竜王国8
「レン様、朝でございます。お目覚めになってください」
遠くまで響くような美しい声にレンは目を覚ます。
読書をしているうちに眠ってしまったらしい。
瞼を開くと三人の女性が覗き込むようにレンを見つめている。
『ニュクス、アテナ、ヘスティア、おはよう。もう朝か、読書をしながら眠っていたようだな』
レンは眠そうに目を擦りながら起き上がった。深夜まで読書をしていたせいだろう、大きな欠伸が口から漏れた。
先程の声はヘスティアかな?
三人一緒とは仲直りしたのか?
「読書も程々になさらないとお体に障ります。睡眠不足で倒れては大変でございます」
『そうだな、今度から気をつけるよニュクス』
「お食事の用意が出来ております。先ずはお召し物を交換いたしましょう」
アテナ?何を言っているんだ?
えっ!?ちょ!ガウンを引っ張るな!
三人はレンのガウンをグイグイ引っ張り、強引に脱がそうとする。
ガウンの下は下着1枚のみ、堪らずレンも声を上げた。
『やめろ、お前たち!着替えは一人で出来る。脱がそうとするな!』
いつもなら大人しく従うが今日は違う、何が何でも脱がそうとしてくる。
「いけません。レン様のお召し替えは私たちにお任せ下さい」
「アテナの言う通りでございます。素直にいまお召しのものをお渡しください」
ヘスティアお前まで何てことを言うんだ!
「私がレン様を抑えるわ。その隙に脱がしましょう」
ニュクス、お前は俺に何か恨みでもあるのか?
抵抗も虚しく下着姿にさせられる。三人掛りで来られたらどうしようもない。
これを防げるものなど、きっとこの世にいないだろう。仮にも古代竜、その気になれば衣服など簡単に破ることもできるのだから。
『お前たちどうしたのだ。いつも着替えは私が一人で行っているではないか』
「レン様、それが問題だったのです。竜王たるもの、お召し替えを一人で行うなどあってはなりません」
「ヘスティアの言う通りですわ。本来であれば身の回りのお世話は我々のお役目です。今までが間違っていたのです」
「そういう訳ですので今後は私たちがレン様のお召し替えをいたします」
何がそういう訳だ!ニュクス!
お前俺の下着を掴むな!
離せ馬鹿!脱げるだろうがぁぁぁぁ!!
ニュクスに続きアテナ、ヘスティアも下着に手を伸ばし、我先に脱がそうとする。
流石にこれにはレンも慌てた。必死に下着を抑えながら声を張り上げた。
『ま、まて、下着は必要ない。ちょぉぉぉ!!!まてお前ら、引っ張るな!必要ないから手を離せ!!』
チッ!三人が渋々手を離す。だがその視線は下着に釘付けにされている。
怖いぃぃぃぃ!!何これ!?普通にトラウマになるんですけど?
仲良くなったかと思ったら、とんでもない協力プレイを見せてきやがった。
殺し合いをするより余程いいが何か釈然としない。
後、舌打ちしたの誰だよ!そんなに俺を辱めて楽しいのか?
日本ならセクハラで訴えてるところだぞ!
レンは心を落ち着かせるように深呼吸をした。想定外のことが起こりすぎて、何が何だかわからない。
未だに瞳をギラつかせる三人を見ると僅かに体が後ずさる。
『お前たちの言い分はわかった。下着以外の着替えはお前たちに任せよう。それで良いな?』
三人は集まるとヒソヒソと相談を始める。時折、横目でちらりとレンの様子を窺うと、また相談し始めた。
お前ら本当に仲がいいな。
昨日まで互いに激しく言い争いをしていたのに、もしかして別人じゃないのか?
初めから仲良くしてくれれば、余計な気を使うこともなかったのに……
結論が出たのか、三人はレンに向き合うと残念そうに顔を顰めた。
「本当に、本当に不本意でございますが、レン様のご提案された条件をお受けしたいと思います」
三人を代表してアテナが答えた。その表情は三人とも暗く落ち込んでいる。
俺の下着を交換できないくらいで、なにこの世の終わりみたいな顔してるんだよ。
だが、俺にも羞恥心がある。下着の交換なんて絶対にさせられない。
『そんなに落ち込むな。お前たちだって、俺に下着の交換をさせられたら嫌だろう?』
三人は一斉に顔を上げた。その表情は期待で満ち溢れている。
「ぜ、是非、私の下着の交換をお願いいたします」
「レン様に脱がされるなんて夢のようですわ」
「私も何の問題もございません。そのようなご褒美がいただけるのでしたら、やはりレン様の下着も私が……」
アテナ、ヘスティア、ニュクスがそれぞれ反応する。
その答えはレンの期待するものと真逆のものだ。
余りの予想外の反応に、レンは口を大きく開け呆然と立ち尽くす。
えっ?なんで?お前ら羞恥心とかないの?
人に下着を脱がされるんだぞ?普通恥ずかしいだろ?
何で嫌がらないんだよ!
それとニュクス!お前涎がすごい、かなり怖い!いいから落ち着け!
ちょ!何してる!ドレスを捲るな!見えてるから!色々見えてるからぁぁぁ!
あろう事か三人ともドレスを捲くりながら近づいてくる。まるで下着を脱がしてくださいと言わんばかりだ。
『そ、その、すまん、例えが悪かったようだ。私はお前たちの下着を脱がすつもりはない。絶対にない』
三人の表情が一気に曇り俯いてしまう。期待させられた分、その落差は大きい。目の端には涙まで浮かんでいた。
それを見たレンも居た堪れなくなり、努めて明るく話しかける。
『さぁ、私に服を着せてくれるのだろう?楽しみだなぁ、早くしてくれないかなぁ?』
それを聞いた三人は、ぱぁっと笑顔を見せる。チェストやクローゼットから衣装を取り出すと、大きなハンガーラックとともに、夥しい量の衣装が運ばれてきた。
大量の衣装を前にレンは顔を顰めた。これは以前の着せ替え人形状態ではないのかと……
予想通り衣装を何度も脱がせれては着せられる。油断していると衣装を脱がす際に下着まで脱がそうとする。直ぐに気付き下着を抑えるが、その度に微かに舌打ちが聞こえてきた。明らかに確信犯がいる。
衣装に然程興味のないレンから見れば、衣装の僅かな違いなど正直どうでも良かった。しかし、三人はそれを許してくれない。結局、三人が納得するまで1時間以上、着せ替え人形にされていた。
もしかして、これが毎日続くのか?
レンは溜息を漏らしながら寝室を後にした。




