【最終話】不遜な龍人は、愛と共に歩む
カイトが居なくなったことでラドは力が入るようになったのか、ツェッドの腕から離れよろよろと立ち上がった。
「店主さん、いなくなっちゃった……」
「ラド、俺は店主だけじゃない。多くの人間に恨まれていると思う」
ブローチを拾い握りしめるラドにツェッドは声をかけた。
ラドはツェッドが何故今それを言うのかわからず不思議そうな顔を浮かべた。
「それでも俺は俺の罪を償いたいと思っている。多くの罵詈雑言を受けるだろう。さっきみたいに復讐もされるかもしれない。それでも俺は」
「旅に出るのね。贖罪の旅に」
ラドの言葉にツェッドはああ、と頷いた。
そして君が番になると言ってくれて嬉しかったとも。
「この旅に君を巻き込む訳にはいかない。だから」
「何言ってるの。何言われたとしても着いて行くわよ」
置いていくことになってすまない、そう続けたかったツェッドの言葉はラドに遮られた。
え、とツェッドが固まるとラドは当たり前じゃない、と腰に片手を当ててツェッドを指さした。
「貴方には私がどういう人間か知ってもらわなきゃならないの。そうして歩み寄るのが運命の番なんだから」
だから何が何でも着いて行くわよ、と言うラドにツェッドは笑いが抑えきれなかった。
ちょっと何笑ってるのよ、と怒るラドにツェッドはすまないと言って口を開いた。
「我が番殿は相当強いと知って嬉しくなってな」
そして時は冒頭に戻る。
贖罪の旅に出たツェッドとラドは様々な場所を巡り、多くの罵詈雑言や時には復讐ともとれる行いを受けてきた。
その道中で多くの傷を受けながらもツェッドとラドは出来る限り贖罪を果たしてきた。
そしてツェッドはかつて竜神と呼ばれるモンスターを倒した村に向かった。
その頃にはツェッドやラドの旅装束はボロボロだった。
カイトやジャスミンが眠るブローチはラドの胸につけられていた。
村は土地が乾燥し、井戸は枯れ、空もどんよりとした雲がかかっているというありさまだった。
そんな中でも何かできることはないかと探していたら、一人の少年が黙々と畑を耕しているのが見えた。
「君は俺に恨み言は無いのか」
ツェッドがそう問いかけると少年はふるふると首を横に振った。
「むしろ感謝してるくらいだよ。あんたが竜神様を殺してくれたおかげで俺の妹は生贄にならずに済んだ」
だから、俺ができる事はいち早く土地が再生するように耕すだけさ、と言う少年にツェッドは膝から崩れ落ちそうになった。
それをラドが横から支える。
先述した通り贖罪の旅で予想はしていたが、罵詈雑言や復讐されることはあっても感謝される事は無かった。
ツェッドは少年の言葉に最初に旅をしたサクリフィチオを思い出した。
アズーロとロッソも蛇神がいない中世界が滅びないよう頑張ろうとしていた。
この兄妹にも愛があるのだろう。
ツェッドの知らない美しい愛が。
ラドはツェッドの考えを読んだように美しい兄妹愛だわ、と呟いた。
「お兄さん達、村の皆に石を投げられてボロボロだろ? 俺の家は村から離れているから少し休んでいきなよ」
「ありがとう。優しい子ね」
「ああ、でもその前に……」
少年の申し出を受ける前にツェッドは残った右腕を大地に翳した。
溢れ出した魔力は、荒れ果てた土を優しく解きほぐし、村中の畑に命の寝床を整えていった。
これが贖罪になるかわからない。
けれど村人たちの足が一歩でも進むことを祈って。
「これ、お兄さんがやったの!? すごいね!!」
「大したことじゃない。俺の罪に比べれば」
ツェッドがそう言えばラドが背中を叩いた。
「だから、俺にとってお兄さんがやったことは罪じゃ無いんだけどな。悲観的なお兄さんだなぁ」
「彼、昔は俺様でどうしようもなかったのに、素敵なものを知ってごめんなさいって謝りに行く旅に出たとたん卑屈になっちゃったの。もっと言ってやって」
ラドと少年がこそこそ話しているのが聞こえ、ツェッドは聞こえてるぞとぼやいた。
少年は素敵なものって? とラドに問いかけたがラドは君もいずれ解るよと言って笑った。
「まぁいいや、悲観的なお兄さんと綺麗なお姉さん、俺の家はこっちだよ!」
「綺麗なお姉さんだってツェッド!」
「よかったな」
畑の土は耕したものの、相変わらず大地は乾燥し、井戸も枯れている。
けれど少年のように諦めない存在がいる限り土地は再生していく。
「悲観的なお兄さーん! こっちこっち」
「ほらほら、早く行くよ悲観的なお兄さん?」
「悲観的なお兄さん言うな……!」
拗ねた! とラドと少年の笑い声が村に響く。
そんな三人の足元の畑には小さな芽がひょっこりと顔を出していた。
終章閉幕です。ツェッドと巡る愛の旅はいかがだったでしょうか?




