 ヴェルデが残念そうに笑いながらそう言うとどこからかパチパチと拍手の音が聞こえてきた。

 音の発生源を見ると金髪にアンバーの瞳をしたいかにも高級そうな生地の服を纏った男がそこにいた。

第二章開幕です。ツェッドはどのような愛に触れ、何を差し出すのか……。

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