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国家樹立9

 帝都だけあり街は広大で活気に満ち溢れていた。大通りともなれば、行商人がせわしなく行き交い、商店の前には人が集まっている。冒険者だろうか剣を携えた男たちが笑みを浮かべて意気揚々と闊歩していた。その面持ちから依頼が成功したことを窺わせた。

 その光景にレンは目を見張る。


 やっぱり街はこうだよな。


 思い描いていた異世界の街並みに酷似していた。

 馬車には各国に分かれて乗っているため、いまこの馬車の中にはオーガストとノーヴェしかいない。

 二人は馬車の小窓からじっと街並みを観察するレンを興味深そうに見つめていた。


「レン様は街がお好きなのですか?」


 不意に声を掛けられ振り返ると、オーガストが不思議そうに小首を傾げている。オーガストから見れば街など何処も一緒なのだろう。街を見て何がそんなに面白いのか分からないのだ。


『この街は活気があるなと思ってな。私の王都もこれくらいの活気が欲しいものだな』

「申し訳ございません。私の力及ばず街はまだ……」

『いや、お前を責めた訳ではない。時間を掛けて大きくしていけばよいのだ』

「はい……」


 オーガストがまた落ち込んでしまう。

 しかし、街を作ってまだ半月ほどだ、人もいなければ街道もない。人の出入りがないのだから活気が出るわけがない。特産といっても農場プラントで量産している作物くらいだ。しかも、値崩れを防ぐため、過剰に供給するわけにも行かない。

 アテナ禁制の魔道具アーティファクトを街で売れば人は集まるが論外だった。それは世界のバランスを崩しかねない。魔道具アーティファクトが多く出回れば、それを利用した犯罪や戦争が起こるかも知れないのだから。


 先ずは他国と国交を結び、街道を整備しなければ……オーガストは頭の中で理想の街作りを思い描いていた。



 街の中を馬車で1時間以上移動すると、ようやく城壁が見えてきた。

 いつの間にか馬車の前では、銀色の全身鎧フルプレートに身を包んだ兵士が馬に乗りながら露払いをしている。恐らく城から使わされた騎士であろう、腰からは一見しても見事な剣を下げている。

 この世界では城の周りを堀で囲むのが一般的のようだ。ヒューリの居城と同じく城は水堀で囲まれていた。さらに城は城壁で囲まれ、一本の跳ね橋が渡されている。

 跳ね橋の前では騎士たちが整列し、馬車の到着を待ち構えていた。


 多くの騎士に見守られながら全ての馬車が跳ね橋を通過すると、何故か跳ね橋は上げられていく。目の前にはさらに城壁があり、城へと続く扉は固く閉ざされていた。

 行き場をなくした馬車はその場に留まることしかできない。御者の男は困惑しているが、先導していた騎士は至って冷静だ。ゆっくりと振り返ったその顔は、何事もないかのように平静を保っている。


「どうやらこの城は敵を迎撃するために城壁を二重に作られているようですね」

『敵を迎撃だと?』


 ノーヴェの言葉にレンは嫌な予感がする。そんな場所で馬車を立ち止まらせるなど、理由は聞かなくても分かる。


『外に出る。同行した者全てを守れ』

「畏まりました」


 最初にノーヴェが馬車から降りると、その後にレンとオーガストが続いた。この状況は明らかにおかしいと感じたのだろう、各国の王や護衛も馬車から降りてくる。目の前の状況を自ら確かめようというのだ。

 護衛は自国の王を守るように円陣を組み警戒すると、それを見計らったかの様に城壁の上から大勢の武装した騎士が現れた。弓に矢をつがえて狙いを定めている騎士もいる。

 弓を構える騎士たちの後ろでは魔術師が杖を握り締めていた。先導していた騎士たちも剣をこちらに向けている。完全に囲まれた状態で逃げ場はない。


 ノーヴェは周囲を見渡し溜息を漏らす。


「やれやれ、この程度の戦力でどうにかなると思っているのですかね。これなら初歩的な防御魔法で十分です」


魔法障壁(マジックバリア)

物理防壁(フィジカルシールド)


