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透明なケープと夜の決着

「ツェッド、どこか怪我してない?」


「……していない」


 ツェッドが翼を加工し始めてからもうすぐ二か月が経ち、彼は毎日ヴィオラに怪我をしていないか尋ねられていた。

 相変わらず妙に聡い女だ……と思いながらツェッドはいつも通り護衛をする。

 ヴィオラは今でも誰にも魔王に嫁ぐことになったことを言っていない。

 突然いなくなったら混乱するんじゃないのか、とツェッドが進言しても魔王とは平和条約結べる気がするから大丈夫、という根拠ない理由でヴィオラは言わない。

 恐らくヴィオラは自分が殺される可能性も考えているのだろう。

 故に殺されたときその憎しみが魔王に向かないように魔王に嫁ぐことになったことを誰にも言わない。

 実際は魔王に殺されるのではなく、最近側付きで入ってきたいたって平凡な容姿の侍女に殺されるのだが。

 しかしそれはツェッドがさせない。

 慈愛という理解できない愛をそういうものもあるのだと教えてくれた礼をヴィオラにしなければならないからだ。

 側付きの女が動くとしたら魔王に嫁ぐその夜だろう。

 それまでに周囲の信頼を得ていないと殺した時怪しまれるからだ。

 ツェッドはそう考えながら翼の加工の最終段階に入った。

 数日後、ツェッドは完成したケープを持ってヴィオラの私室を尋ねた。


「ヴィオラ、今いいか」


「ツェッド? どうしたの?」


 ヴィオラは湯上り後だったのか少々火照った顔でツェッドを出迎えた。


「これをやる。いつも身に着けておけ。命の危険を感じたらこのブローチを押せ」


 ツェッドは側付きの侍女に聞こえないよう小声かつ耳元で囁くとケープをヴィオラに巻き付けた。

 ヴィオラは命の危機という言葉に真剣な表情になるとこくりと頷いた。

 もしかしたら魔力が高く聡いヴィオラのことだ、側付きの侍女に違和感を持っているのかもしれない。

 ツェッドは念のためこっそりとヴィオラに防御魔法をかけると夜遅くに悪かったな、と言って自室に戻ろうとしたがヴィオラに止められた。


「何だ」


「前、側付きの侍女に気を付けろって言っていたじゃない? 最近なんか嫌な気配がするの」


 とても薄暗いものに見られているような、と言うヴィオラはどうやら完全に暗示にかかっているわけでは無いらしい。

 ツェッドは安心させるようにヴィオラの頭を撫でると、このケープがあれば大丈夫だと言った。


「あまりここでこそこそ話していても怪しまれるから俺は行く。その予感、大切にすることだ」


「あ、ツェッド!」


 ツェッドはヴィオラの声を無視してその場を去った。

 それがこの場での最善だと判断したからだ。

 安全策を敷いたとしても側付きの侍女に怪しまれてケープを取り上げられたら元も子もない。

 収穫だったのは暗示の香は他の者には効いていてもヴィオラには違和感を持たせているということだった。

 そしてそれから一か月後、魔王がヴィオラを嫁に迎えに来る日に事件は起こった。

 その日、ツェッドは珍しく一日中ヴィオラの護衛についていた。

 夜になり満月が中天を昇る頃、事は起こった。


「っ……!」


「なっ!?」


「ヴィオラッ!」


 ヴィオラの私室の前で不寝番をしていたツェッドは中の物音で側付きの侍女が動いたことを悟り、中に踏み込んだ。

 すると中にはナイフを持った侍女しかいなかった。

 いや、正確にはヴィオラも居たのだが透明になって見えなかった。

 ツェッドは側付きの侍女が混乱している内に侍女を取り押さえるとヴィオラに解除していいぞ、と声をかける。

 するとカチ、という音と共にヴィオラの姿が現れる。

 ヴィオラに渡したケープはブローチを押すと着用者が透明になる機能がついていた。

 これは竜化した龍人が空を飛ぶ時に翼を周りの景色と同化する性質を持っていることを利用しており、またツェッドの加工で着用者の存在ごと全て透明にするようにしたので、機能が作動している間はヴィオラに誰も触れられない。


「そんな、なんで……」


「こいつはお前を殺そうと忍び込んでた魔王の部下の娘だ」


 まぁ、この件に魔王は関係ないがなと言いながら侍女の腕を縄で拘束する。

 これはツェッドが対モンスターで使う拘束用の縄なのだが、この世界でも通用するだろう。


「何故消えた!? 離せ!!」


「お前には関係ないことだ」


「その護衛騎士の言う通りだ。我が花嫁に手を出すとはな」


 侍女が暴れないように背中を踏みつけていると闇の中から滑るように魔王が出てきた。

 魔王はツェッドが捕まえている侍女の顔を見るとあいつの娘か、と呟き侍女の前に高濃度の魔力の塊を出現させた。


「退け、護衛騎士。そやつは我が処分する」


「っ、駄目です!」


 ピシピシと戦場にいるかのような殺気が充満する中、ツェッドに退けと命令した魔王は魔力の塊を侍女に近づけたが、完全に触れる前にヴィオラが聖女の力で魔力の塊を搔き消した。

 ツェッドはヴィオラなら見過ごさないだろうなと思っていたので驚かなかったが、魔王は驚いたようで何故……と呟いた。


「その者は我に背きお前の命を狙ったのだぞ」


「それでも、この方もこの世界に生きる命の一つです!」


 ツェッドはヴィオラの言葉にぞわぞわしたものを感じながらこいつはこういう奴だから諦めた方が賢明だぞ、と魔王に心の中で話しかけた。

 魔王はだが、と食い下がったがこの人を殺すなら私は貴方のお嫁には行きません! と宣言され魔王はこの場は引き下がったようだった。


「わかった……わかったから嫁に来ないとか言わないでくれ……」


「この人を殺しませんか?」


 ヴィオラの問いに魔王はああと頷くと完全に気絶している侍女を転移させた。


「殺さないって……!」


「殺しはしない、仕置きをするだけだ」


 それならよかろう、という魔王にヴィオラは不満げな表情を浮かべた。


「我の嫁に危害を与えようとしたものを無罪放免にするなぞできん、それはわかるな」


「……わかりました。あと、貴方のお嫁に行く前に約束してほしいことがあります」


 ヴィオラは不服そうだがなんとか飲み込むと本来の交換条件を切り出した。

 魔王はなんだ、と問いかけながらヴィオラの髪を触る。


「人間の世界を侵略しないと、ここに聖約してください」


 聖約とは聖女の力で結ばれる約束のことで、よほど魔力が強いものでない限り聖女の力で縛られることとなるものだ。

 魔王は悩む素振りを見せずにお前が生きている限り人間の世界を侵略しないと誓おうと述べた。

 パァと聖約が結ばれる光が室内に満たされる。

 ツェッドはそれを見ながら意識がグイっと引っ張られる感覚を感じた。

 どうやらこの世界に居られるのはここまでらしい。

 ツェッドはヴィオラに幸あらんことを、と思いながら意識を手放した。

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