竜王国2
会議が終わりレンたちが去った後の会議室、そこには上位竜だけが残されていた。
「いやぁ、レン様まじ格好良いっすね。それだけに寝室での護衛が無くなったのが残念っすよ。あたしら来てから無くなるとか酷くないっすか?アテナ様も余計な事してくれたっす」
一人の女性が話し出す。外見は15歳前後、ショートボブの黒髪。軽装で白い肌を隠し、腰には短剣を差している。その上から黒のマントを羽織った、笑顔が可愛い活発な少女。
与えられた名前はエイプリル、影竜である。
「エイプリル、レン様の前でそんな言葉使いをしては駄目よ」
「分かってるっすよ。ジュン姉は相変わらず堅いっすね」
そんなエイプリルの態度に女性は溜息を漏らす。外見は20歳前後、縦ロールの長い髪は深い青色。白い肌を包むドレスは、白と青が折り重なり波飛沫の様に揺らめいている。女性は呆れた表情をするも、直ぐにいつもの優しい笑みを浮かべた。
与えられた名前はジュン、水竜である。
エイプリルの変わらね態度にジュンはただ優しく微笑む。
「全く仕方ないわね」
ノーヴェが二人に話しかけるように視線を動かした。
「やれやれ、いい加減に本題に入っても良いかな?何のために我々がこうして残っていると思っているのですか?」
「いやぁ、申し訳ないっす。何で残ってるんでしたっけ?」
エイプリルがおどけた態度を取ると、ノーヴェが額に青筋を立てながら話し出す。
「いいですか!レン様を巡り貴方たちが争わないようにするためです!」
「知ってるっすよ。冗談じゃないっすか。ノーヴェさんは真面目っすね」
ノーヴェは盛大に溜息を漏らすとオーガストへと視線を向けた。
その視線を感じてオーガストが声を張り上げる。
「エイプリル、少し黙りなさい!時間を無駄にしたくないわ。先ずは私の考えを言わせてもらうわよ。前竜王グラゼル様は、お一人しか妻を娶らなかった。しかし、レン様は人間に近い考え方をなされているわ。きっと、複数の妻を娶られることでしょう。恐らく正妻はアテナ様、ヘスティア様、ニュクス様のお三方になると思うわ。そこで、私たちがご寵愛を受ける方法はただ一つ、レン様の側室を作ることよ。そこに加えていただければ、きっと私たちもレン様のご寵愛を受けられるわ」
最後は夢見る少女のように、瞳を輝かせながら話している。
ノーヴェは一度咳払いすると補足するように説明した。
「私もオーガストの意見に賛成です。グラゼル様は、お子を残せなかった。レン様にはそのようなことがないよう、大勢の女性を妻や側室として迎え入れる必要があるのです」
カオスを始め男性陣は事前に話し合い、既に考えは一致している。何よりも優先すべきは、お世継ぎを残してもらうこと。
だが、ジュライは不安気に話す。
「でも、それをレン様はご存知なのですか?それに、側室を作ることにアテナ様たちが賛成するとは思えないのですが……」
ジュライの言うことは正しい、だが考えがないわけではない。レン様さえ説得できれば何とかなる。
ノーヴェには大丈夫と言い切れる自信があった。それは、折を見てカオスがレンを説得すると言っていたからだ。
「レン様には何れカオス様がお話する。アテナ様たちもレン様自らが側室を作ると言われれば、反対はできないでしょう」
ノーヴェの言葉を聞き女性陣が顔を見合わせた。確かに悪い話ではない、正妻は無理でも側室なら或いは。そんな考えが頭を過ぎる。
「では、異論がある女性は挙手をしていただけますか?」
ノーヴェの問いかけに、一人の女性が手を挙げる。外見は18歳前後、癖っ毛のあるセミシュートは燃えるような赤い髪。褐色の体は鍛え上げられた戦士のように引き締まり、無駄な脂肪が見当たらない。その体を見せるかのように上半身はタンクトップのみ、下半身は丈夫そうな厚手の長ズボンを履いている。野性味あふれる魅力的な女性だ。
与えられた名前はフェブ、炎竜である。
「レン様が私らを正妻に選ぶかも知れないだろ?最初から側室目当てなのがな……ちょっと卑屈すぎるんじゃねぇか?」
確かにその通りだと、僅かにざわめきが起こる。しかし、直ぐにオーガストが反論する。
「別に正妻を諦めるわけではないわ。レン様に正妻に選んでもらえたら、当然お受けするわよ。側室は正妻に選んでもらえなかった時の保険と考えなさい」
「なるほど、そういうことなら賛成だな。オレは最初から負けを認める気はねぇからよ」
フェブが納得すると、オーガストが確かめるように問いかける。
「他に質問はないかしら?」
またも、一人の手が挙がる。外見は10歳前後、シュートカットの髪は透き通るような薄い青。可愛いらしいワンピースから覗く手足は、透き通るように白く小さい。アホ毛が可愛い無邪気な幼女。
与えられた名前はメイ、氷竜である。
「側室ってなんなの?」
オーガストは溜息を漏らす。アホの子のメイには説明しても無駄だろう。説明しても理解できるか怪しいものだ。本当に知性ある上位竜なのかも疑わしい。
無邪気なメイはいつも自由に行動してはオーガストたちを困らせていた。
レンの前では大人しくしているが、いつ好き勝手に動き出すか気が気ではない。
オーガストは顔を顰めながらも説明を始める。
「分かりやすく説明すると……レン様の妻になれなくてもレン様に可愛がって貰えるのよ」
「それは素敵なの」
メイが瞳を輝かせながらはしゃぎ出す。椅子から飛び降りると何が楽しいのか、円卓の周りを走り出した。そして、徐にとんでもない事を言い出した。
「早速、レン様に可愛がってもらうの」
部屋を出ようとするメイをフェブが即座に捕まえる。
「アホの子はおとなしくしてな」
メイは後ろから首を鷲掴みにされると、猫のように持ち上げられ逃げることができない。
「はぁ、なぁぁ、すぅぅぅ、のおぉぉぉぉ!!」
必死に手足を動かし逃げようとするが、フェブの圧倒的な腕力の前に為す術がない。
「よくやったわフェブ。メイもいい加減にしなさい。レン様が自室に居られる際は立ち入っては駄目だと仰っていたはずよ。レン様のお言葉を聞いていなかったの?」
オーガストの問いかけにメイは暫し考える。だが思い当たる節がない。メイは笑顔で答える。
「そんなの知らないの」
それを聞いたメイ以外の全員が溜息を漏らす。このアホの子は本当に上位竜なのかと。
竜王の言葉を聞かない上位竜など前代未聞だ。恐らく、聞いたが忘れたのだろう。自然とアホの子に冷たい視線が浴びせられる。
それからはメイの説得に時間を費やされ、結局なにも決まらずに会議は幕を閉じた。
この会議は後に、第1回上位竜会議と呼ばれることになり、これからも続いていくのであった。




