【真相】血塗られた過去とルモレの姫
調合を終えると店を開き、客相手に商売する。
その客の中でビアンカと同じ白銀の髪に水色の瞳をした老婆がありがとうねぇ、と呟いた。
「私達ルモレ人に真っ当な商売してくれるところは少ないから助かるよ」
「ルモレ人は白銀の髪に水色の瞳が多いのか?」
「そうさねぇ……この髪と目はルモレの象徴と言っても過言ではないよ」
そう言って老婆はまた来るよとお代をぴったり払って去って行った。
白銀の髪に水色の瞳がルモレ人の特徴……ビアンカは母親がルモレ人なのだろうか。
そうだとしても目鼻立ちと言い性格と言いネロの要素が皆無である。
あの親子は血が繋がっていない……そう考えるのが道理だろう。
まぁネロビアンカ親子が血が繋がっていようと繋がって無かろうとツェッドには関係ないのだが。
「咳止めの薬はあるかい?」
「症状はいつからだ?」
ツェッドがそこまで考えた時客が来たのでツェッドは思考を中断した。
その日の夜、ツェッドはネロが料理している大衆食堂へと足を運んだ。
大衆食堂は和気あいあいとしていて、王都の治安がいいことが伺える。
ツェッドはメニューの中からステーキとエールを頼むと端の方へ座った。
するとテーブルにサラダが置かれた。
「頼んでないが」
「ネロからの奢りだよ。たまには野菜も食いなってさ」
ツェッドはネロめ……余計なことを、と思いながらサラダにフォークを差した。
サラダを食べ終わる頃にステーキとエールが運ばれてきた。
エールは程よく冷えており、ステーキもジュウジュウと音を立てて旨そうだ。
ツェッドエールを一気に半分ほど飲み干すと、ステーキを口に運んだ。
じゅわっと肉汁が口に広がり、噛み応えのある肉が口の中で踊る。
ツェッドは肉の食感を楽しみながらツェッドは周囲の会話に耳を澄ませた。
大抵はどこどこの貴族がどうだの、花屋の娘がどうだのと言ったゴシップが多かったがその中で一つ、ツェッドの興味を引いたものがあった。
「なぁルモレのお姫様が生きているって噂知ってるか?」
「何言ってんだルモレの王族は十年前城と共に焼けちまっただろうがよ」
「それが当時六歳だった王女様だけが逃がされたらしいぜ」
「逃がされたって誰に」
「さぁ? まぁ王女様の顔を知る奴なんてこの世にいないから今更ルモレの連中が担ぎ上げようとしても無駄だがな」
「違いねぇ」
ツェッドがより詳しくその話を聞こうと席を立とうとしたら、料理場からネロがやってきた。
「ツェッド、新しいメニューの味見を頼めないか」
「……俺でいいのか」
「ああ。お前の舌は調合の腕と同じくらい確かだからな」
チラリと先程の会話をしていた男達を見るともう別の会話をしており、機会を逃したかと思ったツェッドはネロの申し出を受けた。
先程の会話に何かあると直感が言っていたのだが、核となるであろう人物を蔑ろにする訳にもいかない。
ネロが考案した新メニューは所謂ビーフシチューで、味はツェッドが唸るほど美味しかった。
翌日、昨日のようにビアンカ達親子との朝食を終え店を開いていると白銀に水色の瞳の老父が店を訪ねてきた。
「この辺りでルモレ人にも分け隔てなく薬を売るというのは貴方ですか?」
「確かに俺は何人だとかは気にしていないが……何の用だ?」
ルモレ人の老父はツェッドの受け答えにここが……と呟くと熱冷ましの薬を一週間分もらいたいと言った。
ツェッドは何歳の人物が発症し、何日経っているのか確認してから薬を渡し代金をもらった。
「価格も正常……もし、この辺りでアルジェリカ様の忘れ形見であられるビアンカ様を見かけられませんでしたか?」
「すまんが俺は旅の薬売りでな。アルジェリカ様とやらもビアンカ様も心当たりはない」
「そうですか……ありがとうございました」
ツェッドは老父に嘘をついた。
老父が言っているアルジェリカ様の忘れ形見のビアンカ様とは、あのビアンカのことだろう。
だが見知らぬ老父にビアンカのことを教えるのもどうかと思ったし、何よりアルジェリカ様とやらの忘れ形見と言うのが気になる。
話の流れからしてアルジェリカ様というのはビアンカの母親なのだろうが、ツェッドはアルジェリカ様とやらの顔を知らないので何とも言えない。
そもそもアルジェリカ様とやらはどんな身分の人間なのか。
貴族か将又王族か。
王族としたらルモレの王族だろう。
となると昨日大衆食堂で聞いた生き延びているルモレの姫様とやらはビアンカのことなのか。
そうするとネロは……。
「すいませーん」
「今行く」
ネロの正体について考察しようとした時客が来たためツェッドは考えるのを止めた。
