神殺しと愛の結末
そしてツェッドは気絶したロッソと共に生贄の儀が行われる滝に移動した。
村から滝まで常人では一時間以上かかるが、ツェッドはその類まれなる脚力でものの数分で滝に辿り着いた。
そこから浮遊魔法を使って身投げ台が上からよく見える滝のでこぼこした岩場に移動した。
人二人が乗れるほど出っ張ったその場所は身投げ台がよく見えて、ロッソが起きた時にはロッソに成り代わったアズーロが身投げ台に乗るところだった。
「起きたか。間に合ったな」
「間に合った……? あれは……アズーロ!!」
ツェッドがロッソに視線をやることなく間に合ったなと言えば、ロッソはどういうことだと疑問を感じながら身投げ台を覗き、そこにいるのがアズーロだとすぐに気が付いた。
「ツェッドさん!! なんで!!」
「アズーロの希望だ。まぁ見てろよ」
ロッソがツェッドに掴みかかるがツェッドは蚊ほども気にせず見ているようにロッソに言った。
滝壺には蛇神様と呼ばれるモンスターだろう、大きな白蛇が姿を現していた。
その白蛇の鱗は水を浴びて七色に光り輝いており、どこか神秘的に見えた。
生贄を求めるモンスターとは思えないほどに。
しかしやはりモンスターなだけあってかその牙からは岩を穿つ猛毒が垂れ流されていた。
白蛇――蛇神――はその身体に見合った大きさの赤い舌をちろりと出すと上を見上げた。
そして生贄を感知すると大きく口を開いた。
アズーロは蛇神が口を開いたのを見て少し戸惑った後身投げ台から身を投げ出した。
「アズーローー!!」
「ここからが見物だな」
蛇神の口にアズーロの身体が飲み込まれるとロッソはこの世の終わりかのように声を上げた。
ロッソはアズーロに向かって手を伸ばしたが届くはずもなく。
そんなロッソの様子を見ながらツェッドはこの先どうなるかを見据えるように蛇神を見つめた。
「グギャァァァァァァァァァァァァ!!」
「上手くやったか」
「へ、蛇神様……?」
蛇神が地面が震えるほどの悲鳴を上げるとその身体が四散した。
その様子にツェッドはアズーロが上手くやったようだなと言うと条件を思い出した。
ツェッドがアズーロに突きつけた条件は一つ。
生贄の儀の日にロッソと入れ替わってアズーロが蛇神の口に飛び込み、胃袋でツェッドの血を叩きつけること。
そうすると蛇神は四散することはツェッドには想像ついていた。
そして想像通り四散した蛇神からアズーロが滝壺の淵に叩きつけられる。
「いくぞ」
「え? アズーロ!」
ツェッドはロッソを抱きかかえ浮遊の魔法をかけて滝壺の淵に近づいた。
そして滝壺の淵に叩きつけられた衝撃で意識を失ったアズーロを回収した。
ロッソはアズーロが心配で仕方ないのか急に浮いたことに対して何も言わなかった。
「何が起こった!?」
「蛇神様が亡くなった!?」
「この村はどうなるんだ!?」
滝の上では村人が大騒ぎしているがそんなの関係ないとツェッドはログハウスに向かう。
時は戻りアズーロがロッソの身代わりとして身投げ台に立っていた時。
「生贄様、蛇神様がお待ちです」
「わかってます……」
アズーロはロッソの振りをしながら前へ一歩踏み出した。
下を見れば大きな口を開けた蛇神の姿が見える。
その姿に一瞬ひるむも懐に隠した小瓶をぎゅっと握る。
大人たちからは怯えているように見えたのだろう、怖くありませんよと声を掛けられる。
それに怖いに決まってるだろ! と内心返しながら小瓶に入ったツェッドの血を思う。
すると不思議と小瓶が熱を持った気がした。
それに背中を押されてアズーロは身投げ台から蛇神の口に飛び込んだ。
ひゅるるるるという落下音の後に蛇神の口内に入ったのか視界が暗転した。
その後生臭い匂いがして自分が蛇神の胃袋の中にいるのだと理解した。
胃袋の中はどこまでも暗く、そして生臭さがアズーロの恐怖を煽る。
蛇神を殺すことに戸惑いはない。
けれどそれでロッソに嫌われるのは嫌だった。
でもアズーロにはロッソに嫌われてでもロッソに生きていてほしいという強い思いがあった。
アズーロは懐からツェッドの血が入った小瓶を取り出すと、ロッソのためだと思いっきりそれを叩きつけた。
パリン、という音と共にツェッドの血が広がる。
途端、アズーロは外に叩きだされ意識を失った。
「ロ……アズーロ! アズーロ!」
「ん……んぅ……ロッソ……?」
「目が覚めたか」
ツェッドは意識を失ったアズーロをログハウスのリビングに横たえた。
そのアズーロの身体をロッソが揺する。
暫く揺すっているとアズーロが意識を取り戻した。
それに対してツェッドが目が覚めたかと尋ねると、アズーロは思いっきり飛び起きた。
「ツェッドお兄さん! 俺上手く出来ごふっ!」
「アズーロの馬鹿!!」
起き上がったアズーロをロッソは思いっきり殴った。
その威力は凄まじくアズーロは壁に吹っ飛んだ。
ロッソの鍛えてあるとはいえ細腕のどこからそんな力が出るのか、とツェッドは不思議に思った。
「アズーロの馬鹿! なんで僕の代わりに生贄になってるんだよ!」
「お前を死なせないためだよ! ツェッドお兄さんが力を貸してくれたんだ!」
「そんなことのために蛇神様を殺すとか馬鹿なんじゃないの!!」
「そんなこととはなんだ! 俺はお前に死んでほしくないんだよ!」
「僕だってアズーロに死んでほしくないよ!! でも加護を失った世界じゃ……」
ロッソとアズーロが掴みあいながら言い合いをしているのをツェッドは友愛があるからこそだよな、と思いながら見守っていた。
しかし加護を失った世界じゃどのみち死んじゃうよ……とロッソが言うとアズーロも黙ってしまった。
「衰退していくのをただ受け入れるだけなのか?」
ツェッドがそう言うとアズーロはハッとした顔をした。
「!! そうだよロッソ!! 加護が無くても生きていけると俺達で証明しよう!」
「でもどうやって……」
「わからない! けど何かあるはずだ!!」
「アズーロ……アズーロが言うならそうかもしれないね」
一緒に探そう! うん! と会話している二人を見ているとツェッドの身体が段々透けていった。
どうやらこのアンナリ・パッラはここで終わりらしい。
透けていくと同時にアズーロとロッソの記憶から消えたのかこちらに一切気づかない二人にツェッドはいいものを見せてもらったというとアズーロにかけていた髪色と瞳の色を変える魔法を解いた。
段々二人の声が聞こえなくなり意識がグッと引っ張られるのがわかる。
そしてぐるりと視界が暗転したと思ったらツェッドは店のテーブルに突っ伏していた。
「無事ご帰還なされたようで何よりです」
「ああ……また利用させてもらう」
ツェッドの言葉にカイトはそれはそれはと言うとにっこり笑ってまたのご利用お待ちしておりますといった。
椅子から立ち上がり店を出ようとするツェッドに外套を被り紫色のワンピースを纏った人物が話しかける。
「ねぇ、貴方は何を見てきたの?」
「愛を見てきた」
ツェッドはその人物の質問に不思議と嫌な気分はせず答えると店を後にした。
ツェッドが次の愛を求めて店を尋ねるのはそれから一か月後の話。
第一章サクリフィチオ編完結です。第二章はツェッドがもっと社会的な愛に触れる話……。




