純愛
「大丈夫か」
「ツェッド……マジェンタが……彼女が……生まれ変わっていたよ……」
「そうだな。お前のことだからいきなり押し付けるものだと思っていたが」
シアンは涙を零しながらマジェンタが生まれ変わっていたことを喜んだ。
ツェッドはシアンがどれだけマジェンタの生まれ変わりに希望を持っていかを知っていたため、生まれ変わりを見つけたら相手の意志関係なく押し付けると思っていた。
「そんなことはしないよ。彼女は恐らく百歳くらいだろう……つまり百年分僕の知らない歴史があり、積みあがった性格があるんだ」
それを無視したら運命の番なんて言えないよ、とシアンは言う。
ツェッドはそういうものなのかと思いながらこれからどうするんだと問いかけた。
「暫く彼女の喫茶店に通うかな。彼女が好きだった花を持って」
「それは押しつけと違うのか……?」
ただ相互理解するだけだよ、と笑うシアンに仄暗いものを感じながらツェッドはそうかと答えた。
路銀は今までの依頼で稼いだものがあるし、この宿屋の価格はそこまで高くないから一年は余裕で居られるだろう。
足りなかったら近くの街のギルドで依頼を受けるだけだ。
シアンはいつ泣き止んだのかきりっとした顔で彼女が好きだった花が咲いているか探してくる、と部屋を出て行った。
そうしてシアン曰く相互理解が始まった。
「シアン、ツェッドさん! いらっしゃい!」
「やぁマジェンタ。よかったらこれを君に」
「わぁペチュニアね! 私この花好きよ! ありがとう!」
初日、シアンは一人じゃ心細いからとツェッドを連れて喫茶店に来訪した。
マジェンタが好きだった花――ペチュニアは生まれ変わったマジェンタも好きだったらしく、可愛らしく顔を綻ばせた。
「シアンとツェッドさんは旅人なんでしょ? どれくらい旅をしてきたの?」
「さぁ……ざっと数百年と言った所かな」
数百年! と驚いたマジェンタは珈琲を出しながらどんな景色を見てきたの? と問いかけてきた。
その質問にシアンは少し言葉に詰まった後、そうだね、じゃあ砂漠に咲く一輪の幻の花の話をしようかと話し始めた。
あれはツェッドとシアンが旅をし始めて最初の頃の話だ。
マジェンタは花が好きだったから最初は美しい花が見たいと言うシアンの希望に沿って、ツェッドが依頼を受けた時に聞いた砂漠に咲く一輪の幻の花を提案したのだ。
その花は晴れている夜かつ気温が低い時にしか咲かず、それも広大な砂漠の中で一輪しか咲かないというものだった。
ツェッドとシアンは何日も砂漠を彷徨い、ようやく高台に咲いているその花にお目に掛かれたのだ。
その花は半透明の白い花で、淡い光を放っていた。
その光景が月明かりに照らされてとても幻想的だった。
と言う話を前世のマジェンタの所をぼかして話せば生まれ変わったマジェンタは素敵ねと微笑んだ。
その顔が前世のマジェンタと全く同じでシアンはぽろりと涙を零した。
「どうしたの? どこか痛いの?」
「いや……そうではないんだ……ただ……懐かしくて……」
ボロボロと涙を零すシアンにマジェンタはハンカチを差し出しながら仕方ない人ね、と呟いた。
「やっぱりシアンは泣き虫なのね……本当に変わらない……てあれ? シアンと会うのは二回目のはずなのに何言ってるんだろ私」
変だね、と言うマジェンタにシアンはいや、そのままでいてくれと願った。
きっとマジェンタは意識下でシアンのことを覚えているのだ。
これは思い出すのも意外と早いかもしれないなとツェッドは思った。
マジェンタが前世の記憶を取り戻したのはそれから一年後だった。
それまで二人は互いに距離を詰め合い、恋人と言っても嘘ではないほど親密になっていた。
そんなある日シアンがいつものように話をしている時に口を滑らしたのだ。
それはマジェンタとの思い出の花園について話している時だった。
「ペチュニアが一面に咲き誇っている景色を見て私は泣いてしまったんだ。その時君は『泣かないで』と言ったんだ」
シアンの言葉を聞いてマジェンタの中である記憶が蘇る。
嵐の音、割れる小瓶、苦しい呼吸、ベッドの中でシアンと抱きしめあった感触。
その全てを思い出した時マジェンタは前世の記憶を取り戻していた。
「シアン……私思い出したわ……。貴方は私との約束を守って沢山の美しい景色を見てきてくれたのね」
「マジェンタ……! 本当に……!?」
マジェンタはええ本当よ、と言ってシアンを抱きしめた。
ツェッドはその光景を見て愛が繋がったと感じた。
「ああ泣かないでシアン。泣き虫な所は本当に変わってないんだから。約束を守ってくれて、私の百年を無視しないでくれてありがとう」
「そんなのお安い御用だよ……! 僕にとっては人族のマジェンタもエルフのマジェンタも等しく大切な存在だから……!」
「そうね。そういう貴方だからこそ私は貴方を愛してるのだわ」
ツェッドは幸せそうに口付けを交わす二人を見てツゥーっと一筋の涙がこぼれるのを感じた。
それは死別を超えてなお愛し合う二人を見て、真実の愛とはこういうものなのだと理解した涙だった。
ツェッドは誰にも見られないうちに涙を拭うと、自分も誰かに愛されてみたいと思った。
その時グイッと意識が引っ張られる感覚がした。
久しく感じてなかったその感覚に今回はもっと二人を見ていたかったなと思いながらツェッドは意識を手放した。
第七章閉幕です。残りは終章。七つの世界を巡りツェッドが抱いたものとは……。




