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エルフと人族の「番」

「重度の紅斑病であることはマジェンタに伝えたのか」


「まだ伝えていない……でも聡い彼女のことだ、理解しているのかもしれない」


「とりあえずマジェンタの元に行くぞ」


 マジェンタが理解していたにせよしてなかったにせよ、高熱を出している彼女を放っておいてここで話し込んでいる場合じゃないだろう、そう思ってツェッドはマジェンタに貸している客室に向かった。

 ツェッドが二人を拾って二週間、その時点で重度の紅斑病と言うことは兆候はもっと前からあったのだろう。


「マジェンタ、入るぞ」


「ツェッド、さん……シアンも……また、泣いていたのね」


 マジェンタの部屋に入ると、丁度マジェンタが身体を起こそうとしていた。

 それをシアンが慌てて駆け寄って止める。

 マジェンタは赤い髪にシアンと同じ緑の瞳で優し気な顔立ちが特徴的な女性だった。


「マジェンタ、安静にしてなきゃだめだとお医者さんにも言われてただろう?」


「今日はいつもより調子がいいの。本当よ?」


 マジェンタの顔色を見ると熱は出ているのだろうが、そこまで酷くないことが察せられた。

 マジェンタはシアンに頼んで水差しから水を汲んでもらうと、その喉を潤した。


「それでシアン、お医者様はなんて言っていたの?」


「そ、それは……」


「人族特有の病気だと言っていたそうだ」


 動揺するシアンをフォローし、治るか治らないかはお前次第だそうだ、とツェッドは嘘をついた。

 本当のことを伝えるのはシアンの役割だと思ったから。

 マジェンタはツェッドの言葉を聞いてそう、治るのね私と安堵したように微笑んだ。

 その表情に涙を隠せないのはシアンだ。


「シアン、どうして泣いているの?」


「き、君が治るのが嬉しくて……」


「本当に泣き虫ね。そんな所も可愛いのだけれど」


 シアンの上擦った声に何かを悟ったのかマジェンタがツェッドに目配せをしてくる。

 その目配せの意味が二人きりにしてほしいのだと悟ったツェッドは、静かにマジェンタの部屋を出た。

 そして気配を消してドアの前に佇む。

 盗み聞きするようで悪いが、ツェッドはこの二人から目を離したくなかった。

 今回の核になる人物はこの二人だろうから。

 二人きりになった部屋でマジェンタはねぇ、とシアンに声をかけた。


「どうしたんだい? あ、タオルが温い?」


「お医者様は、本当は何て言っていたの?」


 ガタっと何かが落ちた音がした。

 恐らくシアンが動揺してタオルを落とした音だろう。


「貴方の顔色的にツェッドさんが言っていたのは半分本当で半分嘘ってとこかしら」


「そ、そんなことないよ……」


「シアン、私解っているのよ。私は重度の紅斑病なのでしょう?」


「!!」


 シアンが息を飲む音が聞こえた。

 そんなシアンにやっぱりね、とマジェンタは言った。


「私。死ぬのね……愛してる貴方を置いて」


「い、やだ……死なないでくれ……マジェンタ……!!」


 ドサッとシアンが崩れ落ちる音がする。

 恐らくシアンがマジェンタに抱き着いたのだろう、ぎゅっと衣擦れの音が聞こえた。


「泣かないで愛しい貴方。残り少ない命なら笑っている貴方が見たいわ」


「マジェンタ……! 愛してる……! 本当に愛してるんだ……!」


「わかってるわ。私もシアンのこと愛してる」


 ツェッドはそこまで聞いて扉から離れた。

 番同士という物はあんなにも愛し合うものなのかと思いながら。

 ツェッドはキッチンに移動すると三人分の食事を作り始めた。

 時刻は夕方、勿論マジェンタには病人食だ。

 隻腕での料理も慣れたもので程なくして夕飯が出来上がった。