今は薬売りに専念しないと周囲に怪しまれる。
ビアンカのことやネロのことを推測するにしてもまずは周囲の情報を集めてからだ。
ツェッドは薬を売りながらこの国のことやルモレのことについて聞き込みをした。
この国ではルモレ人は偏見の目で見られているということや、アウレオラの王宮には過去特殊部隊がいたらしいことなど様々な情報が集まった。
道理でルモレ人に対して変わらず薬を売っているツェッドが感謝されるわけである。
ツェッドは夕方になり店を閉めると、ネロが働いている大衆食堂ではなく薬売りをしている時に聞いた柄が悪い輩が集まる食堂へと足を向けた。
そういうアングラな所には裏の情報がよく集まるからだ。
まぁ、多少手荒なことをする必要があるが。
「あんだぁあんちゃごふっ!」
「てめぇなにしやがる!」
「野郎どもやっちまえ!!」
ツェッドは入った瞬間絡んできた破落戸を沈めると、それに反応した破落戸達も丁寧に沈めていった。
数分後には破落戸の山が食堂の入口に出来ていた。
「おー兄ちゃんやるじゃねぇの。何が目的だ?」
「この国にあったという特殊部隊の情報が知りたい」
奥にいた煙草を吹かしている男――おそらくここ一体のボス――が面白そうにツェッドに話しかけてきた。
それに対しツェッドは軽く手を払うとこの国の金貨一枚を男に向かって弾いた。
「あの部隊のことか……話してもいいがこれじゃぁ足りねぇな」
「お前も沈めてもいいんだが?」
足元を見てくる男に拳を掲げながらツェッドが言うと、男はハハハと大声で笑った後すぐ沈められそうだなぁと言った。
どうやら力量の差を見る目はあるようである。
「いいぜ、兄ちゃんの拳に免じて金貨二枚で手を打ってやる」
「……仕方ないな」
ツェッドは金貨をもう一枚出すと男に向かって弾いた。
男は金貨をキャッチするとまぁ座りなよ、と男の隣を指さした。
「女将ぃ! エール二つと適当につまみだしてくれや!」
「はいはいわかったよ!」
ツェッドが男の隣に座ると男は女将に注文した。
女将は関わりたくないのかササっと注文されたものをテーブルに置くと去って行った。
「まぁ乾杯と行こうぜ」
「俺は情報が知りたいんだが?」
エールを片手にツェッドにもジョッキを持つように促した男に、ツェッドは若干イラっとしながらテーブルを指で叩いた。
そんなツェッドにあの部隊の話は飲まなきゃ話せねぇよ、と男が言うので仕方なくツェッドはジョッキを手に持った。
「じゃあ俺らの出会いに乾杯」
「……」
カンッとジョッキ同士がぶつかりあう音が店に響く。
ツェッドは一気に半分ほど飲み干すと早く話せと言うようにドンっとテーブルの上にジョッキを置いた。
「そんな急かすなよ……あの部隊はな……」
男の話を纏めるとこうなった。
アウレオラには潜入・暗殺に特化した特殊部隊がいた。
その部隊の隊員は皆十代半ばで長い時間をかけて潜入し対象を暗殺するのだという。
ルモレとの戦争でもその潜入部隊は使われ、一番スキルが高かった当時のその部隊の隊長グリージョが十年かけて潜入したのだという。
ルモレの城が落ちたのもそのグリージョが王と王妃を暗殺し城に火をつけたからだという。
つまりアウレオラは十年の時をかけてルモレを吸収する計画だったのだ。
グリージョはその任務の後行方不明になり、アウレオラ王国はルモレの城と共に死んだものとし特殊部隊を解散させたのだという。
「ずいぶん詳しいな」
特殊部隊について噂程度でも知れればいいと思っていたツェッドは思っていたより詳しい情報に片眉を上げた。
「当時俺もその特殊部隊にいたんだよ。まぁ実践投入される事は無かったが」
男の言葉にツェッドはなるほど、と頷くとそのグリージョの容姿は黒髪に金の瞳じゃなかったか? と問いかけた。
「よく知ってるな。確かに隊長は黒髪に金色の瞳だったぜ」
と言ってもこの国じゃそう珍しくない組み合わせだがな、という男にツェッドはネロがそのグリージョなのだと確信した。
そしてビアンカがルモレの生き残りの王族だということも。
どういう経緯があったのか知らないが幼いビアンカはネロによって助け出され、そのまま親子として育てられたのだろう。
ツェッドは残りのエールを飲み干すと駄賃だと言ってもう一枚金貨を置き店を去った。
「あ、おい! なんで今更あの部隊のこと聞いてきたんだよ!」
という男の問いかけは無視して。
核となるであろう人物の情報は揃った。
後はこれがどう転んでツェッドの求めているものに繋がるかだが……。
ツェッドは少なくとも明日には事態が動きそうだと思いながら今回の自宅へと帰った。




