竜王国4
しかし、その至福の時間は程なくして奪われた。
突如、書庫の扉が開け放たれ一人の女性が入ってくる。
レンを見つけると、輝く白い髪を振り乱しながら傍に駆け寄る。
何事かとレンが視線を向けるとアテナの姿が其処にあった。
「レン様、お探しいたしました」
アテナ?どうしたというんだ。
『どうしたアテナ、何か問題でも起きたのか?』
「いえ、そうではございません。お食事の準備が整いましたのでお呼びに伺ったのですが、寝室にレン様がいらっしゃいませんでしたので、何かあったのではとお探ししておりました」
『もう、夕食の時間なのか?』
時計を見ると針は既に19時を回っている。
時間を忘れて読書をしていたようだ。以前にもこんなことがあったなと、レンは思わず苦笑いをする。
『すまなかった。カオスとヘスティアはどうしている』
「カオスはドレイク王国へ向かいました。ヘスティアはレン様を探しています」
『分かった。直ぐに食堂へ向かう』
まさか俺を探していたとは。
携帯のない世界はなんて不便なんだ。
ヘスティアはどうしよう、下手に探しに行かせてもすれ違う恐れがある。
ここは放置しかないか、俺が見つからなければ食堂に来るだろう。
抑も無駄に広いこの城が悪い。
アテナを責めるわけじゃないが、移動で1時間掛かるのは問題じゃないか?
レンが考えに浸っている頃、アテナはニュクスを睨みつけていた。
その視線は、抜け駆けしてんじゃねぇよ!と語っている。
対するニュクスも至福の時間を奪われ怒り心頭だ。睨み返す視線は、邪魔すんな!と語っていた。
思考をやめ視線を移すとニュクスとアテナが睨み合っている。
レンは溜息を漏らすと手を叩いて注意を集めた。
『ニュクス、円卓の上に置かれている本を寝室に運んでおけ。アテナは私を食堂まで案内しろ。途中ヘスティアに出会ったら食堂に来るように伝えるのだ』
ニュクスは見る間に暗くなり、アテナはざまぁみろと言わんばかりに、腕を組み胸を張る。
それを見たレンは肩を落とし顔を顰めた。
はぁ~。なんで仲良くできないかな……
ニュクスは今まで俺と一緒だったからアテナに案内を頼んだが間違いだったろうか。
いっそニュクスも本を持たせたまま食堂に連れて行くか、何かそっちの方が良さそうな気がしてきた。
『ニュクス、やはりお前も食堂まで一緒に付いてこい。但し本は持ってもらう、それでよいな?』
途端にニュクスが満面の笑みを浮かべ顔を近づける。
「何も問題はございません。何処にでも付き従います」
『そ、そうか。では頼む』
圧が強い、圧が……
だが今度はアテナが面白くない。
食堂まで一緒に同行する上に、レンの読む書物を運ぶことを許されるなど、ニュクスが羨ましくて仕方ない。
「ニュクス、貴方も疲れているでしょう?その書物は私が運んであげるわ。」
「何を言っているのアテナ。わ・た・し・が・レン様に命じられたのよ。貴方に渡すわけないでしょう。身の程を知りなさい」
身の程知らずの発言にアテナは顔を引き攣らせながらも笑顔で話す。
「抜け駆けまでして出し抜こうとする卑怯な女に、レン様のお読みになる書物を持つ資格なんて無いと言っているのよ。いいから寄越しなさい」
「出し抜かれた間抜けが悪いのよ。いい加減諦めたら?」
流石に間抜け呼ばわりされ頭にきたのだろう怒声が出る。
「誰が間抜ですって!この淫乱女!」
「誰が淫乱だ!このまな板!」
「ま、まな板ですって!!」
アテナの顔が見る間に赤くなり、額に青筋が浮かび上がる。
「覚悟は出来てるんでしょうね!ニュクス!!!!!!!」
アテナが竜力を解放する。それに呼応するようにニュクスも竜力を解放した。
売り言葉に買い言葉、呆れて黙って見守っていたレンだが、アテナの怒気に焦り始めた。
ちょ、ちょっと待て!二人の体から迸るそれ何?
やばくない?絶対やばいよね。
争いは禁止だって、あれほど言ったのに何でこうなるんだ。
と、とにかく止めないと本当に殺し合いが始まる。
『二人共落ち着け!!』
レンは叫んだ。とにかく止めなければと必死に叫んだ。
二人は俺に視線を向けると、しまった!と言わんばかりの顔をする。
二人共、俺の存在を忘れていたのか?
もしかしたら、俺がいないところではいつも言い争いをしているのかもしれない。
これが、いつもの言い争いだとしたら救いようがないな。
それとも俺が争うなと言ったからストレスが溜まっているのか?
多少の喧嘩は許した方がいいのかもしれないが……多少で済みそうにないからな。
「レン様、お騒がせして申し訳ございません。少し話し合いに熱がはいりました」
「アテナの言う通りです。これはいつもの談笑ですわ」
あれだけ言い争いをしておきながら、あくまで争っていないと主張する気か。
お前らは色んな意味で凄いな、俺もその図太い神経が欲しいよ。
それとニュクス、お前は談笑の意味を知っているのか?いつから談笑は言い争いを指す言葉になった。
あと、いつもの談笑って何だ。お前ら何時も殺し合い寸前まで言い争っているのか?
『全く仕方ないな。書物は二人で均等に分けて運べ。これなら問題なかろう』
二人は互の様子を牽制するように窺い、それならばと頷き返した。




