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国家樹立12

「あれが話に聞いていた古代竜エンシェントドラゴン……レン様と一緒でずるいのじゃ」

「逆らっては駄目よ。特にお三方のお怒りには触れないことね」

「わ、分かっているのじゃ」


 本当に分かっているのかしら、本気で怒らせたら……


 オーガストは三人から殺気を受けたときのことを思い出し小さく身震いする。

 あの時ですら本気の殺気ではなかった。言うなれば躾のなっていないペットを叱るようなもの。

 それでも、呼吸ができなほどの重圧がのしかかってきた。

 逆らうことがどれだけ愚かしいことか、あれを受けた者にしか分からないわね、とオーガストは肩を竦めた。


「サンドラも末席に着きなさい。これから皆に大事な話があるわ」


 サンドラは言われるがまま、着物をずるずる引き摺りながら移動する。末席――メイの隣――に来ると空いている椅子に腰を落とした。

 メイが隣に座るサンドラに瞳を輝かせる。


「メイなの。仲良くしてあげるの」

「サンドラじゃ。よろしくのう」

「メイは今日からサンドラのお姉さんなの。メイお姉さんって呼ぶの」

「そ、そうか、よろしくのう。えぇぇっとメイ…ちゃん」

「メ・イ・お・ね・え・さ・ん・なの!」

「メイ……ちゃん?取り敢えず落ち着くのじゃ」

「この子アホなの!メイの言うこと全然聞かないの!メイお姉さんって呼ぶの!」


 メイは初めて出来た後輩にお姉さん風を吹かせたいのだろう。お姉さんをこれでもかと押してくる。

 これにはサンドラも困った顔をした。なにせサンドラと同じくらいのちびっ子だ。しかも、言動から頭の中身は自分より遥かに幼いと窺わせている。胸もないため外見では巨乳のサンドラの方がお姉さんに見えた。

 他の上位竜スペリオルドラゴンは慣れているのか、メイが騒いでいるのを見てまたかと呆れていた。


「サンドラ、私の名前はジュンよ。メイはアホだからまともに相手をしても無駄よ」

「私はエイプリルっす。メイちゃんは筋金入りのアホっすからね」

「初めまして私はジュライと申します。メイはちょっとアレですが仲良くしてあげてください」

「フェブだ、よろしくな。アホが邪魔なら言ってくれ、強制的に大人しくさせるからよ」

「私はジャニー。メイの相手は面倒なだけよ、無視しなさい」

「サ、サンドラちゃん、わ、私はマーチ。よよ、よろしくね。メイちゃんに悪気はないの、ゆ、許してあげてね」


 今のやり取りでメイの立ち位置が見えてくる。

 余程のアホでもなければあそこまで言われないだろう。つまり余程のアホなのだ、恐らく救いようがないくらい……

 辛辣な言葉を浴びせられるメイに、サンドラは哀れみの視線を向けた。

 一方のメイも酷い言われように口を大きく膨らませて抗議する。


「メイはアホじゃないの!アホはメイの言うことを聞かないサンドラなの!」


 「はいはい」「そうだねぇ」だがみんな適当にあしらってまともに取り合わない。

 面倒とばかりに無視する者もいる。


「いい加減にしないか!」


 オーガストが声を張り上げると、メイは救世主を見つけたように瞳を輝かせた。自分に味方してくれると思ったのだろう。オーガストを見つめて言ってやれと、決意を込めた表情で大きく頷いた。


「大事な話があると言ったはずだ。いつまでもアホの相手はするな」


 メイは首を傾げる。あれ?なんか違う、と。

 だが、大事な話は聞かなくてはならない。アホのサンドラの相手をしている場合ではない。メイの中であっさり結論が出た。

 オーガストが言ったアホとはメイのことなのだが、メイの中ではアホはサンドラになっている。それはもう疑いようがないくらいに、それほどメイはアホだった。



 オーガストの一声で会議室は静まり返り、おのずと視線が集まった。

 周囲を見渡し話を聞く体制が取れているかを確認する。なにせ今回は大きな任務、国を併合するために動くのだ。騒がしい場所で伝えるようなことではない。

 オーガストは与えられた任務を皆に伝えるため、努めて真剣な面持ちになる。

 威厳を出すため口調も変えて口を開いた。 


「私はレン様からエルツ帝国を併合せよという重大な任務を言い渡された。それに伴い上位竜スペリオルドラゴンの指揮権を私が預かっている」


 国の併合という重大任務にざわめきが起こる。そして、オーガストが指揮権を持っているということは、エルツ帝国に送り込まれる人選はオーガスト次第ということ。

 誰が選ばれるのか……互の出方を伺うように目配せをして牽制する。


「速やかに併合させるには貴族たちの説得が必要不可欠であり最も重要になる。これにはエイプリルとセプテバに当たってもらう。貴族のリストはサウザント王国の国王、サントス殿が用意してくださる。エルツ帝国に行く前にサウザント王国で受け取る手はずになっている」


