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竜王国13

 ニュクスは喜々としてレンの寝室に歩みを進める。

 主要な箇所を結ぶ転移門トランスゲートは完成している。今はその報告に向かう途中、否応がなしに顔が緩み笑みが出る。レンに褒めてもらえることを想像すると自然と足が軽くなった。駆け出したい気持ちを抑えながら努めて優雅に廊下を歩く。

 寝室の前で立ち止まると、深く息を吸い込み高ぶる気持ちを落ち着かせた。

 扉を叩こうと寝室に意識を移すと部屋の中から二人の気配を感知じる。

 二人?ニュクスは訝しげな表情をすると寝室の気配を探った。感じる気配はレンと……アテナ?

 レンに大切な家族と言われたその日から、ニュクス、アテナ、ヘスティアの三人は協力関係にある。誰かが抜け駆けするなどありえない程に仲も良くなっている。


 取り合えず中に入り確認するのが先……


 ニュクスは扉を優しく叩き寝室の向こうに声をかけた。


「ニュクスです」

『入れ』


 その声を聞くだけでも喜びが溢れてくる。にやける顔を取り繕い、平静を装うと扉を開いて中を見渡す。

 ソファにはレンが座り、その向かいにアテナが腰を下ろしていた。レンの手元に幾つもの指輪が見える。


『ニュクス、丁度いいところに来たな。アテナが魔道具を完成させたところだ。お前にも渡しておこう』

「それでアテナがいたわけですか」


 ニュクスはレンの隣に腰を落とすとアテナへと視線を移す。

 その瞬間、ニュクスの瞳は大きく見開かれた。獲物を狙う鷹のように、アテナの左手に釘付けになる。


『ニュクス、左手を出すがよい』


 その言葉にニュクスの思考は加速する。


 アテナのあの左手薬指の指輪。

 もしかして、私とアテナ、ヘスティアが伴侶として選ばれた?

 レン様は以前、私たちを家族と呼んでくださった。

 きっと間違いないわ。


 ニュクスの瞳から涙が零れ落ちる。小刻みに震えながら左手を差し出した。そして、薬指に嵌められた指輪を見て歓喜の涙が溢れ出す。

 今のニュクスはレンの伴侶として選んでもらえた喜びで満ち溢れていた。

 零れ落ちる涙と表情を見てレンは躊躇する。


 絶対に勘違いしている!!


『ニュクス、勘違いするなよ。アテナにも言ったが指輪を嵌めても夫婦になるわけではない。これは離れた相手と会話をするだけの魔道具でしかない』

「婚約指輪でございますよね。レン様」


 アテナ!余計なことを言うんじゃない!!


「婚約指輪でも夢のようです。この指輪は私の生涯の宝といたします」


 感極まったニュクスはレンに抱きつき離れようとしない。アテナもレンの隣に座ると逆サイドから抱きついてきた。


「私もレン様に愛してもらえるよう精一杯尽くします」


 くそっ!本当に仲良くなったなお前ら。

 とにかく誤解を解かなければ……


『いいか結婚するわけではないぞ。勘違いするなよ』

「でも何れは結婚していただけるのですよね?」

「直ぐでなくてもかまいません。私たちはお待ちいたします」


 確かに何れは誰かと結婚したい……とは思っている。

 だが恋人をすっとばして結婚は重い、重すぎる。

 そして何故か怖い……

 抑も女性と付き合ったこともないのに、いきなり結婚とかおかしいだろ?


『結婚は長い年月をかけて互いをよく知ってから行うものだ』

「はい、それでかまいません」

「私もニュクスと同じです」


 二人は真摯な瞳でレンを見つめる。その瞳からは揺るがぬ強い信念を感じる。きっと二人はいつまでも、其れこそ何十年でも待ち続けるだろう。

 レンは抱きつく二人の柔らかい感触に戸惑いつつも、その真剣な眼差しに優しく二人を抱き返す。


 あんな目で訴えられたら断れないじゃないか……

 これからどうなるんだろう。

 いや、それよりもヘスティアにも指輪を渡さないといけないんだよな。

 もしかしたらオーガストたちも同じような反応をするのか?

