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国家樹立6

 愛おしそうにレンに抱きつくサンドラ。その柔らかい感触にレンは一瞬たじろいだ。僅かに視線を落とせば豊満な胸がこれでもかと押し付けられている。だが、レンから見れば子供という認識なのだろう。直ぐに笑みを浮かべ子供をあやす様にサンドラの後頭部を優しく撫でた。

 髪をくように撫でながら、レンはサンドラの胸に視線を移す。


 サンドラは見た目は幼いのに随分と胸が大きいな。

 これがロリ巨乳という奴か、将来はニュクスよりも大きくなるんじゃないか?

 着物を着てるのも珍しいけどきちんと着れてないし、やっぱり子供だな。


 レンは大きい胸には弱いがロリコンではない。そのためサンドラのことも子供という認識でしかなかった。当然、欲情するようなこともなければ、恋愛対象からも外れていた。レンから見れば可愛い妹のような存在なのだろう。

 レンが思いにふけっているとノーヴェが困った顔を見せ上空を見上げる。


「レン様、これから如何いたしましょう」


 そこには無残に半壊した城の姿が見えた。他国の王が乗り込んできて城を壊したのだ。この状態でサウザント王国の国王に会っても、国家樹立を認めさせるのは困難と思われた。勿論、脅迫し力ずくで従わせることは可能だが、それはレンの意思に反する行為。ノーヴェはこのまま国王に会うか改めて出直すか問いただしたのだ。


『どうしたものかな……』


 これからのことなどレンに分かるはずもない。ことの成り行きを見守るために同行したのに、いきなり巻き込まれても困ってしまう。しかも、他国の城を破壊するなど想定外のことだ。いまのままでは国家樹立を認めさせることは絶対に無理だろうとレンも考えていた。自国の城を破壊されてなお協力するなど、常識で考えてもそんな国王がいるはずもない。むしろ宣戦布告と捉えるのが普通だ。


「レン様どうしたのじゃ?」


 サンドラは思い悩むレンを心配そうに見上げていた。首元に抱きついているため互いの顔が近い、恥ずかしさと嬉しさで顔を真っ赤にしながらレンに尋ねる。その愛くるしさにレンも思わず笑みが溢れた。


『この国の国王に会いに来たのだが……この有様ではな』

「国王じゃと?」

『協力してもらいたい事があったのだが……』


 レンは半壊した城と瓦礫の山を見て苦笑いを浮かべた。

 するとサンドラは少し離れた場所で腰を抜かす老人に視線を向ける。


「爺、聞いた通りじゃ。レン様に協力するのじゃ」


 老人――サウザント国王、サントスには拒否権などない。なにせサンドラはこの国の神なのだから……

 サウザント王国はサンドラがオーガストから身を隠すために作った国であった。その始まりは、城から奪った財宝を使い近くの村から人を集めて地下に隠れ家を作ったことにある。近くの魔物はサンドラがほぼ全て駆逐していたため、安住の地を求めた人間が更にその場所に集まってきたのだ。

 食事を取るため定期的に魔物を狩っていたこともあり、街ができるころにはサンドラは魔物の驚異から人間を救う神として崇められていた。

 いつしか隠れ家の上には城が築かれサンドラを神として崇める国ができたのだ。


 サントスは思案した。神の言うことには極力逆らいたくないが、内容によっては無理なこともある。国民をドラゴンの餌として差し出せと言われても聞けるはずもない。


「レン様と仰っいましたかな?私は何を協力したらよいのでしょうか?」


 爺と呼ばれた老人を見てレンは首を傾げた。執事とも思ったがどうも違う、見れば見事な衣装を身に纏っていたのだ。この国のお偉いさんかな?そんな事を考えながら老人を眺めていた。

 不思議そうに首を傾げるレンを見て、まだ自己紹介をしていないことにサントスは気がづく。直ぐに立ち上がり居住まいを正すと口を開いた。


「自己紹介がまだでしたな。私はこのサウザント王国の国王トマス・フロイ・ディ・サントスと申します。以後お見知りおきを」


 深く一礼する老人を見てレンは言葉が出ない。


 この爺さんが国王だと?

 しかも、城を壊したのに協力してくれるとはどういう事だ?

 お人好しにも程があるんじゃないのか?


 レンが状況を把握できずに黙っていると、サンドラが気にするなと後押しする。


「爺は儂の使用人みたいなもんじゃ。レン様は何も気にせず命じるだけでよいのじゃ」

『国王が使用人?……サンドラお前はこの国ではどういう立場なんだ?』

「神様じゃ。この国では一番偉いのじゃ」


 はぁ?


