数百年の旅、約束の景色
数日後、マジェンタが好きな花が咲き誇る丘に埋葬が終わった後ツェッドはシアンに依頼をされた。
「旅の同行?」
「ああ、僕は心が弱いから……マジェンタの願いを叶える前に死んでしまうかもしれない。だから僕の監視を含めて旅に同行してほしい」
謝礼は払えないんだけど……と困ったように笑うシアンにツェッドはいいぞ、と返答を返した。
この世界のツェッドなら断るわけないし、何よりまだ意識を引っ張られる感覚がないということはまだこの世界は終わっていないのだ。
ふとこの世界は滅んでいるのだろうかと言う疑問がツェッドの頭の中に過る。
自分達が生きている並行世界と書いてあったが、世界が滅びているかどうかは明記してなかった。
並行世界が滅んでいたら自分達の世界にも影響があるのではないだろうか。
「ツェッド? おーいツェッド?」
「あ、ああ悪い考え事をしていた」
「本当かい? どこか体調が悪いとかじゃないんだね?」
シアンの問いかけにツェッドはああと頷く。
その後シアンにいつから旅に出るんだ? と問いかけた。
「色々準備があるから一か月後かな。ツェッドも準備が必要だろう?」
「ああ。わかった」
生まれ変わりを待つということはかなりの長い年月を旅することになる。
道中各ギルドで依頼を受ける必要もあるだろう。
それにはギルドに申請しなければならない。
超級であるツェッドはそれなりに柵が多い。
街を移動しながら依頼を受けるとなるとそれなりに手続きが必要だ。
一か月後、ツェッドとシアンは旅立った。
そして旅の途中で多くの美しいものを見た。
砂漠に一夜だけ咲く幻の花、氷の大地、極北のオーロラ、雲海から昇る太陽など色々なものを。
シアンは事前に行っていた通り何度も心が折れかけた。
「こんな美しいものをマジェンタは見れないで死んだんだ……」
「それを語るために旅をしているんだろうが」
その度にツェッドが喝を入れ共に美しい景色を見た。
美しい景色はツェッドの心にも影響を与えた。
こんな景色を伝えられる相手がいるってどんな素晴らしいことだろうと。
そんな思いを抱くのはお人好しのツェッドとしての一面か、それともツェッド自身の心の変化かわからないが、確かに影響を受けたのだ。
そして旅を始めて数百年の時が流れた頃、とある村で一人のエルフの女性に出会った。
「……!!」
「シアン?」
その女性はマジェンタより明るい赤い髪に薄緑の瞳をした優し気な顔立ちのエルフの女性で、その女性もシアンと出会った時に何かを感じたのか目を見開いてシアンを見ていた。
「この匂い……運命の番……? 本当に居たんだ」
「君の名前は……?」
エルフにしては幼い少女(といっても十代後半くらいだから百歳くらいか)は、シアンを見て運命の番だと呟いた。
シアンはその反応に少女が前世の記憶を持っていないのを察したのか少し悲しげな顔で少女の名前を尋ねた。
「私の名前? マジェンタだよ! 貴方は? もしかして……シアン、さん?」
「!! 君、前世の記憶が……!?」
「いや、無いんだけど……貴方を見ていると不思議とこの名前が浮かび上がったの」
シアンは少女の名前と自分の名前を当てられたことに一瞬喜んだが少女の言葉にそうかい、と微笑んだ。
少女――マジェンタは不思議そうにシアンを見上げる。
「不思議……シアンさんのこと何も知らないのに何だか懐かしい気がするの」
「できれば僕のことはシアンと呼んでくれないかな。君はこの村で何をしてるんだい?」
シアンの問いにマジェンタは喫茶店だよと答えた。
ツェッドは運命の番に出会ったらシアンはぐいぐい行くと思っていたので、意外そうに事の成り行きを見守っていた。
「マジェンタ、君の店に通ってもいいかな?」
「勿論! むしろ通ってくれたら嬉しいわ!」
「ツェッド、そういうわけだから僕はここに留まるけど君はどうする?」
「俺もここに留まるよ」
お前たちの行き先を見たいからな、とツェッドは思いながらマジェンタに宿屋の場所を聞いた。
マジェンタは宿屋の場所を快く教えてくれ、ついでに(というか彼女的にはこっちが本命か)喫茶店の場所も教えてくれた。
「ありがとう。君は突然運命の番が現れて戸惑っているだろうけど、押し付けるつもりはないから安心して」
「う、うん……シアン、もしかして私の前世を知ってるの? さっき前世の記憶って言ってたけど……」
「それは内緒かな」
シアンはマジェンタの頭を軽く撫でると僕達は宿屋に行くよと言った。
マジェンタは待ってるから! といってツェッド達を見送った。
宿屋について部屋に入るとシアンはボロボロと泣き崩れた。