 先が思いやられる……


 至福の表情で抱きつくニュクスを見てふと思う。


 あれ!?そう言えばニュクスって何でここに来たんだ?


『そう言えばニュクス、お前は私に何か用があってきたのではないか?』


 思い出したようにニュクスが顔を上げた。


「そうでした。転移門トランスゲートが完成いたしました。主要な場所には直ぐに移動できます」


 自信作なのだろう。見上げるニュクスの表情はどこか自信に満ち溢れている。レンにとっても待ち望んだ転移門トランスゲートである。これで長時間の移動から解放されると、ほっと胸をなでおろす。


 良かった。これで移動に何時間もかけなて済む。

 心機一転、転移門トランスゲートを見てみるか。


『ニュクス。転移門トランスゲートを見てみたい。案内せよ』

「畏まりました」


 ニュクスに案内された場所はレンの寝室から程近い部屋。中には高さ3m程の石作りのゲートが幾つも壁に並んでいる。

 そのゲートの向こうには、それぞれ違う部屋の風景が映っていた。まるで空間を切り取ったかのような不思議な光景。もし外に繋がっていたのなら、巨大な風景画と見間違えていただろう。


『他の部屋と直接繋がっているのか?』


 レンの言葉を聞いたニュクスがにっこりと笑みを浮かべて説明する。


「その通りでございます。これで何の不自由もなく移動できます。試しに移動してみては如何でしょうか?」


 言われるままに一つの転移門トランスゲートに足を踏み入れた。その先は今までとは違う部屋、振り返ると転移門トランスゲートの向こうにニュクスたちの姿が見える。

 部屋を出て廊下を確認すると近くには木製の重厚な扉がある。見覚えのあるそれは書庫へと続く扉だった。

 元いた部屋へ戻るとニュクスが笑顔で出迎えた。


「如何でしょうか?」

『素晴らしいではないか。これで移動に時間をかけなくて済む』

「ありがとうございます。そのお言葉だけで私は満足です」

『もう少しで夕食の時間だったな。このまま食堂にへ向かうか。いや、その前に魔道具の指輪を寝室から取ってくるか。食堂で渡してしまおう』

「あの、レン様。もしかして他の配下にも指輪を嵌めて差し上げるのでしょうか?」


 ニュクスが心配そうに訪ねてきた。


 アテナから受けた説明では、俺が指輪を嵌めてやる必要がある。

 こればかりは仕方ないよな。


『私が嵌めてやらねば指輪の能力は十分発揮されないからな』

「そうですか……」


 ニュクスが残念そうに肩を落とした。アテナは視線を逸らして、目を合わせようとしない。

 アテナにしてみても何も言えなかった。あのとき自分の欲望に負け、咄嗟に口から漏れた言葉。本当は左手薬指に嵌める必要もなければ、レンが嵌めてやる必要もない。

 しかし、もしここで嘘だと言ってしまうと、レンを騙していたことがばれてしまう。何よりもレンから嫌われることを恐れているアテナは何も言えずに黙っていた。


 寝室に戻り指輪を回収すると直ぐに食堂に向かった。転移門トランスゲートを潜ると食堂から程近い部屋に出る。

 直接、食堂や書庫に繋がっていないのは安全に配慮してニュクスがわざとそうしている。転移門トランスゲートのある部屋の扉は限られたものにしか開けることができない。それにより転移門トランスゲートの悪用を防いでいるのだ。


 食堂では既に料理が並べられ全員席に着いていた。ヘスティアも農場プラントから戻り席に着いている。エイプリル、ジュン、ノーヴェの姿は此処にはない。彼らはレンの命令を受けてから国境付近に待機している。

 予想より遥かに早く集まっていることにレンは驚きを隠せない。


 食事の時間まで、まだ30分以上あるのに集まるのが早すぎないか?

 この様子だと食事の一時間前には全員揃ってそうなのが怖い……

 読書に夢中になって一時間以上遅れることもあったからな。

 それを考えると少なくとも二時間以上待つ日もあったかもしれない。

 メイが我慢できないのは当たり前だよ。

 抑も時間ぴったりに来ても、その時点で一時間近く待っているのはどうかと思うんだが……


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