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【不協和音】嫌味な二人と中庭の事件

 時刻は朝四時。

 十分早朝である。


「お、今日もやってるなツェッド!」


「オロ」


 鍛錬を開始し始めてから二時間、部活登校をする生徒が増え始めた頃この国の二大公爵の息子、オロがツェッドに声をかけた。

 オロがこの時間にツェッドに声かけるのはいつものことだ。

 ツェッドが鍛錬後にシャワーを浴び、そして一緒に登校するのが恒例になっている。

 オロの容姿は人目を引くため、部活登校をしている女子の目を独り占めしていた。

 本当は鍛錬しているツェッド目当ての女子もいるのだが鍛錬に集中しているツェッドはそれに気づかない。

 というか良い意味でも悪い意味でも目立つツェッドは人の視線を一々気にしたことが無かった。

 反対にオロは人の視線が気になるのか女子生徒達にウィンクをしたりしている。

 軽い男だ。

 ツェッドはそう思いながら稽古場に隣接されているシャワー場でシャワーを済ませるとオロの元へ向かった。


「ツェッド、おはよう!」


「朝から元気だな」


 ツェッドの姿を見るなり犬のように近づいてくるオロに何とも言えない気持ちになりながらツェッドは挨拶を返した。

 オロはそんなツェッドの態度に慣れているのか今日も格好良かったぜ! と言ってツェッドの肩を叩いた。


「まぁ俺には負けるけどな!」


「はぁ……馬鹿なこと言ってないで教室行くぞ」


 オロはつれないこと言うなよーと言いつつもツェッドに合わせて歩き出した。

 騎士科の稽古場から教室まで二十分程度。

 貴族科はクラスがA~Fまで分かれており、それにより階も違う。

 ツェッドやオロはAクラスなので五階だ。

 Aクラスは身分成績共に上位しか入れないクラスで、勿論交換留学生のマローネもこのクラスに所属する。

 即ち、教室にはいる時に出会うことが多いわけで……。


「おはよう。ベッロ嬢」


「御機嫌よう、コレガメント様」


 穏やかに微笑むマローネは美しく周囲からほうっと声が聞こえた。

 一人を除いて。


「やぁベッロ嬢。今日も素敵な微笑みだね」


「あらルチェンテッザ様、いらっしゃったのですか? コレガメント様に隠れてわかりませんでしたわ」


 訳:貼り付けた笑みが気持ちわりぃ。てか俺もいるんだが?

 訳:小さくて気づきませんでしたわチビ。

 と言ったところだろうか。

 二人は穏やかに微笑みながら視線をバチバチと交差させている。

 周囲は美男美女が微笑みあっていることにほうっとまた息をつくだけだが、内情を知っているツェッドから見ればなんで嫌いあっているのに絡むんだ……という気持ちで一杯である。

 まぁ仮にも冷戦状態の国の公爵家の娘と敵対しているところを見られたら国際問題に発展するからだろうが、如何せんこの二人は絡むことが多い。

 それもツェッドを巻き込んで。

 たとえば魔法の造形について実践する魔法造形学においても


「コレガメント様、救助用に小さいゴーレムを作ってみたのですが強度を見てくださいませんか?」


「ツェッド、救助用に丈夫なゴーレムを作ったんだが見てくれないか」


「あら、そんなに大きなゴーレム救助の妨げになるのでは?」


「そんな小さいゴーレムじゃ救助者を見つけられても助けられないんじゃないかい?」


 と片や小型ゴーレム、片や巨大ゴーレムを作ってはツェッドに強度の確認をしてきたり(因みにどちらも実運用には術者の能力にばらつきがあると実用不可のため採用されなかった。ツェッドは衝撃を与えると温かくなる火属性の水晶を作った)、経営学においても


