竜王国3
あとはカオス達に任せて問題ないだろう。
話も纏まり、アテナはゴンドラの創世作業に取り掛かっている。
ヘスティアは農場プラントを作る場所に出向き、土地の活性化を行っている。
カオスとニュクスはゴンドラの準備が出来るまでレンの寝室前で待機していた。
レンは寝室に戻るとソファに座り周囲を見回す。
この広い部屋に一人は落ち着かないな……
そういえば食事はどうするんだ、誰か作れるのか?
ヒューリから料理ができる竜人を借りてくれば良かったな。
後でカオスに伝えてもらうか。
誰も料理ができなければ、今日は残っている行動食で我慢しよう。
この居城はヒューリの城を参考に作ったらしく、上下水道も完備されていた。
寝室に隣接して洗面所、トイレ、風呂もあり、この部屋だけでも不自由なく生活できる。
その他にも大浴場や最上階には展望風呂もあるらしい。
レンはする事もなく暇を持て余していた。ドレイク王国にいた時は書庫での読書が楽しく丁度良い暇潰しができたが、この寝室には本は一冊も置かれていない。
暇すぎる……
何もすることがないのがこれほど苦痛とは。
アテナは書庫を作ってないのか?
レンは立ち上がると廊下へと続く扉を開けた。
そこにはニュクスだけが立っている。
『カオスはどうした?』
「下位竜にゴンドラを取り付けるためアテナの元へ向かいました」
本当はレンと二人になるため無理やり追い出したのだが、本当のことは言わない。それにアテナの補佐としてゴンドラの取り付け作業を行うのは事実である。嘘ではないのでレンを騙しているわけではない。
『そうか……なら仕方ないな。ニュクス、お前に聞きたいことがある。この城に書庫はあるか?』
「書庫はございます。レン様は読書がお好きなようでしたので、アテナも重点的に作っておりました」
『ほう、それは楽しみだ。本は置いてあるのか?』
「はい、僅かですがドレイク王国より運んであります」
『それでは書庫に向かう。案内せよ』
「畏まりました」
ニュクスは一礼すると前を歩き出した。
初めは読書できると期待していたこともあり、足取りも軽く多少の移動は我慢しようと思っていた。だが一向に辿り着く気配がない、何処まで行くのか不安になってくる。
『ニュクスまだ着かないのか?もう既に1時間近く歩いているぞ』
ニュクスは振り返ると肩ごしに妖艶な笑みを浮かべる。
「間もなく到着いたします」
本当に書庫に案内しているんだろうな。
人気のない場所で襲われたりしたらひとたまりもない。
ニュクスの馬鹿力で押さえ込まれたら抵抗できないぞ。
しかし、そんなレンの不安を他所に程なくして書庫に辿り着く。
書庫もヒューリの居城を参考に作られていた。目の前には木製の重厚な扉、それを開けると円柱状の巨大な空間が広がっている。その内側には本棚がびっしりと並べられていた。
壁に沿って螺旋状の階段が上へと続き、最上階は霞んで見ないほど遠くにある。恐らく城を囲む4つの塔の何れかだろう。
敢えて薄暗くしている部屋の中は、空調も管理され本が傷まないように配慮されていた。
中央に置かれている巨大な円卓には、時計などの調度品や水差し、グラスなども置かれている。
本は僅かと言っていたが、既に3階までの本棚は全て埋まっている状態だ。
『凄い大きさだな。上が見えない』
「何れ世界中から書物を集めることになるでしょう。レン様の書庫としては小さいくらいです。残りの塔も書庫として使えるようになっております」
これと同じ規模の書庫が他にも3つあるってことか?
お前ら、どんだけ本を集めようとしてるんだ。
確かにこの世界には娯楽が少ないから自然と本ばかり読んでいたが、俺のためにそこまでするか?
この規模だと書庫を管理する人材も必要になるな。
レンは椅子に腰を落とすと、円卓に置かれた水差しに手を伸ばす。中から、ちゃぽんと音が響いた。何か飲み物が入っているのだろう。
『ニュクス、この水差しはいつ用意されたものだ?』
「私が用意したものではないため正確には分かりかねますが、居城が完成した時には既に用意されていたのではないでしょうか」
レンは顔を顰め水差しを戻す。歩き通しで喉が渇いていたが、一週間も前に用意された物は流石に飲みたくない。
『では中身は傷んでいるかもしれないな』
「その心配はございません。その水差しはアテナの創世魔法、[万物創世]で作り出した魔道具です」
アーティファクト?確か本で読んだな。魔道具や武具の最高級品を総じてアーティファクトと呼ぶと書かれていた。
確か普通では作ることが出来ず、神の創造物と言われていたはずだ。
アテナはそれを作ることが出来るのか?
『アテナはアーティファクトを作ることが出来るということか?』
「その通りでございます。アテナ程ではございませんが、私やヘスティア、カオスも作ることができます」
『それでは、他にもアーティファクトがあるのか?』
ニュクスは不思議そうに首を傾げる。
「レン様、この城そのものがアーティファクトでございます。また城に置かれている調度品などの魔道具は全てそうです」
『……城がアーティファクトだと?』
「はい、先程アテナが申し上げた通り、城そのものが結界を張る魔道具でございます。また例え結界が破壊されても、城の外壁は全ての攻撃を遮断する効果がございます」
やり過ぎもここまで来ると清々しいな。
レンがグラスを手に持つと、ニュクスが水差しから液体を注いでくれる。
水差しには冷却効果もあるらしい。グラスから冷気が伝わり掌が冷たくなっていく。
喉が渇いていたレンは煽るように一気に飲み干した。レモン水のような酸味の効いた飲み物が、乾いた喉を潤し疲れた体に染み渡る。
ほっと一息つくと今日は何を読もうかと考え始めた。
図鑑や歴史書も面白いが、たまには違う本を読むのも良いだろう。
レンは本棚の前に足を運ぶと面白そうな小説を探し始めた。数多くある本の中から英雄譚を探し出す。お目当ての本を見つけると傍に控えるニュクスに次から次へと渡していった。
ニュクスは両手いっぱいの本を嬉しそうに持っている。
レンは円卓に戻り本を並べると、その中から一冊の本を手に取った。
そのまま静かに読み進めるなか、ニュクスは隣に椅子を並べて静かに見守る。
時折レンの顔を覗いては妖艶な笑みを浮かべて身悶えしている。何か良からぬ妄想をしているのは一目瞭然である。
レン様と至近距離で二人きり……
ニュクスは夢のような至福の時間を満喫するのであった。