 魔法が発動されると馬車ごと防御魔法に包まれていく。その様子を城壁の上から眺めていた40歳前後の偉丈夫が笑い声を上げた。


「がぁっはっは、馬鹿が!そんなことをしても無駄だ!それにしても、本当に国王自ら赴くとはな。知らせを聞いた時には冗談かと思ったが、準備をしていて正解だったようだな」


 よく見知った顔なのだろう、その姿を見て各国の王が顔を顰めた。

 その様子を見てレンはヒューリの元に近づくと城壁の上の偉丈夫を見上げた。戦士のようながっしりとした体格、腰からは装飾を施された剣を下げている。衣服の上からは豪奢なマントを羽織っていた。

 一見すると羽振りの良い冒険者のように見える。 


『ヒューリ、あの男は誰だ?』

「エルツ帝国の皇帝ヴェレク殿です」

『皇帝だと?一体どういうつもりだ……』

「私には何も――ただ明らかに敵意を向けております。昔から他国を蔑む言動があったのですが、まさかここまで愚かとは……」


 隣国という事もあり、ある程度交流のあったサントスが、真意を確かめるために一歩前に歩み出た。その傍にはサンドラが護衛のように控えている。


「ヴェレク殿、お久し振りですな。これはどういう事か説明していただけますかな?」

「説明だと?相変わらず間抜けな爺いだ。説明も何も見た通りだが?いま、お前らを殺せば国は混乱するだろう。次の国王を巡って国が割れるかもしれんな」


 その光景を思い浮かべ、ヴェレクは楽しそうに笑みを浮かべた。各国の王はそれを聞いて察する、国の混乱に乗じて他国に武力侵攻するのだろうと。だが、そう上手くいくものではない、一度に三つの国を相手にするなど無謀でしかない。


「なるほど、ですが一度に三つの国を敵に回すとは狂気の沙汰としか思えませんな」

「そうでもないさ。次期国王が決まるまでは身動きが取れんだろうしな。それに、国王の座を巡って大きな争いが起こるだろう。サウザント王国もノイスバイン帝国も次期国王候補である息子たちは随分不仲と聞いているぞ。ドレイク王国に至っては世継ぎがいないそうではないか。どこの国も泥沼の後継者争いになるはずだ。後は争いに乗じて国を奪うだけ簡単なことだろ?」

「ある程度調べはついているという訳か。じゃが夢物語じゃな……悪いことは言わん。今すぐ剣を引け、お主に勝ち目はないぞ」

「何だそれは?命乞いのつもりか?」


 各国の王たちは自分たちが殺されるとは微塵も思っていない、それどころか哀れなヴェレクを見て肩を竦めた。もはや救いようがない、全ての判断はオーガストに任せると視線を移した。

 オーガストは頷くと一歩前に歩み出る


「我が名はオーガスト、先ずは話しを聞いて欲しい。我は死の大地に新たな国を立ち上げた。その国家樹立を認めてもらうため赴いたのだ」

「一つ聞きたい、ヒューリとオヴェールが来ているということは貴様が戦争に介入したのか?俺の調べでは戦争を止めた奴がいるはずだが……」

「確かにその通りだが、それがどうかしたのか?」

「そうか貴様か……俺が苦労してお膳立てしたのにぶち壊しやがって!あのまま戦争が起これば戦力をだいぶ削れたものを!」


 聞き捨てならない発言に、オヴェールが怒りをあわわにする。


「どういう事だ!我が国になにかしたのか!」

「どうせ死ぬんだ教えてやろう。お前の国の食糧難は俺が仕掛けたことだ。我が国に伝わる戦略級魔法、[天候操作(ウェザーコントロール)]で雨季に雨を降らせ続けたんだよ。ただ残念なことに、この魔法は使い続けることができなくてな。何せ一箇所に雨雲を呼び集から周辺国では雨が降らなくなる。お陰で俺の国も収穫量が落ちてしまった。そこまでして計画が上手くいきかけたのに、まさか戦争を止められるとはな」

「もしや、我が国の貴族がドレイク王国の街をお襲ったのも貴様の差金か!」

「簡単に騙される奴が間抜けなのだ」

「貴様!」


 オヴェールは拳を固く握り戦慄わなないている。

 食糧難に苦しみどれだけ多くの国民が死んだことか。同行している騎士の中には、顔見知りや親族が亡くなった者もいる。こんな話を聞かされて許せるわけがない。怒りで顔を歪め剣を握り締める。

