国家樹立11
各国の王を送り届けて竜は居城に戻ってきた。
「レン様、居城に到着いたしました」
いつの間にかオーガストがベッドの傍に椅子を置いて座っている。優しく語りかける声にレンは体を起こした。
『もう着いたのか、他の国の王はどうした?』
「既に各国へと送り届けました」
『そうか……』
「ずっと起きていたようですが、何か考え事でも?」
『エルツ帝国での出来事を少しな……私には覚悟が足りなかった。お前たちのことは何より大切だと思っている、その為には敵対する者の命を奪うことを厭わない。そう思っていたのだがな……』
「申し訳ございません。今回はエイプリルとセプテバを同行させるべきでした。彼らなら皇帝を説き伏せていたでしょうから……」
『お前が悪いわけではない。それに説得できたとしても、あの皇帝なら水面下で良からぬ事を企んでいただろう。恐らく我が国に害を為していたはずだ。今の私には守りたい者が大勢いる、特に我が国民には非力な幼い子供も多い。平和ぼけした今の私では全てを守ることなど不可能なのかもしれない』
「レン様……」
『だから……だから私も覚悟を決める。我が国に仇なす者には容赦しない』
その凛々しい顔つきにオーガストは頬を染めた。普段見せることのない顔に胸が高鳴る。これが自分だけに向けられていると思うだけで体が熱くなっていった。
それを悟られないよに平静を装いながら、オーガストはレンの言葉に耳を傾けた。
『オーガスト、今後の事はどうなっている?』
「エルツ帝国を併合したいのですが、ご許可をいただけないでしょうか?」
『併合だと?』
「はい、放置する訳にもいきません。二度と逆らえないように併合した方がよろしいかと」
『出来るのか?』
「はい、そのためには貴族を取り込む必要がございます。説得にはエイプリルとセプテバを使おうかと。彼らであれば問題なく説得できるでしょう。そこでお願いがあるのですが、貴族を取り込む際に領地などの既得権益をそのまま貴族に与えたいのですがよろしいでしょうか?」
『既得権益を奪わないことを条件に従わせるわけか――いいだろう。それで大人しく従うなら認めよう』
「ありがとうございます。それと、王族も我々に従うのなら命だけは助けようかと思っているのですが如何いたしましょうか?」
『お前に任せる。だが僅かでも背くようなら……』
「畏まりました。その時には相応の報いを受けてもらいます」
『貴族の説得にはどれだけ時間が掛かりそうだ?』
「サントス殿から聞いた話では、下級貴族も合わせると相当な数に上ります。恐らく一週間ほど掛かるのではないでしょうか?上級貴族だけを説得して、下級貴族の説得を上級貴族に任せるという手もありますが、確実性に欠ける上に我々と違い移動にも時間が掛かります。結果として更に時間を費やすことになるでしょう」
『我々で直接説得した方が早いのか。貴族の説得を終えてから王族を説得するのだな』
「その通りでございます。味方する貴族がいなくなっては、王族といえど従うしかないでしょうから」
『一週間か……』
そう告げるとレンは腕を組んで瞼を閉じた。
皇帝が亡くなって直ぐだ、国内は混乱し恐らく軍は動かせない。
だが、密偵を放ち他国の内情くらいは探るだろう。
暗殺者を送り込んでくるかもしれない。
居城にいる俺は安全かもしれないが街で暮らす国民は違う。
警備を厳重にした方がいいだろうな。
「レン様、何かお気に召さないことがございましたら仰ってください」
沈黙したレンを見て不快にさせたと思ったのだろう。目の前ではオーガストが慌てていた。続けて何か発言しようと口を開く前に、レンは手を突き出してそれを遮った。
『すまない、少し考え事をしていた。オーガスト、一週間も時間があればエルツ帝国から密偵や暗殺者が放たれるだろう。国境の警備を厳重にしておけ。もし、我が国に許可なく侵入する者がいたら警告しろ、それでも引かないときは殺せ。エルツ帝国に隣接するノイスバイン帝国とサウザント王国の国境にも誰か待機させろ。それに伴いお前に全上位竜の指揮権を与える。我が国は勿論だが協力国にも被害が及ばないようにしろ』
「畏まりました」
オーガストが一礼するのを確認すると、レンはベッドから立ち上がる。
『居城に戻る。サンドラも紹介しなくてはならんしな』
「お供いたします」
オーガストを従えゴンドラ一階に降りると、ソファは元の位置に戻されサンドラが退屈そうに座っていた。隣ではノーヴェが腕を組み瞳を閉じている。
その向かいには数人の竜人が座っていた。その一人はよく見知った顔であった。王宮学術顧問のクレーズがドレイク王国に戻らずゴンドラに残っていたのだ。
レンが不思議そうに首を傾げていると、レンに気づいたクレーズが真っ先に立ち上がり一礼する。それに釣られるように残りの者が深々と頭を下げた。
『クレーズまだ残っていたのか、ドレイク王国で降り損ねたのか?それに他の竜人は初めて見る顔だな』
「レン様が書庫を管理する者をご所望と窺い、僭越ながらお役に立とうと参った次第でございます。他の者はドレイク王国の宮廷料理人でございます」
