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【試練】吹き溜まりの浄化と魔王の宣戦布告

「「「聖女様おはようございます」」」


「おはようございます、皆さん。それでは主の恵みに感謝して朝食をいただきましょう」


 ヴィオラが大広間に入ると教会の神父やシスターを始め孤児たちがヴィオラを待ち構えていた。

 ヴィオラはそんな面々にとびっきりの笑顔を見せるといつもの通り主に感謝をささげ、朝食を取り始める。

 静かな朝食を終えると次はミサの時間だ。

 ミサでもヴィオラは朝のお転婆ぶりはどこに行ったんだと言いたくなるくらい理想の聖女様を演じていた。

 いや演じるという表現はおかしいか。

 お転婆娘なヴィオラも聖女然としているヴィオラも、どちらも本当のヴィオラなのだ。

 ただスイッチが切り替わるだけ。

 お転婆娘な姿が見れるのは朝かつツェッドが護衛の時のみ。

 それを寂しく感じるのは『幼馴染としてのツェッド』が身体に馴染んだ証拠だろうか。

 基本的にツェッドは筆頭護衛騎士としての立場をフル活用して朝から不寝番に変わるまで常にヴィオラの護衛をしている。

 聖女の護衛が一人でいいのか、と疑問に思うだろうがそこはツェッドに勝てる人間が世界に一人もいないことから察してもらいたい。

 勿論それを良く思わない輩もいるがそういう輩は力で黙らせてきた、らしい。

 勿論筆頭護衛騎士としての書類仕事もあるがそれは夕食を終えた後にやっている。

 そんな日々を過ごしているうちにモンスターの吹き溜まりの浄化の仕事がヴィオラに来た。

 交雑種の犬は毎日ヴィオラに餌をもらっている。

 害を出さないので無視している感じだ。


「吹き溜まりの浄化……」


「憂鬱か?」


 ヴィオラの私室でため息をつくヴィオラにそりゃ憂鬱だろうなとツェッドは思う。

 吹き溜まりの浄化は聖女の力をより多く使うらしく。その反動で身体が傷つくからだ。

 それ故に憂鬱なのだろうとツェッドは思っていたが、ヴィオラは身体が傷つくことは憂鬱じゃないの、と口を開いた。


「じゃあ何が憂鬱なんだ」


「モンスターもこの世界に生きている命の一つでしょ? その源を消してしまうのが申し訳なくて……」


 ヴィオラの言葉を聞いてツェッドはこういう奴だったなと思った。

 モンスターと、魔王と共存なんてできやしないのに、しようとすれば人間が被害を受けるのにモンスターや魔王を一つの命として受け入れる。

 そんな甘ちゃんな奴だからこそ聖女としての冠をかぶれるのだ。


「モンスターの吹き溜まりを浄化しないと被害を被るのは人間だぞ。それに定期的に間引きをしないとスタンピードが起きる」


「それはわかってるんだけど……あーあ、魔王と話できないかしら」


 モンスターの管理をしているのは魔王なんだから魔王と平和条約を結べたら素敵じゃない? というヴィオラにどこまで甘ちゃんなんだとツェッドは思う。

 人間世界を侵略しようとしている魔王が平和条約を結ぶわけがないだろう。

 今はヴィオラの祈りで各地に張った結界が作動しモンスターの侵入の大半を拒めているが、吹き溜まりしかり交雑種の犬しかり紛れ込むものも多くいるのが現状だ。


「そんな夢物語を語ってないで吹き溜まりの浄化に行きますよ、聖女様?」


「もう、そんな厭味ったらしく言わなくったっていいじゃない!」


 ツェッドの馬鹿! と言われながらツェッドはヴィオラを吹き溜まりへと案内する馬車へ案内した。

 流石にモンスターの吹き溜まりに行くとあって護衛騎士も数十人単位だ。

 本当はツェッド一人いれば問題ないのだが、そこは体裁と言う奴だ。

 この世界の馬車は馬ではなく竜が引くためどんな遠くても大体一日と半日があればどこへでも行ける。

 そうして馬車で揺られること一日と半日、魔王が統治する土地――通称魔界――との国境付近にその吹き溜まりはあった。

 吹き溜まり、と言うだけあってモンスターが多く、連れてきた護衛騎士がその対応に追われる中ツェッドはヴィオラを守りながら吹き溜まりの中心へと向かう。

 吹き溜まりの中心は瘴気なのか黒い霧で覆われていてポコポコと紫色の沼からモンスターが湧き出ていた。

 ツェッドは湧き出るモンスターを切り捨てながらこの吹き溜まりは歴代でも一番大きいなと記憶と照らし合わせる。

 これはヴィオラの負担が大きそうだと分割して浄化することを提案しようとしたが、ついてきた護衛騎士が聖女様早く! と急かしてしまった。

