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竜王国10

 食堂に残されたオーガストたちは、レンが出ていった扉を羨ましそうに眺めていた。


「はぁ、羨ましいわね」


 ジュンが言葉を漏らすと、それに続くように先程の出来事が話題になった。


「私も一度でいいから、あ~ん、されたいですね」


 ジュンとジュライがその光景を思い浮かべるように瞳を閉じる。


「メイはされたの」

「てめぇは図々しいだけだろ」


 メイは自慢げに胸を張り、それをフェブが嗜める。


「私も、あ~ん、されたいっす」


 エイプリルはテーブルに突っ伏して不貞腐れていた。


「私は妹に、あ~ん、してもらいたいわ。マーチ、今度から食べさせあいっこしない?」

「な、なに言ってるの、お、おお、お姉ちゃん。だ、駄目だよ」

「ああぁん、嫌がるマーチも可愛いわね」


 ジャニーはマーチに駆け寄ると、妹の感触を確かめるように力いっぱい抱きしめた。


「い、痛いよ。お姉ちゃん」

「ああぁん、マーチの体温ぬくもりを感じるわ」


 ジャニーは涎を垂らしながら頬を摺り寄せマーチの尻を揉みしだく。

 その光景を目の当たりにした全員がドン引きである。関わり合いたくなと言わんばかりに目を逸らすと、何事も無かったかのように話を続けた。

 助けを訴えるマーチの眼差しは何処にも届かなかった。


 

 何か不気味なものを見た……その光景を払拭するようにオーガストが話を戻す。


「私たちはレン様の配下になったばかりですもの。これから手柄を立てる機会はいくらでもあるわ。ご褒美をいただけるなら、食べさせあいっこ、も悪くないわね」


 オーガストが妄想に浸りながら恍惚の表情で身悶えしている。傍から見れば今のオーガストも十分不気味に見える。そんなオーガストに冷ややかな声が浴びせられるのは当然といえば当然だった。 


「うっわぁぁ、オーガストさんが、食べさせあいっこ?本気マジきもいっす」

「何か言ったかしら?エイプリル」


 オーガストが低い声を出しながらエイプリルを睨みつけた。


「い、いやだなぁ、冗談っすよ」


 何でこの人は自分のことを差し置いて他人を見下すんですかね。

 他人の振り見て我が身を直せ。アオイが昔、言ってたっすね。オーガストさんに是非贈りたい言葉ですよ。まぁ怖くて言えないんですけどね。


 エイプリルはそんなことを思いながら再度テーブルに突っ伏した。

 そんなエイプリルはお構いなしに話はどんどん進んでいく。


「でも、ずっと城にいては手柄を立てられませんわよ?」

「ジュンの言うことはもっとだな。オレたちにできることはねぇのかよ」

「フェブたちの出来そうなことね……そういえばジュライ、貴方カオス様から何か聞いてないかしら?」


 オーガストはジュライに話かける。ジュライもヘスティア同様、農場プラントに出向いている。ノイスバイン帝国の動きなど、何か聞いているかも知れない。そう思い声をかけて見たのだ。


「ノイスバイン帝国が国境付近に兵を集めているそうです。ドレイク王国もそれに合わせて国境に兵を集めていると聞きました。ですが、ドレイク王国はレン様のご命令で農場プラントにも、少なくない人材を派遣しています。数の上では圧倒的に不利な状況が推察できます」


 ジュライの話を聞いてフェブだけでなく、ジュンやエイプリルも目の色を変える。


「オーガスト聞いた通りだ。国境にはオレが行く、ノイスバインの奴らを皆殺しにしてやる」

「私が行くわ。此処にいてもすることもないし問題ないわよね?」

「いやいや、ここは、このエイプリルちゃんに任せるっすよ」


 三人が我こそはと名乗りを上げる。しかし、オーガストが決めることは出来ない。その権利を有していないからだ。オーガストが与えられた命令は国家樹立と国の運営。この国に侵攻するのであれば話は別だが、他の国に侵攻するものはどうにもならない。


「直接レン様にお伺いを立てる。それまで待ちなさい」


 それを聞いた三人は黙って頷く。確かにその方が角が立たない。レンの決めたことなら納得できる。

 三人が頷くのを確認するとオーガストは直ぐに駆け出す。レンは食堂を出たばかりで今なら追いつく、駆け出してから数分でレンの姿を捉えると。


「レン様、お待ちください」


 咄嗟に呼び止めてしまった。

 不味い!オーガストの体に冷や汗が流れる。レンに直接声を掛けるのは不敬とされていた。オーガストたちがレンと直接話せる機会は会議での場やレンからの質問への受け答えのみ。それ以外ではニュクスたちを通して話すように言われていたのだ。

