スタンピードと背後に迫る刃
そしてヴェルデが魔剣を使いこなせるようになったころ、国を揺るがす一報が入る。
すぐさまヴェルデとツェッドが徴集された。
「スタンピードの兆候ですか……」
「ああ。国の南部でモンスターが異常に増殖している。恐らくそうかからないうちにスタンピードが起きるだろう」
謁見の間でスタンピードの存在を知らされたヴェルデは臣下の礼を取りながらジャイロの言葉の続きを待った。
言われるであろうことを推測しながら。
「危険を承知で言う。我が騎士団にスタンピードを防いでもらいたい」
「それが陛下のお望みならば」
ヴェルデはジャイロに敬礼した。
そしてジャイロに許可を得てからジャイロの前を去ろうとしたが止められた。
「陛下……?」
「今言うのもなんだけどね、アレイスター家のことについて調べがついたよ」
後顧の憂いは断っておいた方が良いだろう? とジャイロはヴェルデに言った。
ヴェルデはアレイスター家の……と呟くとジャイロの言葉を待った。
「君がアレイスター家を離れている内に分家筋で男児が生まれたらしい。現当主はその男児を養子として引き取って当主にしようとしているみたいだよ」
「つまり女で次期当主と言われている私は不要と言うわけですか……」
ヴェルデはその瞳に悲し気な色を乗せた。
そんなヴェルデをジャイロが支える。
「ヴェルデ、たとえアレイスター家が君を必要としなくなっても僕にとって騎士団長は、僕の騎士は君だけだよ」
「陛下……勿体なきお言葉……!」
涙を流すヴェルデとジャイロが穏やかに微笑みながらヴェルデの頭を撫でた。
それを見てツェッドは帰る家を失くしても支えてくれる人がいれば人は立ち上がれるのだと知った。
アレイスター家が襲ってきた理由がツェッドの予想とは外れたがそんなことはどうでもいい。
ツェッドが感慨深く二人を見ていると、ヴェルデが立ち直し今度こそジャイロの許可を取ってジャイロの前を去って行った。
ツェッドもそれに続く。
「陛下よりスタンピードを防ぐ勅令が下った! 部隊編成は以下の通りだ。異論があるものはいるか!」
「「ありません!」」
ツェッドは兵舎にて騎士団の編成を発表するヴェルデを見ながらついにこの時が来たか、と思った。
国の有事ではあるが指南役として招かれただけのツェッドはこの遠征に参加することが出来ない。
それを恨まれるどころかツェッドさんが城にいるなら多くの兵をスタンピードに当てられますと感謝される始末。
まぁヴェルデも魔剣を使いこなせるようになったし大丈夫だろう、そう思ってツェッドはスタンピード防止に向かう騎士団を見送った。
国がスタンピードの危機に瀕している裏で薄暗い取引が行われる。
その場所はアレイスター家本邸であった。
アレイスター家の当主は権力を使い、足が付かないように今は引退した実力がある暗殺者を探した。
するとその暗殺者の中の一人に娘がいることを知った。
アレイスター家当主は暗殺者の娘を攫い、暗殺者を呼び出した。
それも秘密裏に。
呼び出された暗殺者は娘を返せと叫んだが、アレイスター家の当主は家来である兵士に娘の首筋に剣を添えさせながらこう囁いた。
娘を返して欲しくばヴェルデを殺せ、と。
曰く魔剣の力を得たヴェルデの脅威はすさまじく早々に始末したいと当主は言った。
暗殺者はこの国、いや世界で一番強いと言われているヴェルデを暗殺したら自分は死ぬだろうと察した。
しかし娘の命には代えられない。
「わかっているな。お前の娘の命は我が手にあると」
「わかっています。頼まれた仕事はこなしますって」
そうしてアレイスター家の当主は娘であるヴェルデに刺客を差し向けた。
当主に弱みを握られている男は娘の無事を祈りながらふっと姿を消した。
――南部にて
「はぁっ!」
ヴェルデは何体目かわからない高難易度のモンスターを屠った。
兵士達の様子を見ると沢山のモンスターに囲まれながらも臨機応変に戦えているようだった。
精鋭を選んで連れてきただけある。
負傷兵も効率よく後退し回復部隊に回復されている。
「本当に……数が多いなっ!」
ヴェルデは魔剣の力で炎を放ちながら再び高難易度のモンスターと向き合った。
ツェッドに強化された魔剣で時には火で焼き殺し、水や風で切り刻み、土で窒息させ、闇で存在ごと屠った。
その状態が数日続きモンスターの数も減り負傷兵が増えてきた頃。
「グギャギャギャギャギャ!」
様々なモンスターが合体した存在が現れた。
その様子は他のモンスターとは格が違うのがありありとわかる。
どうやらこのモンスターがスタンピードの主らしい。
ヴェルデは一度目を瞬かせると疲労した身体をものともせず、様々なモンスターを合成したモンスター――便宜上キメラと呼ぶ――に切りかかった。