 それを聞いて選ばれなかった面々は肩を落とした。これ程の任務など滅多にあるものではない。当然、納得できない者もいる。


「オーガスト、エイプリルとセプテバが選ばれた理由はなんだ?」


 フェブは面白くなさそうにオーガストを睨みつけた。

 これまでフェブは一度も任務を与えられていない。それに引き換えエイプリルは二度目、レンがノイスバイン帝国に赴いた時の同行も加えれば三度目になる。

 到底納得することはできなかった。


「フェブの気持ちも分かるが、これはレン様がお決めになったこと。知名度のあるSSSランクの冒険者なら貴族を説得しやすいとお考えなのだ」

「レン様直々のご指名かよ……」


 実際にはオーガストがレンに提案したことだが、こうした方が反論も出ず話が進みやすい。

 落ち込むフェブに悪いと思いながらもオーガストは話を続けた。


「エイプリルとセプテバには貴族の説得を全て任せることになる。説得する際、従う貴族には領地等の既得権益を守ると伝えろ。それでも従わないのなら一族郎党皆殺しにしろ、絶対に生かしておくな」

「殺していいんすか?」

「構わない。これもレン様のご命令だ」

「分かったっす」

「貴族の説得が終わりしだい王族の説得を行え。貴族同様従うなら命は助けてやれ」

「王族は皆殺しにしないんすか?」

「生かしておけば何かに利用できるかもしれないからな、大人しく従うなら殺す必要はない。二人にやってもらうことは以上だ」


 それを聞いてエイプリルとセプテバは頷いた。

 それを確認するとオーガストはフェヴに視線を移す。


 あとは国境の警備だが――今まで一度も任務を与えられていない者を優先するか。


「フェブには国境の警備に当たってもらう」

「国境の警備だと?」


 貴族の説得に比べたら大したことのない任務にフェヴが顔を曇らせる。


「恐らく密偵や暗殺者が放たれる。レン様のお命をお守りする大事な役目だ。嫌なら他の者に任せるまでだ」


 それを聞いてフェブが目の色を変えた。

 レンの命を守る大事な役目と聞かされては断るはずもない。与えられた任務に俄然気合いが入るというものだ。


「断るわけねぇだろ」

「では竜王国とエルツ帝国の国境は任せた。侵入しようとする者には警告をしろ。それでも引き返さなければ殺して構わない」

「了解したぜ。腕が鳴るなぁ」


 本当に分かっているのかしら?

 問答無用で殺さないわよね?


 オーガストは怪訝そうにフェブを見つめていた。

 だが、考えても仕方ないと、気を取り直して他の国境警備の人選をする。

 今まで任務を受けていないのは誰だったかと思い出す。


 ジュンは以前任務を受けた。

 マーチはレン様の食事を作らなければならない。

 ジュライは農場プラントを任されている。

 ディセは街の管理に携わっている。

 サンドラはまだ配下になったばかりだし後回しね

 メイは……問題外、あれに任務を与えるとか正気の沙汰ではないわ。

 残っているのはジャニーとオクトか……


「ジャニーにはサウザント王国とエルツ帝国の国境を任せる。但し、この国境は旅人や行商人など多くの人が行き交っている。密偵や暗殺者などの選別には十分注意しろ」

「片っ端から[支配(ドミネート)]の魔法を使うから問題ないわよ」


 ジャニーは子供じゃないんだから心配無用と肩を竦めた。

 それを見てオーガストもジャニーなら大丈夫かと苦笑いを浮かべる。ジャニーは妹のマーチのことになると壊れるが基本しっかり者である。

 妹が傍にいると、擦り寄ったり胸を揉んだり尻を撫で回したりと、酷い有様になるが……

 それでも基本しっかり者だ、与えられた任務を失敗することはないだろう。

 オーガストはオクトに視線を移した。


「オクトにはノイスバイン帝国とエルツ帝国の国境を任せる」


 男は静かに頷くだけだ。はち切れんばかりに隆起した筋肉を持つ偉丈夫は滅多に口を開くことはない。セプテバよりも口数が少なく、いつも首を振って自分の意思を示していた。

 ダークブラウンの髪に浅黒い肌をした男の名はオクト。地竜アースドラゴンである。


 全ての任務を振り分けるとオーガストは一息ついた。

 水差しからグラスに液体を注いで一気に飲み干す。

 そして、口調もいつも通りに戻した。


「何か質問はあるかしら?」


 円卓を見渡し誰もいないかと安著すると、ひょこっと小さな手が挙がる。

 それを見てみな一様に溜息を漏らす。


「メイもお手伝いするの!」


 だが、誰も取り合わない。どうやら見なかったことにするようだ。

 面倒だとばかりにオーガストが話を終わらせた。


「では、質問はないみたいね。任務を与えられたものは速やかに行動しなさい。これで会議は終了とします」

「メイも、メイもお手伝い……」


 メイもレンの役に立ちたい気持ちは同じなのだ。

 だから必死に訴えた。


「メイもお役に立つの、メイも……」


 それなのに自分の声が届かない……メイの瞳には大粒の涙が浮かんでいた。

 それぞれが足早に去っていき、後に残ったのは涙ぐむメイとサンドラだけだった。

 メイを不憫に思ったのかサンドラがメイの頭を撫でてやる。

 堪えきれなかったのだろう。メイはサンドラに抱きつくと声を上げて泣き出した。

 慰めるサンドラに泣きじゃくるメイ。

 この光景を見ればどちらがお姉さんか一目瞭然であった。

 このときサンドラは思った。


 儂の部屋あるんじゃろうか……


 部屋を割り当てられていないサンドラは、メイの部屋に転がり込もうとこのとき決意するのであった。


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