国家樹立1
居城に戻るとカオスが出迎えてくれた。
農場プラントでの役割も終わり、レンが居城に戻らせたのだ。
ノイスバイン帝国に支援する食料を確保した時点で、農場プラントの全ての権限をジュライに移行した。
今は世話になったドレイク王国に、お礼として送る食料を量産させている。
それが終わり次第、他国に売りつける食料を量産させるつもりだが、食料が過剰になってもよくない。
値崩れすれば農業を生業として生きている大勢の人が生活できなくなるからだ。
その調整を行わなければならないが、当然レンに出来る訳がない。
今後の会議で誰かに丸投げするのは目に見えていた。
レンがゴンドラから降りると同時に、カオスが洗練された動きで一礼する。
「お帰りなさいませ、レン様」
『出迎えご苦労』
「寝室の用意はできております」
『寝室の用意だと?』
寝室の用意ってなんだ?
俺の寝室に何か入れたのか?
「はい、この度は古代竜のみならず、上位竜ともご婚約されたとか。おめでとうございます」
『!?』
「つきましては、ニュクス、アテナ、ヘスティアを寝室に待機させました。三人ともレン様のお帰りを待ち望んでおられます」
はぁ?
カオスお前なにしてくれてんの?
俺がどんな思いで毎日逃げ回ってると思ってるんだ!
勝手なことするなよ!
『カオス、勝手なことはするな』
「申し訳ございません。まさか上位竜もご一緒がよろしいとは」
違うよ!!!
前から薄々感じていがお前は馬鹿なのか?
なんで言葉が通じないんだよ!
『いや、そうではない』
「みなまで言わなくても分かります。レン様は慈悲深いお方、上位竜も古代竜と等しくご寵愛なされるのですよね」
何にも分かってねぇよ!!!
カオス、お前は取り敢えず病院に行け!
1万年入院しろ!
頭の中を見てもらえ!
「お世継ぎがお生まれになる光景が目に浮かびます」
何を妄想したのか、カオスは歓喜の表情で大粒の涙を流し始めた。
それを目の当たりにしたレンはドン引きである。顔を引き攣らせ苦笑いをするばかりだ。
残念だがカオスはもう手遅れのようだ。
頭の中がこれほど重症とは……
『カオス、私は一人で休みたい。今日はゴンドラの寝室で休むからそう伝えろ』
「レン様お待ちください。何卒、ご再考を。三人とも楽しみにしております」
『くどい!これ以上は私を不快にさせると思え!』
「……も、申し訳ございません」
そこまで言われては引き下がるしかない。三人に期待を持たせたカオスがどうなるか、それは火を見るより明らかである。そのことを思い、カオスは大きく肩を落とした。
レンは踵を返すとオーガストに向かい合う。
『オーガスト、ゴンドラの六階に寝室があると言っていたな?』
「はい、ございます。直ぐにでもお休みになれるよう、準備は整えております」
『では、案内しろ』
レンはオーガストと共にゴンドラの中へと消えていった。
竜王専用のゴンドラは全部で六階に分かれていた。
一階は来訪者をもてなす応接室、ニ階は会議を行うための会議室、三階は客人のための宿泊施設、四階は食堂と風呂場、五階は古代竜や上位竜の待機部屋、六階が竜王の寝室になる。
移動中でも何不自由なく過ごせるようになっていた。
初めて入る六階の寝室、そこは居城の寝室より遥かに小さいが、勝るとも劣らない見事な作りになっていた。
『案内ご苦労、下がってよいぞ』
だが、オーガストは動こうとしない。どうしたのだろうと眉を顰めていると、目の前で急に跪いた。
「恐れながらレン様、如何に居城の上とは言え万が一がございます。護衛として寝室に残る許可をいただけないでしょうか?」
相変わらず過保護だなと思いつつも、護衛がいなければ納得しないだろうと、レンは小さく溜息を漏らす。
『仕方ない。私の護衛として寝室での滞在を許す』
「どの様な事があろうとも、必ずお守りいたします」
深く頭を下げながら、オーガストは上手くいったと顔を歪めた。広角は上がり目は血走る。息遣いが荒くなるのを気付かれないように必死に堪えた。
幸いにも頭を下げているため、その表情はレンに見られることはない。もし、見られていたのなら絶対に護衛など許さなかっただろう。それほど異様な表情をしていたのだ。