「それだと民が苦労するだろうこれだから現地に行かない貴族はなぁツェッド」


「長い目で見ればこの政策は民の生活を充実させますわ。目先の利益しか見ない貴族は嫌ですわねコレガメント様」


 といったように必ずツェッドを間に挟んで嫌味の応酬をするのだ。

 間に挟まっているツェッドはもううんざりである。

 幸いなことは二大公爵の子息という身分だからか、公爵家のご令嬢や子息に挟まれているからなのか、他の人間は視線こそ向けてくるが話しかけてはこない。

 そんな日々を過ごしているある日、ツェッドとオロが中庭を歩いていると、人目が無い所から女生徒の声が聞こえてきた。


「……ですわ!」


 オロは女生徒の声を聴いて怪訝そうな顔をした。


「なんだ、喧嘩か?」


 ツェッドは面倒ごとの匂いがするので近づきたくなかったが案外正義感の強いオロは見逃せないのか、ツェッドを引っ張って人影の少ない方へ向かって行った。

 近づくと複数の女生徒が一人の女生徒を囲んでいるのがわかる。

 その女生徒は腰まで伸びた茶髪に緑の瞳が特徴のマローネだった。

 オロはマローネが絡まれているのを見て一瞬固まり、すぐに助けるのではなく少し様子を見ることにしたようだった。


「お前ならすぐ助けに行くものだと思ったが」


「しっ! だって普通の女の子なら別だがあのベッロ嬢に恩を売れるチャンスかもしれないんだぞ」


 女子生徒達に気づかれないように隠れながらそう会話するとオロは女子生徒達の会話に耳を澄ませた。

 ツェッドはそんな形で恩を売って嬉しいのか? と突っ込もうとしたが藪蛇になるのでやめた。


「貴方プロスペリタの公爵令嬢だからって生意気ですわよ!」


「いつもルチェンテッザ様とコレガメント様に囲まれて!」


 どうやら普段視線を送ってくる女子生徒達のやっかみのようだった。

 確かにツェッドもオロも容姿が整っている。

 身分も二大公爵家とだけあって見初められたい女性は多いだろう。

 だからといって冷戦状態の隣国の公爵家のご令嬢に喧嘩を売る精神は信じられないが。


「どうせルチェンテッザ様に惚れているんでしょう?」


「それともコレガメント様かしら? どちらにせよお二人のどちらかと結ばれるとは思わないことですわ!」


「!!」


 オロは自分の名前が出ると明らかに動揺した。

 自分が特定の女子と嫌味の応酬とは言え、会話するとどれだけの影響を与えるかわからないほど馬鹿ではないだろうに、まるで今気づいたかと言うように。

 それも冷戦状態の隣国の交換留学生かつ公爵令嬢に。

 自国の公爵令息と隣国の公爵令嬢が傍から見れば穏やかに話しているのを見て、勘ぐらない人間も少ないだろう。

 しかしこの男はその影響力に気づかなかったようである。

 ツェッドは学園長から直々に交換留学生の面倒を見るように言われた記憶にあったので多少なりとも影響はあるだろうなと思っていた。

 いつもツェッドを取り囲む女達も似たようなものだ。

 ……そういえば最近女遊びしてないな。

 ツェッドの意識が若干逸れた時笑い声がその場に響いた。

 笑い声の発生源はマローネで彼女は心底おかしいと言うように笑っていた。


「フフフフフフ、失礼、あまりにも可笑しなことをおっしゃるのですから」


「可笑しなことですって!?」


 マローネの嘲笑ともとれる笑いに周囲の女生徒はいきり立った。

 マローネはだってそうでしょう、と前置きして口を開いた。


「だってコレガメント様は学園長直々に私の面倒を見られるよう頼まれていたのは皆様もご存じでしょう? ルチェンテッザ様についてはあの方ほど私と勉学が張り合える方がいらっしゃらないからですわ」


「なんですって!?」


「ちょっと頭がいいからって生意気ですわ!」


「だってそうでしょう? これっでも私この国と冷戦状態にあるプロスペリタの公爵令嬢なのですけれど、このことが国にバレたらどうなるかも頭が回らない貴女方とお話していても楽しくありませんもの」


 確かに冷戦状態の隣国に出している交換留学生の公爵令嬢が、交換留学先でいじめられていると知られれば開戦のきっかけになっても可笑しくない。

 それが殺害されたとかになったら猶更。


「なっ……私達を脅しますの……!?」


「脅しと取るかどうかはそちらの判断にお任せしますわ。せいぜい足りない頭を使って精一杯考えてくださいまし。それでは御機嫌よう」


 マローネはそう言うと綺麗なカーテシーを決めて女子生徒達の前から去って行った。

 ツェッドは自分が関わらなくてよかったと思ったが、オロは違うようで俺ベッロ嬢を追いかけてくると呟いた。


「何でだ?」


「わかんねぇ……わかんねぇけど追いかけなきゃいけない気がする」


 オロは全てを言い切る前に駆け出した。

 ツェッドは覗き魔みたいになるが、これを見逃すと決定的な瞬間を見逃すような気がしてオロの後を追いかけた。

 きっと、これはツェッドが求めているもののパーツの一つになる。

 そう直感が囁いているのを信じて。

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