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国家樹立2

 仰々しく頭を下げる配下を見て、レンは軽く苦笑いをする。


『面を上げよ。相談したい事もある』


 再び視線が集まるなか、レンは購入した奴隷をどうするか考えていた。

 国民にすると言っても多くが子供だ、仕事をさせるわけにもいかないだろうし、かと言って何もさせないわけにもいかない。

 学校を作って読み書きや簡単な計算くらいは覚えさせる必要もあるだろう。

 どれだけの子供が来てくれるか分からないが、生活環境は整える必要がある。


『オーガスト、私が奴隷を購入したことは知っているな』

「はい、庭園にいた大勢の人間ですね」

『そうだ。何人来るか分からないが我が国の国民とする。だが、その多くは子供たちだ。そこで住居の他にも学校を作ろうと思うのだがどう思う?』

「不要かと、子供といえど多くは幼い頃から働くものです。必要な知識は生活の中で培われていきます」


 周囲に視線を向ければみな頷いていた。レンからすれば驚きの事実だがこの世界では当たり前であった。何より勉強をしても、その多くの知識が活かされることは殆どないのだ。

 そのため勉強をする時間があるのなら働くのが、この世界では一般的な常識であった。

 例外もあるが、それは裕福な家庭の子供にしかできない。庶民では高い授業料を支払うことができないのだから。他に学校に通えるのは皇族や貴族くらいしかいない。奴隷になるような子供が学校に通うなど有り得ない事だった。

 だからオーガストは必要ないと言い切ったのだ。

 レンはテーブルに両肘をつくと、軽く組んだ両手に顎を乗せながら暫し考える。


 この世界では子供を働かせるのが普通なのか。

 俺の感覚では子供は学校に行くのが当たり前なんだが…… 

 今まで学校に行っていなかった子供を無理に学校に行かせても、どんな弊害があるか分からないか……

 郷に入っては郷に従えと言うしな。

 ここはオーガストに任せよう。


『分かった、学校の件は保留としよう。子供たちを働かせるのはよいが重労働は駄目だ』 

「それでは、城のメイドは如何でしょうか?人手が足りず清掃が行き届いておりません」

『メイドだと?』

「はい、力の弱い女性にはメイドとして城で働いてもらい、男性には農場プラントで収穫作業を行わせるのです」

『……農場での作業は重労働ではないのか?』

「そのようなことはございません。人手のいる収穫は子供のうちから手伝うものです。子供でも慣れた作業ですし、大人にも補佐させますので問題はないかと」

『ならばオーガストに任せる。くれぐれも無理はさせるな、十分な休憩時間も与えよ』

「お任せください。必ずやご期待に添える働きをいたします」


 オーガストが深々と頭を下げると、レンはアテナに視線を移した。


『アテナ、お前には街を作ることを命じる。オーガストと相談し、我が国民が不自由なく暮らせる街を作るのだ』

「畏まりました。竜王国に相応しい街をお作りいたします」


 これで購入した奴隷たちのことはいいだろうと、レンは次のことを切り出した。


『では今後のこと、国家樹立に関してだが……オーガスト、お前に数多くの任務を与えているが負担になっていないか?』

「負担なんてとんでもございません。もっと、任せていただいても大丈夫でございます」


 オーガストは目を輝かせながら仕事をくれと催促する。数多くの任務を与えられるオーガストには、羨望と嫉妬の眼差しが周囲から向けられていた。


『そうか、程々にな。体調を崩すようなら他のものに任せるから直ぐに言ってくれ』

「なんと勿体無いお言葉。ですが私のことはお気になさらぬように。任務を与えていただけるのはご褒美のようなものですから」


 当然、レンから与えられた任務を誰かに譲るはずがない。レンの役に立てる機会を誰かに譲るなど有り得ない事だからだ。

 オーガストが歓喜する様子を見て、レンは訝しげな顔を見せる。任務を与えれば与えるほど喜ぶなどレンには思いもよらなかった。何故、任務を与えられ喜ぶのか。レンは混乱するばかりである。


『ではオーガスト、国家樹立に関してだが詳しく聞かせてくれ』

「畏まりました。先ず国家樹立の後ろ盾になる見返りに、ノイスバイン帝国へ土地の再生を行うと告げましたが断られました」


 えっ?