『……神様か……それは凄いな』

「レン様に褒められたのじゃ。とても嬉しいのじゃ」


 サンドラは嬉しそうにレンの胸の中ではしゃいでいる。その様子を見てオーガストは耐えかねたのだろう、サンドラの頭を鷲掴みにするとそのまま持ち上げた。


「サンドラ、いつまでもレン様にしがみついてはご迷惑でしょう?いい加減に離れないとだめよ」


 オーガストの優しい口調とは裏腹に、その手には相当な力が込められている。サンドラが急に悲鳴を上げて騒ぎ出した。鷲掴みにした頭からはミシミシと嫌な音が聞こえてくる。


「ぎゃぁぁい、痛いのじゃ。オーガスト離してたもう。あ、頭が割れるのじゃ」

「軽く持ち上げただけなのにサンドラったら大げさね。お騒がせして申し訳ございませんレン様」


 サンドラの悲鳴を聞けて満足すると、オーガストはそのままサンドラを地面に落としてレンに謝罪した。サンドラは痛そうに頭を抑えながら地面を転げ回っている。


「あの、それで協力とは……」


 サントスが転げまわるサンドラを見て顔を顰めた。そして、このままでは話が進まないと恐る恐る尋る。無理な注文はしないでくれと心から願いながら……


『そうだな話を進めるか。私はこれから死の大地に国を作る。その国家樹立を認めて欲しい』

「死の大地ですか?あそこは不可侵領域、我が国が認めても他の国が黙っていないのでは?」

『既にドレイク王国とノイスバイン帝国には認めてもらっている。後はこの国とエルツ帝国だけだ』

「もし、認めなければ?」

『別にどうもしない。ただ国は勝手に作らせてもらうがな。承認を得るのは他国との武力衝突をなるべく避けるためだ。お互い出来れば血を見たくはないだろう?』


 少し脅すように話しかけると、サントスは表情を曇らせ苦笑いを見せた。

 最強だと思っていた自国の神ですら容易くねじ伏せるのだ。そんな存在に喧嘩を売る馬鹿などいるはずもない。


「要件は分かりました。我が国は国家樹立を認めましょう。正直、レン様の国とは敵対したくはありませんので」

『それは何より。それと我が国の王は私ではない、そこにいる彼女だ』


 レンの視線の先にいるのはオーガスト、サントスも釣られるようにオーガストへ視線を向けた。


「初めましてサントス殿、私はこれから作る国、竜王国の女王オーガスト。貴殿の協力感謝する」

「お聞きしたいのですが、レン様はどのようなお立場なのでしょうか?失礼ながら先程の会話から察するとオーガスト様より上のご身分と思われるのですが」

「レン様は世界を統べる竜王、国の王などと矮小な立場に収まる方ではない。国家樹立に関しては私が任されている」

「……そうですか」


 国の王が矮小か……サントスは誰にも聞こえないように小さく呟き苦笑いした。


「よいかレン様のことは他言無用、口外したら相応の災厄が降りかかると思え。いまのレン様のお立場は私の従者ということになっている、それを忘れるな」

「畏まりました。絶対に口外いたしません」


 この光景を見ればサントスはまるでオーガストの臣下の様である。オーガストはそれを気にする様子もない、当然とばかりに上から目線で話しかけていた。

 一方のサントスも全て従うつもりでいた。もはや民の暮らしが守られるのであれば属国でも構わないと思っている。なにせ数多くのドラゴンを従える強大な力を持つ者たち、今までよりも安全が確保されると容易に考えられた。だから先程からレンやオーガストを呼ぶときに様を付けて敬うように呼んでいたのだ。


「サンドラ、お前も話は聞いていたな?」

「わ、分かったのじゃ。レン様のことは秘密なのじゃ」


 サンドラはいまだ頭を抑えながら地面を転がり悶え苦しんでいた。


『サントス、この城は後で私の配下に修復させる。今すぐ国家樹立を認める書状を書いてもらえるか?』

「今直ぐにでございますか?」

『これからエルツ帝国にも行かねばならんしな。出来れば他の三国の了承を得たことを証明したい』

「レン様、そのことなのですがサントス殿にも同行していただいては如何でしょうか?」

『……そうだな。ヒューリとオヴェール、あの二人に各国の王を説得してもらうつもりだったが、幸いサントスも私に協力的のようだ。三人でエルツ帝国の皇帝を説き伏せてもらおうか』


 ヒューリとオヴェール?サントスが小さく呟き、思い出すように虚空をじっと見つめていた。すると徐々に目を見開き驚きの表情を作る。


「ヒューリとオヴェールとはドレイク王国のヒューリ・ルボルトス国王と、ノイスバイン帝国のワイゼン・サルエス・ハルア・フォン・オヴェール皇帝のことでは?」

『その通りだ。今は上空で待機させている』

態々(わざわざ)、各国の王が自ら赴いているのですか?」

『それがどうかしたのか?』

「い、いえ、そういう事であれば私もエルツ帝国に赴きましょう」

「それでこそ爺じゃ。レン様に我が国の忠誠心を示すのじゃ」


 痛みから復活したサンドラが手を振りながらサントスに駆け寄っていった。サントスも孫を見るように微笑んでいる。こうして見ると中の良い家族にしか見えない。


「その代わりサンドラ様には私の護衛をしていただきますよ」

「まぁ爺にいま死なれても困るからのう。仕方ない守ってやるのじゃ」

「ではレン様、私は重臣たちへの報告がございます、暫しここでお待ちください。いま下手に城の中を動かれますと城を守る騎士たちに襲われるやもしれません」

『分かったサントス。なるべく早く頼むぞ』

「畏まりました。では、失礼いたします」


 サントスは踵を返すと階段を登りながら思いを巡らせた。

 二つの国の王が自ら出向くほどのこと、つまりそれだけ竜王には敵対したくないと考えているのだ。

 そして協力を惜しまず、友好関係を築こうとしている。

 我が国も今のうちに少しでも友好関係を築いた方がいいだろう。

 なにせ相手は力では絶対に勝てぬ存在なのだから。


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