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国家樹立7

「レン様、申し訳ございません。私のせいでこのようなことに……」


 オーガストは半壊した城を見上げてから深々とレンに頭を下げた。

 勝手に飛び出して城を壊したのは許されざる行為だが、結果的に話は纏まり全面協力を得ることができた。

 さらに新たな配下も加わりレンから見ればなにも損はない。半壊した城も後でアテナに直させればいいだけの話だ。

 もし、亡くなった人がいたのなら、相応の賠償金を支払う必要があるだろうが、それは仕方ないと思っていた。

 オーガストもわざとやった訳ではないのだから……


『気にするなオーガスト。お前は配下を殺したかたきを見つけ冷静な判断ができなかったのだ。ならば仕方のないこと、今回の勝手な行動を全て許す』

「レン様……寛大なご配慮ありがとうございます」


 慈悲深い主の言葉にオーガストは更なる忠誠と愛情を深める。そして、これからもレンの傍にいられることに感謝した。


『にしても、ドラゴンで乗り込んだのは失敗だったか。まさか、混乱した人間で溢れかえり降り立てる場所がなくなるとはな』

「ドラゴンでの威圧は私が申し上げたこと、重ね重ね申し訳ございません」


 オーガストが見る間に落ち込んでいく。立て続けの失敗、もしかして失望されたのではと泣きそうになっていた。たとえレンが失敗を許しても、役立たずと思われては生きている意味がない。今のオーガストはレンの役に立つことが生きがいなのだから。


『誰にでも失敗はある。気にするな』

「しかし、これだけの失態、もはや竜王国の女王という大任は退しりぞくほかございません」


 流石にそれは聞き捨てならなかった。各国にはオーガストが王だと紹介してある。何より新たな王にレンが選ばれるのは目に見えていた。レンは王など出来ないし、やりたくもないのだ。


『私は失敗など気にしない、失敗を恐れず何度でも挑戦することが何より大切だと思っている。今後も竜王国の女王としての働きに期待している』


 オーガストは歓喜の表情を見せた。それほどまでに信頼されているのかと喜びを隠せない。


「失態を繰り返す私になんと慈悲深いお言葉、必ずやレン様のご期待に応えてみせます」


 だが、直ぐに気を引き締めると、今度こそレンの役に立ってみせるとオーガストは決意を新たにした。

 オーガストの返答を聞いてレンも安著する。これで矢面に立たされることはないだろうと。王にまつり上げられても何をしていいか分からないのだ、王など真っ平御免であった。




 程なくしてサントスが戻ってくる。重臣たちは城で一番安全な場所――玉座の間に集まっていたため、直ぐに話は伝わった。

 国家樹立を認めるのに意義を唱える者もいたが、神の意志だと告げると誰も反対はしなかった。この国ではサンドラは絶対の存在であり信教の対象である。当然、国政を担う重臣たちも幼い頃よりサンドラを神として崇めてきた。直接、会うことができた時には涙したほどである。その神の意志であるならば認めざるを得ないのだ。

 重臣たちは城の騎士たちを束ねると、事の成り行きを説明した。城が破壊されたのは使者を攻撃して反撃を受けたものだと説明し、こちらから攻撃をしなければ危険はない、絶対に攻撃はするなと厳命したのだ。

 納得できずに顔を顰める騎士もいたが、上空を見上げてどうにもならないと判断したのだろう。なにせ相手はドラゴンなのだから……


 サントスは、このままドラゴンでエルツ帝国に行ったのでは、自国と同じように混乱するだろうとある提案を考えた。幸いにもドラゴンは巨大なゴンドラを下げている。これなら大丈夫なのではと意見を口にした。


「レン様、エルツ帝国にドラゴンで乗り込んでは我が国同様混乱が生じることでしょう。そこで、エルツ帝国の帝都近くからは馬車で移動しては如何でしょうか?」

『確かに馬車で行った方がいいだろうな。サントス馬車の用意を頼めるか?全部で16人も乗れたら余裕だろう』

「では馬車を4台ご用意いたします。私の後から付いて来てください」


 サントスの後ろに付いて階段を上がっていくと、数人の男性が出迎えてくれた。恐らくサントスの重臣であろう、普段部屋から出ることのないサンドラと見ると目を丸くして驚いていた。

 サントスは馬車を手配するように告げるとそのまま城の外へと歩き出す。外に出れば大勢の人間が不安そうに上空を見上げていた。

 直ぐに邪魔な人間をどかせ城の前に開けた場所を作ると、レンは上空に向かって手を振った。それが合図であるかのように、ゴンドラを下げたドラゴンが降下してくる。特に合図を決めていたわけではないが、ドラゴンはレンの意図を直ぐに察したのだ。