それは、以前ドレイク王国から借りるように、カオスに頼んでいた人材であった。すっかり忘れていたが、それを思い出してレンは頷いた。
『よろしく頼む。全員ついてきてくれ皆に紹介しよう。ノーヴェは会議室に全員集めてくれ』
「畏まりました」
ノーヴェは一礼すると早々にゴンドラを出て行った。
ゴンドラから出るとサンドラやクレーズたちが感嘆の言葉を漏らす。
「なんじゃこれ。馬鹿でかいのじゃ。しかも城自体が薄らと光を放っておる」
「これは見事な城ですな」
自分が作った訳ではないが褒められて悪い気はしない。無意識のうちにレンはサンドラの頭上に手を乗せていた。そのまま頭を撫でていると。
「ふぁぁぁぁぁぁ」
変な声がサンドラの口から漏れるのを聞いて思わず手を止めた。見れば真っ赤な顔をしている。
抱き抱えて後頭部を撫でた時にはこんなことはなかったんだが……レンは気にしても仕方ないかと居城の中に入っていった。
きっとサンドラにとっては敏感な場所だったのだろう。身悶えさせながらレンの後を追うのだった。
会議室に入ると既に全員揃っている。今のレンは転移門を使っているため直ぐに会議室に来たはずなのだが何故か全員いる。
恐らく全員転移門の魔法を使って移動しているのだろうが何故か釈然としない。
それなら魔道具の転移門を作る前から直ぐに移動できたはずなのだから。
今思えば転移門の存在を知った後も、魔道具ができるまで馬鹿みたいに歩いて移動していた。
この居城に来た頃、移動に何時間も掛けていたのは何だったのか、恐らく少しでも長くレンと一緒にいたいがため、転移門の魔法を使わなかったのであろう。
だが、レンから見ればいい迷惑であった。
「レン様に半日もお会いできず死にそうな思いでした」
「レン様お帰りなさいませ」
「お帰りを心待ちにしておりました」
レンの姿を見るや、ニュクス、アテナ、ヘスティアが駆け寄ってくる。最近では体を摺り寄せながらの挨拶が定着しつつあった。どうやら俺に拒否権はないらしい、やめろと言ってもやめてくれない。
竜王の言葉は絶対じゃなかったのか!そんなことを叫びたくなる。
相変わらずこの三人は積極的だな。
悪い気はしないんだが、圧が強すぎて怖いんだよな。
あとニュクス、半日会わないくらいで死なないから。
特にお前は殺しても死にそうにない気がする。
『全員席に付け、紹介したい者がいる』
レンは席に着くとサンドラとクレーズたちを自分の後方に並べた。
全員、席に着くのを確認してサンドラを前に出す。
『彼女の名はサンドサ、私の新たな配下でありお前たちと同じく我が竜王国の重臣である。サンドラ、お前からも一言挨拶せよ』
サンドラは胸を張り自信に満ちた表情で挨拶をした。
「儂の名はサンドラじゃ。みなよろしく頼むのじゃ」
だが、何が気に入らないのかアテナとヘスティアが食ってかかる。
「少し言葉使いがなっていないようね」
「そんな言葉使いでは竜王国の重臣としては失格です。お仕置きをしましょう」
言葉使いが悪いと言いながら、その視線はサンドラの胸に集中していた。自分より胸が大きいのが気に入らないのだろう。しかも、着物を着崩して胸を見せびらかすように半分顕にしている。
二人は自分の胸に視線を落として見比べると、表情に影を落としていた。
不穏な空気を察して、サンドラが助けを求めるようにオーガストへと視線を向ける。
だが、オーガストがどうにかできるはずもなく、直ぐに視線を逸らしていた。
大の大人が小さい子供を虐めるのは見ていて気持ちのいいものではない。レンはその様子を見て子供相手になにをやっているんだと助け舟を出した。
『よさないか。言葉使いなど、そんな些細なことを私は気にしない。それに無理やり言葉使いを変えるより、自然に話している方が魅力的ではないか』
サンドラの独特な話し方は癖のようなもので普通に話せない訳ではない。
だが、魅力的と言われてはもう普通に話す気になれなかった。この話し方は一生直さない、そう心に誓うサンドラであった。
「サンドラ、慈悲深いレン様に感謝なさい」
「レン様がそうのように仰るのであれば仕方ありませんわ」
レンの言葉では仕方ない。二人はサンドラの巨乳を羨ましそうに睨み続けていた。
『アテナ、皆と同じ指輪を用意してくれ』
チッ!
「畏まりました」
レンは眉を顰めアテナに視線を移す。
いや、舌打ち聞こえたから。
何をそんなに嫌がってるんだこの子は……
男性のレンには貧乳のアテナの気持ちは分からないのだろう。サンドラの胸を凝視するアテナに、レンは怪訝そうな表情を浮かべていた。
次にクレーズたちが紹介されていく。竜人たちは竜王国に来られたことが誇らしいのか、誰もがやる気に満ち溢れていた。
『オーガスト、クレーズたちの部屋は用意してあるな。誰か案内してやれ』
「それでしたらメイドに案内させましょう」
『では頼む。私は部屋に戻って休むため夕食は必要ない。エルツ帝国の件は任せたぞ』
「畏まりました」
頭を下げ続けるオーガストを尻目に、レンは古代竜を引き連れ会議室を後にした。
その後ろ姿をサンドラは羨ましそうに見つめるのであった。