 これはレンから女性を遠ざけるため、ニュクスたちが勝手に取り決めたこと。当然、このことをレンは知らない。



 振り返ると廊下で跪くオーガストの姿がそこにあった。

 ニュクスはオーガストを見ると、殺気を浴びせながら怒声を上げる。


「この馬鹿者が!レン様の歩みを止めるとはなにごとだ!」


 アテナ、ヘスティアもその気持ちは同じ、当然の様にオーガストに殺気を叩きつける。

 上位竜スペリオルドラゴンがレンを呼び止めるなど、許しがたいと言わんばかりだ。

 余りの剣幕にレンが引いていると、オーガストが恐る恐る口を開いた。


「も、申し訳ございません。レン様にお伺いしたいことがございまして……」

「黙れ!口を開くな!本来であれば貴様ごときが許可もなく口を聞いていいお方ではないのだ!」


 ニュクス?なんで怒っている?

 話しかけるのがそんなに不味いことなのか?

 よく分からないがそれは言い過ぎだ。


 レンは直ぐに割って入る。ニュクスの物言いは余りにも酷すぎた。


『落ち着けニュクス。オーガストは私の重臣の一人だ。話すくらい何の問題もない』


 レンはオーガストに歩み寄る。


『話とは何だ?申してみよ』

「はっ!ノイスバイン帝国がドレイク王国との国境付近に兵を集めているとお聞きしました。そこで、衝突を避けるためにも、我々の中から数名向かわせたいのですが……その人選をお願いできないでしょうか?」


 ノイスバインが攻め込もうとしているのか?

 こっちは食料の大量生産に入ってまだ二日目だ。

 全然間に合いそうにないな……


『ヘスティア、カオスはこの事を知っているか』

「存じております」

『では、カオスは何か対策を立てているのか?』

「いえ何も……ヒューリからドレイク王国の問題のため、気にする必要はないと言われた様です」


 気にするなと言われてもな。

 散々世話になったし人材も借りている。普通気にするだろ。

 それに、国家樹立のためにはノイスバインの協力が必要になる。

 何れ接触するんだし、見て見ぬ振りはできないよな……


『ヘスティア、十分な量の食料は何時までに用意出来る?』


 ヘスティアは顎に手を当て暫し考える。


「あと一週間程掛かるかと……」

『一週間か……』


 相手は待ってくれないだろうな……


『オーガスト、相手の命を奪うことなく無力化したい。適任はいるか?』

「無力化となると、エイプリル、ジュン、ノーヴェが適任かと……」

『では三人を向かわせろ。移動にはこの城を守護する下位竜デグレードドラゴンの使用を許可する。できるなら争うな。こちらには食糧支援の用意があることも伝えよ』

「はっ!承知いたしました」


 オーガストは恭しく頭を下げた。


『ヘスティア、念のためカオスにもこのことを伝えておけ』

「畏まりました」


 ヒューリには世話になっているんだ、これくらいはいいだろう。

 後はノイスバイン次第だ。出来るなら争いたくないが相手にも事情がある。どんな結果になろうとも受け入れるしかない。

 ニュクスたちにも問題がある。上位竜スペリオルドラゴンを見下すのは良くない。同じ俺の配下なんだ対等とまではいかなくても、もっと仲良くしてもらわないと。


『ニュクス、アテナ、ヘスティアよく聞くがよい。オーガストたち上位竜スペリオルドラゴンはお前たち同様、私の大切な配下だ。意思疎通を図るためにも、私と直接話すことや触れることに何の問題もない。私は配下と親しくなりたいと思っている』


 ニュクスたちはレンの言葉に眉を顰めた。レンから遠ざけようとしていた女たちが近づいてしまう。だがレンの言葉は絶対だ従うしかない。仕方ないと溜息を漏らし先程の言葉を思い出す。

 配下と親しくなりたい、つまりそれは私達とも親しくなりたいということ……

 ニュクス、アテナ、ヘスティアの思考は一致する。


「それは、つまり私達とも……」


 三人が一斉に抱きついてくる。女性を遠ざけることができないのであれば、他の女性に目が向かないほど愛してもらえばいいのだ。


『ど、どうした?』

「私たちもレン様ともっと親しくなりたいです」


 ヘスティアが潤んだ瞳で見上げてくる。


『そ、そうか……だがこれでは歩きづらい。離れるように』

「仕方ありません。それでは続きは寝室に戻ってからにいたします」


 アテナが続きは寝室でと、訳の分からないことを言い始めた。


『い、いや、寝室に入ることは許さん。お前たちにも役目がある。それを優先せよ』


 三人は愚痴を零しながらもレンから体を離した。

 しかし、その腕だけはレンの腕に巻き付き離れようとはしない。


 なんでこうなった?


 レンは納得のいかないままきびすを返し寝室に戻るのであった。


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