 ゴンドラが地面に着くと轟音と共に土煙が舞い上がり、ゴンドラの扉が開かれていった。

 周囲の人間は間近で見るドラゴンとゴンドラの大きさに絶句している。この場から少しでも離れようと走って逃げる者までいた。


「間近で見ると大きいですな……」


 サントスも口を開けてドラゴンを見上げている。


「サントス、私は馬車を積めるようにゴンドラの中を整理してくる。お前は馬車を用意できたらゴンドラに乗せるように」

「畏まりましたオーガスト様」


 ゴンドラに視線を向ければ、ヒューリとオヴェールが心配そうに外に出てきていた。竜王国の人間が急に居なくなったことに不安げな表情を見せている。

 オーガストはそんな二人に歩み寄り何でもないと笑みを見せた。


「サウザント王国の協力は得られた。ついては国王のサントス殿もエルツ帝国に同行することになる」


 二人は半壊した城を見て協力するのは当然だろうと苦笑いした。圧倒的な力の前では誰も逆らえないのだから。


「サントス殿は?」


 サントスも同行すると聞いてオヴェールは周囲を見渡していた。遠くに姿を見つけるが少女と何か熱心に話をしている。


「今は馬車の手配をしている。エルツ帝国には途中から馬車で行くことになった。そのため馬車を入れるスペースを一階に作りたい、同行している者も含めて二階に移って欲しい」

「それはよろしいのですが、なぜ馬車に?」


 オーガストが眉を顰める。


「国民が混乱してどうにもな……まさかあんなに統制が取れなくなるとは、これだから劣等種は……」

「は、はは、そうですな……」


 オヴェールは苦笑いするしかない。我々もその劣等種なのですが――などと口が裂けても言えない。

 それほどオーガストは険しい顔をしていた。オヴェールに言われて先程の続け様の失態を思い出していたのだ。


「一階のソファを全て壁際に寄せる。貴殿らの従者にも手伝ってもらいたいのだがよろしいか?」

「勿論ですとも」


 ゴンドラの中に入るとオーガストの指示で手際よくソファが寄せられていく。馬車が入る場所を確保できると全員二階へと上がっていった。

 二階の会議室に通されたヒューリとオヴェールは感嘆の声を上げる。一階の応接室にも驚かされたが、二階も見事な作りになっていた。部屋の半分を占める重厚な円卓に見事な椅子、椅子の置かれた場所には水差しやグラスなど喉を潤す物が置かれている。

 二人は思い思いの場所に腰を落として部屋の中を眺めた。壁には美しい絵画が掛けられ、天井には宝石を散りばめたシャンデリアが吊るされている。

 その余りの美しさにみな一様に息を呑む。そんな中でもオーガストだけは見慣れた光景に平然としていた。

 調度品に見とれていると全ての準備が整ったのか、サントスやノーヴェが姿を現した。


「そろそろ出ますよ全員席に着いてください」


 ノーヴェの言葉に護衛たちがどうしたものかと顔を見合わせた。上座のない円卓ということもあり、護衛や従者は自国の王の後ろに控えていたのだ。

 だが、レンやサンドラが椅子に座るのを見ると、真似るように椅子に座った。


「お久し振りですなルボルトス殿」

「サントス殿もお元気そうで何よりです。私のことはヒューリとお呼びください。ドレイク王国には家名で呼ぶ習慣はありませんので」

「そうでしたな。では改めてヒューリ殿、貴殿もオーガスト様に協力を?」

「当然です。我が国は竜王様を神として崇めておりますので」


 様という敬称を聞いてオヴェールは眉を顰めた。一国の王が他国の王を呼ぶのに様をつける、それは明らかに対等な関係ではないと物語っている。

 竜王国の正確な国力は分からないしても、恐らくノイスバイン帝国よりも圧倒的に上だ。戦力だけ見るならもはや手がつけられない。オヴェールは自分も敬称を改めた方がよいのではと考えていた。


「オヴェール殿は何故オーガスト様に協力を?」


 答えなければならないのかと顔を顰めるも、隠しても何れ知られることになる。オヴェールは溜息を漏らすとサントスに視線を向けた。


「我が国はオーガスト殿より多大な食糧支援を受けたのでな。その恩は返さねばならぬ。そう言うサントス殿はどうして協力しようと思われたのですかな?それも僅かな時間の間に」


 サントスは少し困った顔をするとサンドラに視線を移す。サンドラは話を聞いていなかったのだろう「なんじゃ?」と首を傾げている。そんなサンドラに柔らかい笑みを浮かべると、再びオヴェールへと視線を移した。


「我が国の神が竜王様の配下になったものですから。神の言葉は絶対なのですよ」

「神……ですか……」


 オヴェールはジュンのことを思い出していた。

 一人で国を滅ぼせる圧倒的強者、あの強大な力を持つ者がまた一人竜王国に加わったのでは……

 そう思うと竜王国はどうなっているんだと頭を抱えたくなった。今ですら過剰戦力なのにまだ増えるのかと。


 いっそのこと竜王国の属国になった方が幸せかもしれんな……オヴェールは誰にも聞こえないように小さく呟いた。


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