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第五章~ストーリア・ダモーレ~

「カイトさん、私と付き合ってください!」


「申し訳ありませんが私には番がいるので……」


「そう……ですか……すみませんでした……」


 ツェッドが厄介な依頼を片付けて店に向かうと、店先でカイトが告白されていた。

 妖精族のカイトは美青年だ。

 惚れられても仕方がない。

 カイトの歳がいくつかわからないが番がいてもおかしくはないだろう。


「番がいるのか」


「おやツェッドさん。ええ。とても強くて美しい番がいますよ」


 ツェッドはカイトの言葉にへぇ、と言うと店の中に入り定位置となっているいつもの席に座った。


「ツェッドさんは人を好きになったことが無いのですか?」


「無いな。好きだとか惚れただとかよくわからん」


 じゃあ今度はこの世界がちょうどいいかもしれませんね、とカイトはアンナリ・パッラを取り出した。

 そのアンナリ・パッラはピンク色を主体としていて見るからに恋とかに関係してそうだった。

 ツェッドは一瞬戸惑ったもののアンナリ・パッラに手を翳し、いつもの通り意識を手放した。

 そんなツェッドに近寄る女性が一人。

 外套を被り黄色のワンピースを纏った女性はツェッドの近くの席に腰かけた。

 カイトはその女性にいつものように珈琲を出す。


「こいつ、この間クーラ草を無料で取りに行っていたのよ」


「クーラ草を?」


 女性は珈琲を飲みながらええ、と頷いた。


「ギルドを介さないでツェッドに直接クーラ草を取ってきてほしいと頼んだ女の子がいたんだけど、最初は断ったのにこの店を出てから三日後にはクーラ草を女の子に渡してたわ」


「アンナリ・パッラは彼に着実に影響を与えているようですね」


 記録屋冥利に尽きますねぇというカイトに女性はそうね、と相槌を打った。


「こいつは変わって来てるのかもしれない。けれど肝心なものをまだ知らないのよ。ところで今度はどんな世界に?」


「色恋沙汰がきっかけで滅んだ世界、ストーリア・ダモーレへ」


 カイトの言葉に今回も影響がありそうね、と言いながら女性は珈琲を飲んだ。






 ツェッドが意識を取り戻すとそこはどこかの豪奢な部屋の中だった。

 部屋は広く、見るからに高級そうなベッドに机、本棚にクローゼット、そして浴室とこの部屋だけで暮らせそうなくらい設備が整っていた。

 窓に面した机の上にはいつもの通り青い光を纏った書物が置かれており、題名には『ストーリア・ダモーレについて』と書かれている。

 ツェッドはいつものごとく書物を手に取ると表紙を開いた。

――この世界は『ストーリア・ダモーレ』。

 貴方はこの世界でも有数な学園都市を有するスブリミタ王国の学園ジョヴェントゥに通うスブリミタ王国の二大公爵の次男。

 もう一人の公爵の息子とは幼馴染で幼少の頃からの付き合い。

 スブリミタ王国は隣国プロスペリタと冷戦状態にあり、和平の証にプロスペリタの公爵の一人娘が交換留学生としてこの学園に通っている。

 貴方は成績が学園で一番いいがその人柄ゆえに人から避けられている。

 しかし、成績が一番いい故に交換留学生の面倒を見ることとなる。

 また、スブリミタ王国もプロスペリタ王国も大国でこの二国が戦争をすることによりこの世界は滅びる。――

 二大公爵の次男?

 貴族の仕来りやらマナーやらわかんねぇぞ、と思った時に前回前々回同様記憶が雪崩れ込んできた。

 もう一人の公爵の息子の名前はオロ・ルチェンテッザ。

 肩まで伸びた金髪に整った容姿にキリッとした青い瞳の勝気な性格の男だ。

 そして留学生の女の名前はマローネ・ベッロ。

 腰まで伸びた茶髪にこちらも美しい顔立ちにキリッとした緑色の瞳をしている勝気な女だ。

 オロとマローネの相性は最悪で顔を合わせる度に嫌味の応酬をしている。

 そんなオロとマローネの接点になるのがツェッド・コレガメントだ。

 ツェッドには兄がいるらしいが病床に臥せっておりほとんど表舞台に出ないらしい。

 両親もそんな兄にかかりっきりでツェッドのことは放置しているらしい。

 正直家族付き合いなんてごめんだと思っていたツェッドにとってこれは朗報だった。

 そしてこの世界は貴族は魔法は使えるが、ツェッドのように人の記憶を改ざんしたりする精神系の魔法やクラフトなど創造系は発達してなく、どちらかというと攻撃系の魔法が主体らしい。

 また、龍人族などの異種族も居なく人族のみであると。

 ツェッドの腕に生えている鱗は不思議と周囲からは見えないようになっているらしい。

 今回もまた、竜化しない方がよさそうである。

 因みにオロが得意な魔法は土属性でマローネが得意な魔法も土属性。

 それも相まって相性が悪いらしい。

 貴族、それも公爵家の次男となれば学園寮内に従僕がいてもおかしくないがツェッドは放置されているのでそれも無し。

 干渉されるのが嫌いなツェッドにとってそれは良いことだった。

 核となる人物がオロとマローネであろうと推測するとめんどくさいことこの上ないと思っていたツェッドには朗報だ。

またこの学園は騎士科、貴族科、平民科とわかれているらしい。

まぁ平民科は数が少ないらしいが。


「剣の稽古場もあるみたいだし、鈍りはしなさそうだな」


 普段騎士科が使う剣の稽古場を早朝のみツェッドが使用することを許されていると記憶で知ったツェッドはよし、と呟いて剣を片手に稽古場に向かった。

第五章開幕です。ツェッドはどんな愛を見、何を差し出すのか……。

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