竜王国5
レンたちが食堂に向かっている頃、食堂ではオーガストたちが既に椅子に座り、レンの到着を待っていた。
長方形の巨大なテーブルにはクロスが敷かれ、既に料理が並べられている。
上座にはレンの座る豪奢な椅子が置かれていた。ここでも、序列の高い順からレンの近くに座れるのは、暗黙の了解である。
「レン様遅いっすね。私らも搜索に出た方がよかったんじゃないっすか?」
一様にオーガストへ視線が向けられる。
エイプリルの言いたいことは分かる。本来であればオーガストも搜索に参加したかった。
しかし、アテナとヘスティアが自分たちだけでよいと捜索参加を拒否したため、渋々食堂で待つ羽目になったのだ。
「アテナ様とヘスティア様のご命令よ。大人しく待ちなさい」
それでも、エイプリルは納得できずにぶうたれる。
「いつもニュクス様、アテナ様、ヘスティア様ばっかり、ずるくないっすか?」
「ご命令は絶対よ。まさか、お三方に逆らうつもり?」
「エ、エイプリル、こ、これでも飲んで落ち着いたら?」
一人の女性から飲み物が手渡される。外見は15歳前後、髪は薄緑色の長いツインテール。色白の肌に可愛らしいキャミソールを身に纏い、その上から使い込まれたエプロンを身に付けている。少し気弱そうな可愛らしい少女。
与えられた名前はマーチ、風竜である。
「ありがとうっす。マーチは優しいっすね」
「そ、そんなことないよ」
「でも、優しいだけでは駄目よ。マーチはもう少し自分に自信を持ちなさい。いつも、おどおどしていてはレン様に嫌われるわよ」
「ご、ごめんなさい。お姉ちゃん」
お姉ちゃんと呼ばれた女性の外見は18歳前後、髪は薄緑色のショートカット。色白の肌をしており、執事服を着こなしている。男装の麗人で気の強そうな凛々しい女性だ。
与えられた名前はジャニー、マーチの姉であり風竜である。
ジャニーはマーチのおどおどした態度に呆れながらも優しい笑みを浮かべる。
「マーチのそれは個性よ。別に今のままでも問題ないと思うわよ」
「ジュンはそう言いますが、もし妹がレン様に嫌われたらどうするんですか」
「ジャニーは相変わらず過保護ですね。そのシスコンを直さないと、いい加減マーチに嫌われますよ」
「ジュライあなたまで何てことを言うんですか。姉が妹を心配するのは当然です」
「まぁ、ジャニーの心配する気持ちも分かるけどよ。マーチがレン様に嫌われることはないじゃねぇか?レン様に出せるような料理はマーチしか作れないしよ。人間の間じゃ、男を掴むなら胃袋を掴め、なんて言うらしいぜ」
「あら、そうなのフェブ?それでは食事で男を篭絡できるマーチは、レン様に好かれ易いということ?」
ジュンの言葉でマーチに視線が集まる。マーチは椅子から立ち上がると、直ぐにジャニーの後ろに隠れてしまった。
マーチはジャニーの背後から、そんなことはないと必死に弁解をする。
「そ、そんなつもりは、あ、ありません。わ、私はただ、レ、レン様に美味しい料理を、た、食べてもらいたい。そ、そそ、それだけです」
「そんなに必死に弁解しなくても、みんなマーチに下心がないことくらい分かっていますわ」
「ジュンの言う通りよ。私の後ろに隠れてないで椅子に座りなさい」
マーチは安著の溜息を漏らすとジャニーの背後から顔を覗かせた。
周囲の様子を窺うと、おどおどと席に戻り椅子に腰掛ける。
そんなマーチの様子をジャニーは暖かく見守っていた。
「ところでフェブ姉、いつまでそれをぶら下げてるつもりっすか?」
エイプリルの言う通り、フェブの右手には何かがぶら下がっている。
いや、ぶら下がっていると言うよりは、フェブが鷲掴みにして持っている。
そこには、後ろから首を掴まれ、手足をだらんと垂らしているメイの姿があった。
「あぁ、これか?離すと料理を食っちまうから仕方ねぇんだよ」
「えっと、それちゃんと生きてるっすよね?」
フェブはメイに視線を落とす。そう言われると先程から身動き一つしていない。
長時間首を掴まれて酸欠にでもなったのだろうか?竜が酸欠になるなど聞いたことがないが、今は人間の姿で酸欠もあり得るかも知れない。
もしかして……殺っちまったか?
フェブの顔が青褪める。
首から手を離すと胸ぐらを掴み強引に揺さぶり始めた。
「おい、メイ生きてるか?生きてるよな?早く返事をしろ?」
「落ち着きなさいフェブ、仮にも上位竜よ。この程度で死ぬことはないわ」
フェブ以外の面々は落ち着き払っている。オーガストの言った通り、この程度で死ぬはずがないと確信していた。
エイプリルもフェブをからかうために、態と心配するように言ったに過ぎない。
「いや、でもよオーガスト、こいつさっきから動かないんだぜ」
フェブがメイの胸ぐらから手を離し、地面に下ろしたその瞬間。メイはテーブルにジャンプすると目の前の料理を頬張った。
そのままテーブルの上を走り回り、次々と料理を口に運ぶ。
走り回るメイを捕まえようとするも、身軽なメイはするりと躱す。
器用に逃げ回るメイに、オーガストが表情を変えた。額には青筋が浮かび射殺すようにメイを睨みつける。
「いい加減になさい!もう勝手は許さないわ![継続する束縛]」
オーガストが冷ややかな声で話しかけると。その直後、拘束魔法が放たれた。
飛び跳ねた直後のメイはそのまま手足を空中に固定され身動きできなくされてしまう。
メイの手足には幾重にも手錠の様な輪が嵌められ。力ずくで壊しても直ぐに再生してしまう。
必死で暴れるが数個の拘束を破壊するのがやっと、数十の拘束から逃れることはできない。しかも破壊した拘束は直ぐに再生してしまう。今のメイの力では逃れる術はなかった。
それでも口だけは動かし、頬張った料理を飲み込んでいるのは、流石としか言い様がない。食い意地もここまでくれば大したものだ。
テーブルの上には料理が散乱し、酷い有様になっている。
無事な料理も半分ほどあるが、レンに食事をしてもらう状態ではない。
流石にこれには、我感ぜずと傍観を決め込んでいた男性陣も、顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。
カオスの意向で女性の争いには首を挟まないと、事前に話し合われていた。これはカオスと上位竜の間で取り決めた事で、レンたちの知らない事である。
だが、流石にこの有様は不味いと思ったのだろう。
ノーヴェを始めとする男性陣は率先して掃除をするのであった。