『交渉は上手くいったのではないのか?』

「食糧支援だけで十分と。恐らくこれ以上借りを作りたくないのでしょう」

『そういうことか』

「各国へ送る国家樹立を宣言する親書ですが、これはノーヴェに持たせようと思います。その際、ノイスバイン帝国とドレイク王国の使者も伴わせ、我が国の国家樹立を認める親書も同時にお渡しいたします。会談の場を直ぐに設けられると良いのですが、各国がどのように動くかは分かりかねます。そこでお願いがあるのですが、親書を運ぶ際にはレン様のゴンドラと、下位竜デグレートドラゴンを10体ほど貸してはいただけないでしょうか?」

『10体だと?』

「はい、馬鹿なことを考えないように、武力では勝てないと分からせた方がよろしいかと。あくまでも威圧をするだけに止めます、実際に危害を加えることはございません」

『威圧か……ならば許可しよう』

「ありがとうございます」


 結局は向こうの出方次第か。

 まぁ仕方ないだろうな。

 上手く話が纏まればいいが……

 国家樹立の件は取り敢えずこれでいいとして、他に何かあったかな?

 ……あっ!そうだ。エイプリルに金貨を返さないと。

 

『カオス、ウェンザー山脈の城にある宝を全てこちらに移せるか?』

「ご命令くだされば直ぐにでも」

『アテナ、この居城に宝物庫はあるか?』

「勿論ございます」

『ではカオスに命じる。宝を全てこの城に移せ。それと共にウェンザー山脈にいる下位竜デグレートドラゴンをこの居城に呼び戻すのだ』

「はっ!畏まりました」


 カオスは席を立つと直ぐに食堂を出て行ってしまった。テーブルには手付かずの料理が残されている。それを見てレンは内心呟いた。食事を終えてからでいいのにと。

 よく見ればメイ以外は誰も料理に手を付けていない。レンも考え事をしていて食事どころではなかった。


 もしかして俺が食べてないから、誰も料理に手を付けていないのか?

 有り得るな……なにせ基本的にみんな融通が利かないからな。

 みんなの忠誠心は嬉しいがそこまで気を遣わなくてもいいのに。


『話が長くなったな。折角の料理が冷めてしまわないうちに食べてしまおう』




 朝食を済ませると、いつものように書庫に籠った。読書をして時間を潰していると、エイプリルとジュンが戻ったと報告を受けた。

 どうやら奴隷を運んできたらしい。食料を渡して空になったゴンドラに乗せてきたようだ。

 直ぐに寝室に戻ると二人はレンを待っていた。


「レン様、奴隷を連れてまいりました。今はまだゴンドラの中で待機させております」

「ちゃんと意思も確認したっす。ほぼ全ての人がこっちに来たっすよ」


 いまニュクスたち三人は街を作りに出ているため、エイプリルはいつもの口調になっている。


『何か問題はなかったか?』

「問題と言う程のことではありませんが、犯罪を犯して奴隷に落とされたものは如何いたしましょう」

『犯罪?』

「はい、奴隷の中には犯罪を犯して奴隷に落とされたものがいます。犯罪奴隷と呼ばれるらしいのですが、そのものたちも国民として扱うのでしょうか?」


 レンはそれを聞いて、そんな奴隷までいるのかと頭を抱えたくなった。普通の国民として扱うのは不味いだろう、どうしたものかと悩むもいい答えは出てこない。

 刑務所を作るのもいいが、まだ人材の少ない中で刑務所の管理に人を使うのも勿体無い。


『犯罪とはどの程度のものだ?』

「窃盗でございます。食料を盗み奴隷に落とされたようです」

『食料を盗んだだけで奴隷に落とされるのか?』


 レンは表情を曇らせる。この世界での窃盗はそれほど罪が重いのかと驚くが、それをエイプリルが否定した。


「いや、普通はありえないっす。恐らく食料を盗む人が絶えなくて、見せしめに奴隷に落とされたんじゃないっすかね」

『なるほどな。では人殺しのような重罪を犯したものはいないんだな?』

「契約書には一通り目を通しましたが、そのような人物はいませんでした」

「ノイスバイン帝国では重罪を犯した人は鉱山に送られて強制労働になるみたいっす」

『そうか、ならばお前たちが連れてきた奴隷は全て我が国民として扱う』

「畏まりました。では、奴隷はどちらに運びましょうか?」

『いまニュクスたち三人が街を作っている。そこに奴隷を住まわせるつもりだ』

「それでは奴隷をそこまで運んでまいります」

『よろしく頼む』


 二人は一礼すると寝室を後にした。


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