 それを見てヴェレクは鼻で笑うと、片手を上げて振り下ろした。


「やれ!皆殺しにしろ!」


 その声と共に数百の矢が頭上から降り注ぐ、一部の護衛は青褪め死を覚悟した。しかし、矢は見えない壁に阻まれ一本も届かない。空中で弾かれ地面に虚しく落ちるばかりだ。

 城壁の上では矢を放った騎士たちが驚愕の表情を見せる。

 だが、矢が効かないとみるや尽かさず魔術師たちが前に出て次々と魔法を放ち始めた。


火の渦(ファイヤーストーム)][踊る火炎(ブレイズダンス)][雷の雨(サンダーレイン)][火の玉(ファイヤーボール)][稲妻(ライトニング)]……etc


 一瞬にして炎が渦巻き視界を赤く染め上げる。さらに追い討ちをかけるように雷が降り注いだ。

 容赦のない攻撃に馬車を先導していた味方の騎士たちも巻き込まれ、悲鳴を上げて次々と倒れていく。

 ヴェレクは眼下で渦巻く炎とほとばしる雷を見て、生きている者は誰もいないだろうと確信した。

 防御魔法を使っていたが所詮は第3等級の防御魔法、あれだけの攻撃魔法は絶対に防ぐことはできない。城壁の上では誰もがそう思っていた。


 視界が晴れていく中、そこには無傷の人間が姿を現した。

 それだけではない、馬車や馬も無傷、誰ひとり服すら焦げていない。


 レンたちは勿論のこと、各国の王も攻撃は無駄だと分かっていたのだろう。みな平然としていた。一部の護衛だけが口を開けて驚いている。


 その光景を見てヴェレクは近くの魔術師の胸ぐらを掴む。


「何だあれは!なぜ魔法が通用しない!答えろ!」

「へ、陛下、そう言われましても……」


 城壁の上で狼狽するヴェレクに、地上からは冷ややかな視線が向けられていた。


「レン様、如何いたしましょうか?今のままでは説得は不可能かと」

『ノーヴェ……もう奴の顔は見たくない。居城に戻る』

「畏まりました」

「レン様、奴は爺を馬鹿にしたのじゃ。儂は奴を許せんのじゃ」


 いつの間に来たのか、サンドラが直ぐ傍でレンのことを見上げていた。


 サンドラ……


 レンはノイスバイン帝国でのことを思い出す。ノイスバイン帝国では大勢の人が飢え死にしたと聞かされた。レンが購入した奴隷の子供たちも、一歩間違えれば死んでいたかもしれない。

 何よりあの皇帝をこのまま野放しにしておけば、また誰かが苦しめられる恐れがある。

 それを考えれば許すことはできなかった。


『サンドラ、見せしめに城ごと奴を消してくれ』

「分かったのじゃ」


 サンドラはヴェレクに向き直ると両手を掲げた。

 その様子を城壁の上で不思議そうに見つめる者たち、いかに矢や魔法を打ち込まれて無傷であっても優位は変わらないそう思っていたのだ。なにせ相手は城壁に囲まれ逃げ場はなく、自分たちは城壁の上から一方的に攻撃できるのだから。

 しかも、幼い少女、なにもできないだろうと高をくくっていたのだ。

 だが、その考えは過ちだと直ぐに気付かされる。


雷を統べる者(ダイナスボルト)


 放たれた魔法は第10等級魔法、詠唱と共に掲げた手を振り落ろす。

 直後、遥か頭上に魔法陣が浮かび上がり、城を覆い尽くすほどの閃光が雷を纏いながら降り注いだ。

 閃光は城壁の一部を巻き込みながら一瞬にして城を貫き、轟音と地響きと共に地面に吸い込まれていった。


 気が付けば、目の前にあった城壁は跡形もなく消えてなくなり、巨大な縦穴だけが残されていた。

 それは地の底まで続いているのかもしれない、それほど深く暗く闇に閉ざされた空間がそこにはあった。



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