【潜入】魔王の正体と、背後に蠢く陰謀
ツェッドが向かうのは魔王城。
魔王がツェッドより魔力が低いからこそ出来る潜入だった。
幸いにも結界はモンスターは拒むが人は拒まないらしく問題なく国境を通過できた。
ツェッドは自身に認識疎外の魔法をかけ、竜化すると空を駆け抜ける。
目指すはこの魔界で唯一人工的な場所である魔王城だ。
空を飛んでいるとそこは意外にも早く見つかった。
といっても慎重に近づく必要があるため三日は必要だが。
ツェッドは確かめる気だった。
魔王の魂胆を。
三日かけて魔王城に潜伏したツェッドは認識疎外の魔法を上乗せして魔王の私室に入り込んだ。
そこでツェッドが目にしたものとは――。
「くくく……聖女も愚かよ。殺されるとは知らずに」
と嗤う眉目秀麗な男、ではなく。
「ヴィオラちゃんがお嫁さんになってくれるなんて夢……!? 夢じゃない!!」
とヴィオラの自画像(聖女として連れてこられた頃~現在)に囲まれた部屋で喜色満面な笑顔でお茶をしている男の姿だった。
(これが……魔王……?)
確かに魔力はツェッドほどではないが、ツェッドを除けばこの世界で一番高いだろうということが伺える。
容姿も端麗で人型をしている。
完全に嬉しすぎて? 顔面が崩壊しているが。
あの時馬車で聞いた威厳のある声なんて欠片もない。
一か月魔王としての生活を覗いたが私室ではいつもこんな調子だった。
防音の結界を張っているようだがツェッドには関係ない。
部下と接するときは冷酷無慈悲な魔王なのに残念な限りだ。
これは取り越し苦労だったかとツェッドが魔王城を離れようとした時、何やら魔王の副官と名乗るモンスターがこそこそと打ち合わせをしているのを見掛けた。
「魔王様が聖女に現を抜かすなんてあり得ぬとは思うが念のため……」
「嫁に来る前に人間に化けて聖女を殺すのだ」
「人間に化けるのは屈辱。だが仕方がない」
「この暗示の香を使えば違和感なく聖女付きの侍女として潜り込める」
「頼んだぞ我が娘よ」
「はい、お父様」
どうやら副官は聖女が魔王に嫁ぐのを良く思っていないらしい。
というか魔王城に仕えている大半がそうだろう。
ツェッドは副官の娘の顔を見ようとしたがモンスターの姿だったため、人間の姿はわからなかった。
とにかく戻ってからヴィオラ付きの侍女に警戒すればいいことはわかった。
それにしても魔王よりお粗末な防音結界を張っていたが魔王にバレないのだろうか。
あの浮かれようだとバレないのだろう、多分。
ツェッドは何とも言えない気分になりながらヴィオラの元へと戻った。
「戻った」
「ツェッド! どこに行ってたの!!」
教会に戻りヴィオラの私室に顔を出すとヴィオラは駆け寄って来て思いっきりツェッドに抱き着いた。
ヴィオラは何となく察しているのだろう抱き着いている腕は震えていた。
そんなヴィオラにそこまで怖い所じゃなかったぞ、と思いつつヴィオラの頭をポンと撫でた。
「ヴィオラ、これから側付きになる侍女に警戒しろ」
「どうして……?」
お前が殺されるからだ、とツェッドは言おうと思ったが今はヴィオラを安心させるのが優先かと思い、ヴィオラが落ち着くまで頭を撫で続けた。
それに暗示の香が効いてしまえば警戒もできないだろうと思ったのもある。
チラッと見た限りだがあの暗示の香の性能はそれなりに高い。
魔王と念話が出来るくらい魔力があるヴィオラだがあの香に対抗出来るかと言われれば微妙なところだろう。
ツェッドが突然来たヴィオラの側付きの侍女を始末することは容易いが……。
「ツェッド、人殺しは駄目だよ」
「わかっている」
この妙に聡い幼馴染の目を潜れるとは思わない。
ヴィオラは落ち着いたのかゆっくり離れるとツェッドの額をデコピンした。
「何をする」
「一か月も私の傍を離れて魔王城に行った罰です」
やはりヴィオラはツェッドが魔王城に行っていたことわかっていた。
その危険な行いのへの罰をデコピン一つで済ませるのだからやはり甘ちゃんだ。
「魔王はどんな人だった? ツェッドのことだから覗いてきたんでしょう?」
「お前は知らない方が良い」
誰も自分の肖像画に囲まれてうふふとその美形を台無しにしている男の話なんて聞きたくないだろう。
私室を出ればツェッドには気づかないものの完全無欠の冷酷無慈悲な魔王だというのに。
ツェッドにはあの暗示の香は効かないだろうからその時に注意すればいい。
そう考えたツェッドはこの甘ちゃん娘が言うことを聞くか若干の不安を感じながらいつもの業務に戻った。
今回は短めです。