「グギャ!?」
「通る……これなら……!!」
キメラに剣を振りかざすと魔剣は容易にキメラの皮膚を切り裂いた。
致命傷とは言えないが確実に傷を負わせられたことに手応えを感じたヴェルデはそのまま急所めがけて剣を振り下ろす。
しかしキメラとてやられたままではない。
ヴェルデの攻撃を避けると鋭い爪でヴェルデの腹部の鎧を裂いた。
ヴェルデの鎧は絹を裂くように裂かれた。
ヴェルデは致命傷を負わなかったことに安堵しながらキメラと向き合う。
切りかかっては爪が襲い、両者それを紙一重で避けながら距離を取る。
その時間が数時間続いた時、キメラに一瞬の隙が見えた。
「そこだぁっ「団長加勢します!」危ないっ!!」
「グギャァァァァァァァァァァァァ!!」
「やったか……!」
ヴェルデがその隙を狙って魔剣の力を解放しようとした時、一般兵が加勢すると目の前に出てきた。
ヴェルデはその一般兵に襲い掛かるキメラの爪が見えたので、一般兵を蹴り飛ばし同時に急所に魔剣を突き刺した。
キメラはそれが致命傷となったのかどしん、と音を立てて倒れこんだ。
「っち、相打ちしてくれればよかったものを」
「お前、我が軍の兵士じゃないな!」
蹴り飛ばされた一般兵はすぐさま起き上がるとヴェルデに切りかかった。
ヴェルデはその剣を受けながら一般兵が自分の部下ではないことを見抜いた。
「曰くお前を当主にできないんだってよ!」
「お前……アレイスター家の……!?」
一般兵に化けた刺客はヴェルデの実家、アレイスター家の手の者だった。
「アレイスター家の手の者が何故このタイミングで私を殺そうとする!」
ヴェルデにはわからなかった。
国家滅亡の危機に瀕しているスタンピードの対処中に実家が騎士団長である自分を殺そうとする意味が。
ここで自分が死んだらアレイスター家にとっても利は無いはずなのに、と。
「あんたの実家はあんたが魔剣を手にしたことで恐怖を覚えたらしいぜ。そのタイミングでスタンピードだ」
そのどさくさであんたが死んでくれたら本望なんだとよ、と刺客は言う。
ここまで刺客が内情を喋ると言うことはこの刺客もここでヴェルデを殺したら、自分は死ぬと言うのがわかっているのだろう。
この刺客が何故ヴェルデ暗殺の依頼を受けたのかわからないが、ヴェルデは魔剣の力で土を出し刺客を拘束しようとする。
しかしそれは避けられてしまう。
「俺を捉えて生かすつもりかい? 命が狙われてるってのに甘ちゃんなことだな」
「お前も、あの家の被害者だろう!」
ヴェルデは今度は風の力を纏い刺客の剣を吹き飛ばそうとした。
ヴェルデの剣と刺客の剣は交わったが吹き飛ぶことは無かった。
よくみれば刺客は布で剣を固定していた。
ならば闇の力で消滅させるか?
いやそれだとこの男の腕ごと消失してしまう。
炎何て以ての外だ。
水はこの場面では役に立たない。
ヴェルデは命を狙われているにも関わらず、自分が死ぬとわかっている刺客に同情していた。
それは刺客の表情が辛そうに見えたからだ。
それだけで刺客もまたアレイスター家の被害者なのだと察せられた。
「団長!」
「加勢します!」
ヴェルデが刺客と剣を交わしていると部下が集まってきた。
この状況では魔剣の力を引き出したら部下に飛び火しかねない。
ヴェルデは部下たちに下がれと命令しながら刺客の剣劇を交わす。
「いいのか? お前が死ななければお前の部下が犠牲になるぞ」
「なっ! どういう意味だ!」
「治療班がいるテントに時間で爆発する魔法を刻んであるんだよ」
止められるのは俺だけだ、と刺客は笑う。
「こちとら娘の命が懸かってるんでね、手段は択ばないのさ」
「娘……!?」
どうする、女騎士団長さんよぉ! と言われながら重い剣戟がヴェルデを襲う。
男の言うことが真実とは限らない。
けれどこのままだと部下が危ないのも事実で。
そして刺客の言うことが真実ならアレイスター家は騎士道とは遠く離れた、いやむしろそれ以前に人道から外れたことをしていることになる。
どうすればいい。
この男もまたアレイスター家の被害者なのだ。
その迷いを見抜かれたのかヴェルデは刺客に心臓を貫かれてしまった。
「ガハッ……!」
「団長ーー!」
素直に殺されてくれたお礼に魔法は解除しといてやるよ、と言って男はヴェルデの視界から消えた。
恐らく部下達に取り押さえられたのだろう。
ヴェルデはどさりと地面に倒れこむ。
息が荒くなる。
視界が霞む。
その中でヴェルデは天に向かって手を伸ばした。
「じゃ……いろ……あなたのちせいに……ひ、かりを……」
ヴェルデは朝日の光を見ながらジャイロの治世が繁栄することを祈って、目を閉じた。
そうしてヴェルデ・アレイスターの生涯は終わった。




