【拒絶】選ぶ権利と「愛」の定義
「さて、と」
惚れ薬を作り終えたらマローネに脅迫状を送っている犯人探しをしなければならない。
ツェッドは後片づけを終えると犯人探しに向かった。
女子寮は入れないから移動教室の際に忍び込んだ犯人の目撃談を探さなければならない。
ツェッドは万年一位という肩書と二大公爵の息子という肩書二つを使って聞き込みをした。
するとある一人の候補が浮かび上がった。
ツェッドはその人物をマークしながら、動くならマローネとオロが勉強会をする日だろうと当たりをつけ泳がせることにした。
マローネとオロの勉強会が開かれたのはそれから一週間後だった。
ツェッドはオロに勉強会に行く前に自分の部屋に寄る様伝えた。
勿論惚れ薬を渡すためである。
オロと言えばツェッドに恋ではないのかと言われた翌日には自分の気持ちを整理していたのか、この一週間マローネのことを愛おしい者を見る目で見ながらいつも通りの生活をしていた。
そんなオロもツェッドに用があるようでツェッドの呼び出しに快く応えた。
「ツェッドー来たぞ」
「ああ、入ってくれ」
トントンと扉がオロの来訪を伝える。
ツェッドは中に入るよう促すとオロの向かいに座った。
「ツェッド、俺は今日お前に宣言しに来たんだ」
「宣言?」
オロはキリッとした顔でツェッドにそう言うと立ち上がった。
「俺は今日ベッロ嬢に告白する! 父上の許可も取った!」
「そうか。ならこれは餞別だ」
「ありがとうって驚かないのか? てかなんだこれ?」
ビシッとツェッドを指さして宣言するオロにツェッドは惚れ薬が入った小瓶を渡した。
オロは驚かれると思っていたのか拍子抜けた顔で小瓶を受け取る。
「ルチェンテッザ公爵は和平推奨派だからな。反対はしないだろうと思っていた。そしてそれは惚れ薬だ」
「惚れ薬!?」
オロの父親、ルチェンテッザ公爵は和平推奨派なため、マローネに告白するのを拒否しないだろうとツェッドは推測していたがその推測は当たっていたらしい。
その息子オロは突然渡された小瓶が惚れ薬と聞いて驚いた顔をした。
「惚れ薬ってあの惚れ薬!?」
「それ以外に何がある。ベッロ嬢は隣国公爵令嬢だ。これは……念のためだ」
「念のため?」
「使うかどうかはお前が決めろ」
まぁマローネがオロのことを悪く思っていないことは確かだが。
オロはツェッドの言葉にふるふると震えると小瓶を床に叩きつけた。
パリン、とガラスが割れる音が聞こえる。
「俺は使わない」
きっぱりとそう言って、オロは小瓶を床に落とした。
「好きだからこそ、選ばせたいんだ。薬でもなく、俺自身の力で」
割れた小瓶を見下ろしながら、ツェッドは思った。
ああ、そうか。
これは失敗だったのだ。
だが同時に、なぜ失敗だったのかが、少しだけ分かった気もした。
ツェッドは今までの恋愛(とも呼べない何か)で、押し付ける事しか知らなかった。
けれどそうでは無いのだ。
恋愛とは、押し付けるものではなく互いに選ばれるものなのだ。
「お前が惚れ薬とかを好まないのは知っている。長い付き合いだからな。ただ友人として応援の品を送りたかっただけさ」
ツェッドは自分が言ったことに若干鳥肌を立てながらオロの隣に行き、その背中を叩いた。
「ほら、ベッロ嬢との勉強会がそろそろ始まるだろ。行ってこい」
「ツェッド……! うん、俺頑張ってくる!!」
オロはツェッドに激励された(と勘違いし)と思い、うっすら涙ぐんだ後強引に涙をぬぐいツェッドの部屋を出て行った。
オロとマローネが勉強会をするのは奇しくもツェッドとマローネが密会した植物園の四阿だ。
ツェッドはオロが出て五分後にオロの後を追いかけた。
これから起こり得る悲劇を起こさないために。
それとどこか不器用な友人の恋路を邪魔させないために。
「御機嫌よう、ルチェンテッザ様」
「こんにちは、ベッロ嬢」
四阿ではオロとマローネの勉強会が始まった。