部屋の片隅に佇み、レンが寝静まるのを静かに待つオーガスト。
夜も更けレンが完全に寝静まった頃、オーガストはゆっくりと動き出した。
ベッドに上がり込むとレンの隣に寄り添う。そして、うっとりとレンを見つめて、そのしなやかな指を自らの股間に這わせた。
周囲にも警戒し細心の注意を払いながら、オーガストの行為はレンが目覚めるまで続けられた。
レンが目を覚ますと微かに良い香りが鼻腔を通り抜ける。
起き上がり周囲を見渡せば、部屋の片隅ではオーガストが微笑んでいた。
「おはようございます、レン様」
『おはよう、オーガスト』
「よくお休みになられましたか?」
『ああ、お前も護衛ご苦労だったな。早速だが居城に戻る』
「はい、お供します」
いつもの変わらないオーガストの様子からは、誰も深夜の行動を予測できないだろう。当然レンも知る由もない。オーガストを引き連れながら、朝食を取るため食堂に足を運んだ。
いつもより少し早い時間、食堂には古代竜以外みな集まっていた。
食堂の入り口付近にいたノーヴェが一礼する。
「おはようございます、レン様」
『ノーヴェ、カオスたちはどうした?』
「レン様を起こされに向かわれたのではないでしょうか?」
『そうか、何処かですれ違ったか』
以前なら大捜索が行われるところだが、今は通話用の指輪がある。
レンは四人に向けて呼びかけた。
(カオス、ニュクス、アテナ、ヘスティア聞こえるか?)
(レン様!)(レン様、今どちらに?)(レン様、早くお会いしたいです)(レン様、おはよございます)
同時に話しかけられレンは顔を顰める。普通に話しかけられるのとは違い、直接頭の中に声が響くため気持ちが悪くなるのだ。
複数同時に話しかけられると、相変わらず訳が分からないな。
(私は食堂にいる。食事をしながら話したいこともある。直ぐに来てくれ)
(畏まりました)
程なくしてカオスたちがやってきた。
ニュクス、アテナ、ヘスティアは満面の笑みでレンの元に駆け寄ると、それぞれ思い思いに話しかけてきた。丸一日レンと会っていなかったのが淋しいのか、話しながらこれでもかというくらい体を押し付けてくる。
それに引き換えカオスは何故か憔悴していた。
だが、大体の予想はつく、恐らく三人に責められたのだと。寵愛を受けられると期待させられた分、その落差は大きいだろう。
不憫なカオスに心中察するレンであった。尤もカオスが余計なことをしなければ、何もなかったのだ。自業自得と言われても仕方ないだろう。
『席に着け、話したいことがある』
三人は仕方ないと、レンから離れて席へと座る。
全員、席に着いた時には既に料理が並べられていた。メイはもう食事を始めている。これはいつものこと、もはや誰も気にする様子もない。
『先ずはご苦労だった。お前たちの働きのお陰で、ノイスバイン帝国の協力を得ることができた。お前たちには感謝の念が絶えない』
感謝しているいう言葉を受けて、みな一様に歓喜する。労いの言葉のみならず、まさか感謝されるとは思ってもみなかったのだろう。その喜びが全身を駆け巡るかのように満面の笑みを作った。
「レン様から感謝のお言葉をいただけるとは恐悦至極にございます」
「なんと、勿体無いお言葉」
「レン様のためであればこの命、惜しくはありません」
「これからも、レン様のお役に立てるよう努めてまいります」
カオス、ニュクス、アテナ、ヘスティアが、感極まったように礼を述べた。
オーガストたち上位竜も瞳を輝かせている。
レンは威厳を保つように尊大な態度を保ってはいるが、その大げさな喜びように内心では訳が分からないと頭を悩ませていた。
抑、レンは何もしていない、居城で大好きな読書をする毎日だ。働いたのは他でもない、配下の古代竜と上位竜である。感謝するのは当たり前のことなのに、何故大げさに喜ぶのか理解できないのだ。
よく分からないが大げさなんだよな。
俺が感謝するのは当たり前なのに……
それとアテナ、命は惜しんでくれ。
死んだら駄目だからな。
『お前たちの忠義嬉しく思う。これからも私に尽くしてくれ』
その言葉にみな一様に頭を下げた。配下思いの慈悲深い主に、この身の全てを捧げるように。