「ツェッド、頼みがあるんだ」


 夕飯を食卓に並べていると泣き腫らした顔をしたシアンが降りてきた。

 その目には覚悟が宿っていてツェッドは何となく想像がついていたことを口にした。


「なんだ? 目玉が欲しいのか?」


 龍人族の目にはどんな病も治す力がある。

 ツェッドが右目を差しながらそう言うとシアンは首を横に振った。


「君から視力を奪ったと知られたらマジェンタに怒られてしまう」


「じゃあなんだ」


 ツェッドは目玉が欲しいのではないのでは何が用なんだとシアンに問いかける。

 シアンはツェッドの問いに懐から数本の毛髪を取り出した。

 その毛髪は赤く、マジェンタのものだと察せられる。


「それは?」


「マジェンタの髪だ。龍人族の髪には対象の髪と組み合わせると対象と同じ寿命になると聞いたことがある」


「……マジェンタと共に死ぬ気か」


 確かに龍人族の髪を魔法を使って組み合わせると対象の寿命と同じにできる薬が出来上がる。

 それを使って心中するつもりかと問いかければシアンはコクリと頷いた。

 そんなシアンにとりあえず座れと椅子を勧めながらツェッドはふむ、と考え込んだ。


「……そういえばお前達が何故行き倒れていたのか聞いてなかったな」


「そういえばそうだったね。薬を作ってくれるなら何でも話すよ」


 シアンは椅子に座りながらそう言った。

 ツェッドはわかったと薬を作ることを了承すると話すようにシアンに目配せをした。


「ありがとう。エルフと人族の仲が悪いのは知っていると思う」


 シアンはツェッドの返事に笑みを浮かべると話し始めた。

 確かに森を愛するエルフと、その森を開拓する人族は仲が悪い。

 だからこそツェッドもエルフと人族の番と言う組み合わせに最初は驚いたのだ。

 シアンは語る。

 これまでのことを。

 シアンとマジェンタはその中でも特に確執が深い地域で生を受けた。

 シアンがマジェンタに出会ったのは今から十数年前、マジェンタが十歳の時だった。


「僕とマジェンタは境界の川で出会ったんだが最初は戸惑ったよ」


 まさか魂の片割れともいわれる番が人族だなんて、とシアンは言う。

 その言葉にツェッドは番だからと言って無条件に惹かれあうわけでは無いのかと思った。


「マジェンタも僕が番だとわかっていたのだと思う。相当困惑した表情をしていたからね」


 それから二人は人目を忍んで密会を始めたのだと言う。

 最初は何で人族の娘に、と思っていたシアンもマジェンタの人柄に触れるにつれて段々惹かれていったそうだ、


「初めて彼女を抱きしめた時無意識に開いていた穴が塞がった様な感覚がした」


 互いの恋心を自覚した二人はそのまま逢引を続けていたのだと言う。

 しかしマジェンタが二十歳になったころその様子を同胞のエルフに見られてしまう。

 当然糾弾を受けたシアンはマジェンタの手を取り駆け落ち同然で、今まで過ごしてきた集落を抜け出したのだと言う。

 そして旅を続けていくうちに路銀が尽きて、行き倒れていた所をツェッドが拾ったのだそうだ。


「君には感謝してるよ。どこに行ってもエルフと人族の番は奇怪な目で見られるから」


 何も言わずに受け入れてくれたことを感謝しているのだとシアンは言う。

 それはこの世界のお人好しのツェッドがやったことだ、と言いたくなったがこの世界にいるのはお人好しのツェッドなのだから言ってもわからないだろう。


「薬の件、よろしく頼むよ。わぁ、今日の晩御飯も美味しそうだ」


 シアンはマジェンタの髪をツェッドに預けると、少し冷えた夕飯に手を付けた。

 ツェッドはマジェンタの髪を受け取ると懐に入れ、シアンと同じく夕飯に手を付けた。

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