 ヴィオラはその騎士の言葉を聞いて瘴気の沼に手を差し込むと祈りを始めてしまった。

 これだから弱い輩は嫌なんだ、と思いながらツェッドはヴィオラに向かってくるモンスターを悉く屠る。


「主よ、我が祈り届けたまえ」


 ヴィオラが聖女の力を使うと辺り一面金色の光に覆われ、その光に触れたモンスターが悉く塵になっていく。

 吹き溜まりも徐々に小さくなっていくが、その反面ヴィオラの身体には数多の傷が刻まれる。

 その血でさえ浄化の作用があるのか、歴代でも最も大きい吹き溜まりは一時間もしないうちに浄化された。

 途端ヴィオラの身体がふらっと揺れる。


「ヴィオラ!」


「ツェ……ド、ありが、と……」


 倒れる前にツェッドがヴィオラを受け止めるとツェッドは『総員撤退!』と声を上げた。

 ヴィオラの身体には至る所に傷ができていて、早く治療魔法をかけなければ即死するのではないかと言うほどだった。

 ツェッドはヴィオラを馬車へ運びながら治療魔法をかけるとヴィオラの意識が戻ることを願った。

 傍若無人で他人のことなんて毛ほども考えないツェッドからしてみればこれは異常なことだが、幼馴染としての記憶がツェッドをそうさせた。

 願いが叶ったのかヴィオラは三十分ほどで意識を取り戻した。


「ツェ……ド、こ、こは……?」


「馬車の中だ。とりあえず水を飲め」


 ツェッドは意識を取り戻したヴィオラにほっとしながら革袋に入った水を差し出すと、傷の具合を観察した。

 身体の至る所にあった擦傷は全て塞がっており、吐血をしていないことから内部の損傷はなさそうだ。

 治療魔法なんてあまり使ったことなかったが、この時ばかりは自分の魔力量の高さに感謝したツェッドだった。

 ヴィオラが水を飲み一息ついたところで聞き馴染みのない声が馬車の中に響いた。


――「ほう、あの吹き溜まりを浄化してなお生きているか」――


「誰だ」


 それは念話と言った方が正しいのかどこか遠くから話しかけているような声だった。

 ツェッドは聞いたことが無い男の声にある嫌な予感がした。


――「我は魔王。貴様らを根絶やしにするつもりであったが気が変わった」――


 ツェッドは魔王と名乗る声の主に嫌な予感が当たった、と思った。

 ヴィオラは最初は怯えを見せていたもののすぐに聖女然として人間への侵略を止めてくださるのですか? と問いかけた。


――「そうさな。お前が我の嫁になるというのなら考えないでやってもいい」――


「なっ!」


 ツェッドは魔王の提案にそんなの罠に決まっていると声を上げた。

 だってそうだろう、結界の要である聖女を殺害したら人間への侵略なぞ容易にできてしまうのだから。

 嫁にこいなんて都合のいい方便で殺害するための理由にしか過ぎない。


「いいでしょう。人間との和平条約を結んでくださるというのなら」


「ヴィオラ!」


――「話の分かる女は好きだ。我の方でも調整が必要でな。半年後の夜中汝を迎えに行く。その際に一人でなかったらお前は死に、人間への侵略も開始する」――


「わかりました。主の御名に誓って」


――「話は終わりだ。半年後相見えるのを楽しみにしているぞ聖女」――


「ヴィオラ!!」


「ツェッド……今の聞こえてた……?」


 ツェッドが咎めるようにヴィオラの名を呼ぶと、ヴィオラは悪戯が失敗した子供のような表情を浮かべて私、魔王と結婚することになっちゃったと呟いた。

 馬車の周りが騒いでいないことから魔力が高いものにしか聞こえなかったのか、それとも馬車の中でしか聞こえなかったのかわからないが、魔王とやらがツェッドの声に反応しなかった辺り前者だろう。

 つまりツェッドは魔王より魔力があるということになる。


「本当に嫁になる気なのか。殺されるぞ」


「うん。主の御名に誓ったから。それに案外話が通じる人かもしれないし」


「なんでお前はそう楽観的なんだ」


 ツェッドは声を荒げたいのを我慢してヴィオラに詰め寄る。

 ヴィオラはだってあの人もこの世界に生きる一つの生命だもの、と今までにない優し気な笑みでツェッドに答えた。

 それを聞いたツェッドはある決心をした。


「ヴィオラ、俺は暫くお前の護衛から外れる」


「え……?」


「引継ぎは副官にしておく。半年以内には戻る」


 そう言ってツェッドは馬車から出ると副官に引継ぎをし、ヴィオラが止める声も聞かずにその場から旅立った。

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