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国王ジャイロ

 ヴェルデはその男に対し臣下の礼を取り、観客と化していた一般兵達も臣下の礼を取っていたのでこの男の身分が伺い知れる。


「ああ、そんなにかしこまらないでくれ。覗き見していたのは私なんだから」


「そういうわけには行きませんジャイロ様」


 王族だろうとは思っていたがこの穏やかそうな男がジャイロだとは。

 ツェッドは早々に核となる二人が揃ったことに目を細めた。


「見事な剣技だったよ二人とも。ツェッド殿に関しては流石と言える」


「有難きお言葉」


「もったいなきお言葉でございます陛下」


 ツェッドはこの国の民でもないし臣下でもないため礼は取らなかったが軽く頭を下げた。

 普段のツェッドを知っている人物がいたら目を疑うだろう。

 ツェッドも普段ならどんなに偉い人物が来ても頭を下げたりすることは絶対しないが、核となる人物に嫌悪感を抱かれたら求めているものが手に入らないと思ったため頭を下げただけだ。


「明日は野外演習だったね。これはそれを踏まえての訓練かな」


「まぁそのようなものです」


 ツェッドはヴェルデが身の程を知らず加勢に入ると言ったからわからせただけだ、と言いたかったがそれを言うと騎士団からもジャイロからも反感を買うだろうと思い言葉を濁した。

 ヴェルデはそんなツェッドにツェッドさんはモンスターのことを兵士に知らせないで咄嗟にどう判断するか見たいのだなと勘違いし、ジャイロにだけは伝えておかねばと口を開いた。


「陛下、ご報告がありますので御耳を拝借する無礼をお許しください」


「かまわないよ。僕とヴェルデの仲じゃないか」


 ヴェルデはジャイロから許可を得ると耳打ちをした。

 ヴェルデからモンスターのことを聞いたジャイロは大丈夫なのかい? と問いかけた。

 それに対しヴェルデは高難易度のモンスターはツェッド殿が対処してくれますし、何より陛下の騎士団を信じてくださいと返した。

 これらの会話は全て小声で行われており一般兵たちが気付く様子はない。

 ツェッドはその類まれなる身体能力によって会話を聞き取れていたが。


「やっぱり陛下には団長が相応しいよなぁ」


「あの二人幼馴染なんだろう? お似合いだよなぁ」


 上の階にいる兵士からそんな声が聞こえてくる。

 こちらも小声だがツェッドには問題ない。

 お似合い、ということは恋人にふさわしいと判断されているということだろうか。

 ツェッドが見た限りヴェルデとジャイロとの関係は主従のそれにしか見えない。

 しかし外から見ればジャイロの恋人、即ち王妃に一番近いのはヴェルデと言うことなのだろう。

 ツェッドはそのことを踏まえて次のことを思った。

 それは王妃の座を狙っている者からしてみればあまりよろしくないんじゃないのか。

 ヴェルデの死を望む者は多そうである。

 ツェッドほどの実力はないにしてもヴェルデは相当の実力者だ。

 そのヴェルデが死んだらスタンピードを止められない可能性もある。

 即ち、この世界はヴェルデが死んだことにより滅びたのか……?


「ツェッド殿、ヴェルデと騎士団をよろしく頼むよ」


「承りました」


「陛下、陛下の騎士団は信頼してくださらないのですか?」


「そういうわけじゃないのはわかっているだろう。信頼しているよ我が騎士」


 そんなことを考えているとジャイロからヴェルデと騎士団を任されてしまった。

 ヴェルデはジャイロの言葉にム、とした表情をするとジャイロに詰め寄った。

 ジャイロはそんなヴェルデに笑みを浮かべながら信頼しているよとヴェルデの頭を撫でた。

 幼馴染、と言われればそうとれる関係性なのかもしれない。

 生憎ツェッドには幼馴染がいたことが無いから幼馴染がどういったものかわからないが。


「それでは我が騎士団の諸君、明日の演習頑張ってくれたまえ」


「「「はっ!!」」」


 ジャイロはそう兵士達に激励の声をかけるとツェッドに小さく手招きをしながら去っていった。

 ツェッドは用があるなら口で言え、と思いながらもジャイロの後を着いていく。

 ジャイロは宿舎から兵舎へ、兵舎から王宮へと移動すると明らかに人気が少ない裏庭で立ち止まった。


「ここは僕の秘密の場所でね。そこに椅子があるから座ってくれないかい?」


「陛下と同じ席に着くわけには……」


「気にしないでおくれ。ここには誰もいない」


 ヴェルデとも昔よくここで遊んだんだ、とジャイロはいいながら椅子に座った。

 ツェッドも本人が良いと言うならと向かいの椅子に座る。


「ヴェルデは強いだろう? ツェッド殿に比べたら弱いかもしれないが」


「そうですね……普通の人間にしては強い方だと思います」


 ツェッドの言葉は本音だった。

 ヴェルデは今までツェッドが出会った人族の中でも一番に入るほど強かった。

 これ程の人材がツェッドの世界にいないのが惜しまれる。


「ヴェルデはね、小さい頃まだ継承権も低い私に騎士の誓いをしてくれたんだ」


「はぁ」


「ヴェルデは昔から正義感が強くて……」


 そこからはヴェルデの話一色だった。

 曰く、ヴェルデは昔から運動神経がよく、王位継承権が四位だったジャイロとよく遊びまわっていたとか。

 騎士の家系故に正義感が強く、王位継承権四位故軽んじられていたジャイロの境遇に怒ってくれたこと。

 十年ほど前ジャイロの兄が不慮の事故で亡くなった。

その事故に当時十代だったジャイロの関係が疑われた。

そのとき必死に無罪の証拠を見つけ出してくれ、事故は本当に事故だったと証明されたたことなど。

 ジャイロがヴェルデのことをいかに大切に思っていることを語られた。


「陛下は……」


「ん? なんだい?」


「陛下は、ヴェルデ騎士団長のことが女性として好きなのですか?」


 ツェッドはジャイロがあまりにもヴェルデの話をするのでヴェルデのことが好きなのでは? と思い問いかけた。

 その問いにジャイロはキョトンとした表情を浮かべると声を上げて笑い出した。


「ハハハ、僕とヴェルデは主従でしかないよ。ヴェルデには幸せになって欲しいとは思っているけどね」


 それこそツェッド殿のような御仁だったら安心なんだがというジャイロにツェッドは恐れ多いですよ、と断った。

 それに対しジャイロは冗談だよと言うとでもね、と言葉を続けた。


「恋愛感情はないけれどヴェルデは僕の大切な臣下だ。そんな彼女をツェッド殿に任せたい」


「……承りました」


 要するに明日の野外演習で怪我をさせるなってことかと思いながらツェッドは頷いた。

 ジャイロはツェッドが頷いたのを見てじゃあ頼むよと言って椅子から立ち上がって王宮へと去っていった。


「明日の野外演習、思ったよりも面倒なことになりそうだな」


 ツェッドはため息をつくと椅子から立ち上がり宿舎にある自室に戻った。

 明日の野外演習が面倒なことにならないことを祈りながら。

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