第六章~アモーレ・エ・オーディオ~
「ねぇツェッド! なんでよ!」
「うるさい。お前には関係ない」
三週間前、ツェッドは今まで関係を持っていた女性との関係を全て切った。
中には冒頭の会話のように縋るものもいたがツェッドは取り合わなかった。
なぜなら今まで好きと言う感情もなく、ただ性欲を満たすためだけに身体を重ねていた自分に吐き気がしたからだ。
今まで関係を持っていた女性達はツェッドのことを好きだと言っていたが、それは純粋に力とツェッドの容姿に惹かれていただけと言うのが、片目になってよくわかった。
女性達は皆、片目のツェッドに心配する訳ではなく戦えるのかと問いかけるだけだったから。
当時のツェッドはそれでも気にしなかったが、オロとマローネの恋愛に触れてからそれがとても空虚に思えた。
故に女性関係を清算した。
このことはあの傍若無人のツェッドが女を切り捨てたらしいと噂になるがツェッドは気にしなかった。
女性関係を清算して、いくつかの依頼を受け三週間が経った後ツェッドはカイトが経営する記録屋に六度目の訪問を果たした。
「いらっしゃいませ、女性関係を清算したとここまで噂になっていますよ」
「うるさい。関係ないだろ」
カイトの良い影響を受けているようで何よりです、と言った生暖かい視線に耐えられずツェッドはぶっきらぼうにそう返しながらいつもの席に座った。
カイトは珈琲をツェッドに出した後、アンナリ・パッラを選ぶためにアンナリ・パッラと向かい合った。
「……おい、ここは希望の世界を選べるのか」
「? はい。可能な限りお客様の希望の世界をご提供いたしますよ」
今までもそうだったでしょう? と言いたげなカイトにツェッドは言葉を詰まらせた。
ツェッドは確かめてみたいものがあった。
「今日は……できれば醜いやつが良い」
「それはまたどうして?」
ツェッドはこれまで五度愛について触れてきた。
そのどれもが尊く、美しかった。
けれどツェッドは知っている。
世の中には綺麗なだけなものなんて存在しないということを。
だからより理解を深めるために醜いやつが良いと言ったが、醜い愛が何を指すのかツェッドにはわからない。
カイトは黙ってしまったツェッドにふむ、と考え込むと数あるアンナリ・パッラを見渡す。
「醜い愛、ですか。……いいですね。愛ゆえに狂い、愛ゆえにすべてを焼き尽くす。そんな感情ほど、純粋で美しいものはありません」
カイトは珈琲を出しながら、独り言のように続けた。
「奪われた者が、奪った者に報いを与える。……それもまた、一つの完成された愛の形だとは思いませんか? ツェッドさん」
「俺にはまだわからない」
カイトの問いにツェッドは首を横に振った。
カイトはそんなツェッドに余計な口出しをしましたというと一つのアンナリ・パッラをツェッドの前に差し出す。
「望むものかどうかわかりませんが、これがぴったりだと思いますよ」
「ありがとな」
ツェッドはカイトに礼を言うとアンナリ・パッラに手を翳し、いつもの通り意識を手放した。
そんなツェッドにこちらもいつものごとく近寄る女性が一人。
外套を被りオレンジのワンピースを身に纏ったその女性は、カイトから出された珈琲を飲みながら口を開いた。
「こいつ、ここに通い始めてから女遊びもしてなかったけど、依頼以外のモンスター狩りもしてないのよ」
勿論喧嘩もね、と言う女性の声には棘が無く、カイトはそこまで影響を与えているのなら滅びた世界も冥利に尽きるでしょう、と笑った。
「ねぇ、今度はどんな世界に行ったの?」
「愛憎が原因で滅びた世界、アモーレ・エ・オーディオへ」
愛憎、と女性は呟くとツェッドの頭を撫でた。
「今度の世界はこいつにどんな影響をもたらすかしら」
「さぁ、どうでしょう?」
女性がふと窓の外に視線を遣れば、ツェッドの命運を表すように曇天が空を覆っていた。
第六章開幕です。ツェッドはどんな愛を見、何を差し出すのか……。この章は全体的に短めです。




