竜王国7
やっぱり、携帯のように離れた場所で会話できる魔道具がないと不便だな。
俺の所在が分からなくなるだけで、争いの種が起きている気がする。
それに、城の中を移動するだけで、一時間以上掛かるのは問題外だ。
早急になんとかしたいが……アテナなら何とかならないかな?
『アテナ、離れた場所でも会話できる魔道具は作れないか?出来れば持ち運べる物がいいんだが』
「離れた場所で会話ですか?……確かに何時でもレン様のお声を聞けるのはご名案です。お任せ下さい必ずお作りいたします」
アテナは身を乗り出して、迫るように答えてくる。
その瞳は、恋する乙女のように潤んで、今にもレンに抱きつかんばかりだ。
『で、ではよろしく頼む。ここにいないカオスの分を含め、最低でも17人分作ってくれ』
だから、なんでお前たちはそんなに圧が強いんだ……
レンが咳払いすると、アテナは正気を取り戻したかのように席に戻った。
アテナが離れたのを確認すると次の問題を話し出す。
『それと、城内での移動に時間が掛かりすぎる。何とかならないか?』
「レン様、それならば私が転移門をお作りいたします」
転移門?初めて聞く名前だ。
色んな本を読んだがそんなものは書かれていなかったな。
『ニュクス、その転移門とはなんだ?』
「門を通じて他の場所に一瞬で移動できる魔法です。魔法であれば数分で消えますので、半永久的に移動できるように、魔道具としてご用意いたします」
一瞬で移動できるなんて凄いじゃないか。
これで城内の移動に時間を掛けることもなくなる。
しかし、魔道具ならアテナの方が良くないか?魔道具の創世はアテナが一番得意なはずだ。
『魔道具ならアテナに任せるのがよいのではないか?』
「そうですね。私にお任せいただければ、必ずやご満足いくものをご用意いたします」
「レン様、お言葉ですがアテナは先程、他の魔道具を作るように命じられたばかりです。二つ同時では効率が悪いのではないでしょうか?」
ニュクスがアテナを牽制する。二人共顔は笑っているが目が笑っていない。
確かにニュクスの言う通りだ。二つ同時では時間が掛かるだろう。
それに、アテナにばかり任せたら、また争いが起こる。
『確かにその通りだな。ニュクスお前に任せる』
「お任せ下さい。最高の魔道具をご用意いたします」
ニュクスは嬉しそうに一礼すると、勝ち誇ったようにアテナを見つめた。
そんなやり取りを見てヘスティアは顔を顰める。
ヘスティアは食料の大量生産に携わっているため、魔道具にまで手が及ばない。
これも、大事な任務だと承知しているが悔しくて仕方ない。
そんなヘスティアの悲しそうな表情にレンも気付いた。
ヘスティア……
レンからしてみれば全員大切な配下だ、誰かを贔屓するつもりはない。
だが、それぞれ得意分野の違いから、割り振る仕事にはどうしても差が出てしまう。
ヘスティアは唯でさえ居城から離れた農場プラントに出向き、レンと居られる時間が限られている。
それはレンも気にはなっていた。だから優しく慰める。
『ヘスティア、そう落ち込むな。お前がいればこそヒューリにも出会い、様々な知識を得ることもできた。農場プラントでの食料の大量生産は、この国を立ち上げるためにも大切な役目だ。お前を蔑ろにしている訳ではない』
「レン様……はい、心得ております」
ヘスティアの瞳からは涙が零れ落ちる。優しいレンの言葉はヘスティアの心を癒すように染み渡った。
『ニュクス、アテナ、ヘスティア、お前たちは私にとって大切な家族だ。三人に優越を付けるつもりはない。だから、もう少し仲良くしてくれ。家族が啀み合う姿を見たくはない』
「大切……」
「私たちが……」
「家族……」
ニュクス、アテナ、ヘスティアは互を見つめ、そしてレンに視線を移す。
大切な家族とまで言われ嬉しくないはずがない。だが嬉しさの余り思考が働かないのか、上手く言葉が出てこない。
三人は頬を染め、熱で浮かされたように呆然としていた。
オーガストたちは、その光景を羨ましそうに眺めている。
自分たちも、いつかは家族と呼んでもらえるだろうか?そんな思いが脳裏を過ぎる。
食事が終わるとニュクス、アテナ、ヘスティアの案内で寝室まで移動した。
レンの読む本は、三等分してそれぞれが大切そうに抱えている。
食堂から寝室までは40分も掛かり、レンは肩を竦めて呆れ果てた。しかし、三人は幸せそうにしている。もしかしたら少しでも長い時間、レンと一緒に行動できるように、巨大な居城を作ったのかもしれない。
レンは溜息を漏らすと、楽しそうに笑う三人に暖かい視線を向けた。
まぁいいか、彼女たちが幸せそうにしてるんだ。転移門は準備に時間が掛かっても黙っておこう。
それに、これだけ歩けば運動不足の解消には丁度いいかもしれない。
寝室に本を運ばせると三人は名頃惜しそうに寝室を後にした。
レンはテーブルに積まれた本を横目で見る。続きを読みたい衝動で手を伸ばすも、汗で張り付く衣服に顔を顰めた。
隣接する風呂場を思い出すと、移動で汗ばんだ服を脱ぎ捨て風呂場へと歩き出す。手前には広い洗い場、奥には銭湯のような大きな湯船が見える。
『これで大浴場じゃないなんて、一体どうなってるんだ?大浴場どんだけ広く作ったんだよ』
風呂場はレンの地球での家が丸ごと入る大きさだ。
一般的な銭湯よりも大きい。しかも、お湯は掛け流しで湯加減も丁度いい。
シャワーも備わっている。サウナはないが言えばきっと作ってくれるだろう。
体を軽く流すと湯船に浸かり浴槽に体を凭れかけた。
『こんな大きな風呂に俺一人は贅沢だよな』
よく温まり風呂を堪能する。程なくして風呂から上がり脱衣所で体を丁寧に拭いた。
着替えがないかチェストを開けていると、タオル地のナイトガウンの様なものを見つける。
袖を通すと、とても気持ちがいい。
『これはいいな、今度から寝るときはこれにしよう』
寝室に戻ると一冊の本を手に取り、ベッドに倒れ込んだ。
うつ伏せになると枕元に本を広げページを捲る。
それは英雄譚が書かれた書物、地球でのライトノベルのような冒険が書かれたそれは、レンの心を躍らせた。
地球では空想の夢物語だが、この世界では現実に起こった本当の話。
その内容はレンの好奇心に火を付けるには十分だった。