勉強会は順調に進み、一時間が経ち休憩を取ろうと言うところでオロとマローネの手が触れあった。
「「あっ」」
二人は触れあった手をぱっと離すと恥ずかしそうに目を伏せた。
しかしオロは今が好機と見たのか若干緊張した声でマローネの名前を呼んだ。
「ベッロ嬢」
「な、なんでしょう?」
「貴女に伝えたいことがあります。私は貴女のことが――」
オロが決死の告白をしている時ツェッドは一人の女生徒を取り押さえていた。
その女生徒は以前マローネに突っかかっていた女生徒の一人で手にはナイフを握っていた。
「放してくださいませ! 私はルチェンテッザ様をあの女狐から解放しなければならないのですわ!!」
「それは出来ない約束だな。お前はこのまま警備に突き出す。お前がベッロ嬢を脅迫していたという証拠もこちらにはあるんだ」
ツェッドはナイフを魔法で朽ちらせると、女生徒を風魔法で縛り上げた。
ツェッドの言う証拠、とはツェッドが犯人探しをしている時に脅迫状を作成しているのを見たという生徒の記憶をガラス球に閉じ込めた記憶魔法だ。
アンナリ・パッラと仕組みは似ているがこちらは一回見たら壊れてしまう物だ。
妖精族ではないツェッドにはアンナリ・パッラのような精巧に記憶を閉じ込める魔法は使えない。
まぁ国際問題に発展するから揉み消される可能性が高いが無いよりマシだろう。
「私も貴方のことを好ましく思ってますわ。その、殿方として」
どうやらオロの告白も上手くいったようだしツェッドは足早に警備に女生徒を突き出した。
するとグンッと意識が引っ張られる感覚がする。
どうやら今回はここまでのようだ。
身体がどんどん透けていくのがわかる。
ツェッドは結ばれた二人のことをもっと見たかったなと思いながら意識を手放した。
ツェッドが意識を取り戻すと最早お馴染みとなったカイトが目の前に居た。
「どうせ今回もあの世界は滅びるんだろ」
「ええ。貴方が一番の原因を排除しましたがあの二人のどちらかが殺され戦争が起こり、あの世界は滅びます」
残念ですか? とカイトに問われツエッドは少しな、と答えた。
以前のツェッドなら別に、と答えていたにも関わらず。
カイトと外套を被った女性はその些細な変化に気が付いた。
「おやおや今回もまた得難きものを得たようで何よりです」
「そうだな……好きだの恋だのくだらねぇと思っていたが……」
ツェッドはそこまで言いかけると喋りすぎたと思い何でもねぇ、と言葉を紡いだ。
しかしツェッドはオロとマローネの恋愛を見て今まで自分がしていた女遊びが如何に空しい物かを理解していた。
恋愛とはあんな風に幸せそうに笑うものなのだ。
ツェッドは女子生徒を突き出す前に見た二人の笑顔を思い浮かべながら立ち上がった。
そこに駆け寄る女性が一人。
外套を被り黄色のワンピースを纏った女性はツェッドにこう問いかけた。
「ねぇ、貴方は何を見てきたの?」
「愛を見てきた」
ツェッドは女性を優しく避けると店から出て行った。
ツェッドが女性関係を綺麗に清算したと言う噂が流れるのはこの数日後。
「あいつ、本当に愛を知り始めてるのかしら」
「そうであってほしいですねぇ」
貴女は彼が愛を本当に理解したらどうしますか? 以前に多様な問いを問いかけられた女性は少し考えてから以前とは違う答えを口にした。
「ツェッドが本当に愛を知ったのなら……私は、彼を受け入れるわ」
女性はそういうと珈琲を飲み干し店を出て行った。
「彼が愛を知ったら私は……」
カイトは女性を見送りながらそう呟くと窓の外に視線を向けた。
窓の外は嫌になるくらい晴れていた。
カイトは番であった女性のことを思い出し一人、雨が降ればいいのにと思った。
カイトは自身が身に着けているブローチに目を向ける。
そこにはかつて番であった女性の顔が浮かんでいるような気がした。
その願いがかなったのか三週間後、ツェッドが六度目の来店を果たした時は曇天が空を覆っていた。
第五章閉幕です。第六章はツェッドがある愛を叶える話……。




