竜王国1
会議室に着くまでに30分も掛かっている。
目の前には木で出来た両開きの重厚な扉。開くと部屋の中央には重厚な円卓が置かれ、それを囲むように17脚の豪奢な椅子が並んでいた。椅子同士の間隔は2m以上あることから円卓の大きさが窺える。
既に全員が揃っており直立不動でレンの到着を待っていた。
奥には一際大きな椅子が置かれ、そこにレンが腰を落とすと、それが合図のように全員一斉に腰を落とした。
レンの隣にはカオスとアテナ、これは先に会議室にやってきた者の特権だろう。その隣にニュクスとヘスティア、更にその隣には上位竜たちが座る。
序列の高い者ほどレンの近くに座れるのは暗黙の了解であった。
『それでは会議を始める。先ずは国家樹立についてだが近隣諸国の反発もあるだろう。以前にも言ったが他種族とはできるだけ共存したい。何か良い案はないか?』
一人の男が手を上げる。外見は20代前半、パウダーブルーの僅かに青みがかった白い髪、そのセミロングの髪をオールバックにした色白で長身の男。細身で豪奢なスーツを着こなし、切れ長の鋭い目からは知性が感じられる。
与えられた名前はノーヴェ、雪竜である。
「国家樹立後、もしくはその前に各国との会談の場を設けては如何でしょうか?」
『ヒューリも同じようなことを言っていたな。ノーヴェお前は政治には詳しいのか?』
「貴族として人間と暮らしておりましたので多少は」
おお!凄いじゃないか。これは心強い。
他にも政治に詳しい者がいるかもしれないな。
『他にも人間の政治に携わった者はいないか?』
一つの手が上げられる。外見は20代前半、銀色に輝くストレートの長い髪、褐色の肌を包むのは豪奢な黒のドレス。凛々しい顔つきの美しい女性。
与えられた名前はオーガスト、銀竜である。
「以前、女王として人間の国を統治しておりました」
はぁ?女王?国を統治?
もう丸投げでいいんじゃないか?
俺がすることなんてない気がする。
むしろオーガストを国の女王にして政治を任せるべきだ。
素人の俺が統治するより余程良い。
でも、その国はどうしたんだ?
まさか、ここに来るのに邪魔だから滅ぼしました。なんて言わないよな?
『オーガスト、その国はどうした?』
「配下に任せてきました。1000年王国と呼ばれる歴史ある国です。今後、レン様のお役に立つこともあるでしょう」
はい、合格!女王決定です。
おめでとう、オーガスト。
これで俺は何もしなくてよくなる。
『オーガスト、国家樹立に関して、その国に協力して欲しい。近隣諸国の説得を頼めないか?』
「恐れながら申し上げます。統治していたのは他の大陸の国にございます。遥か離れた国交のない国の言葉を聞くとは思えません」
『そうか、それでは仕方ないな』
『ではオーガスト、お前に我が国の女王になることを命じる。この国を統治せよ』
一斉に視線が集まる。みな驚愕の表情でレンを見つめている。
「お、お待ちください。レン様を差し置いて私が国を統治すなど……」
『この決定は覆ることはない。それに勘違いするな、あくまで私の配下として国を統治するのだ。私より偉くなるわけではない』
あくまで配下として国の統治を任せる、これなら問題も無いだろう。
そう思っていたレンだが、カオスがそれを許してくれない。
「恐れながらレン様、それでも勘違いする輩が出ないとも限りません。なにとぞ御再考ください」
また、カオスか……だが今回だけは引けない。
国の統治など無理だ。会談なんてしたくない。
カオスには悪いが少し強めに言わせてもらう。
『カオス!お前は国の統治という些事を私に行わせるつもりか?何のための配下だ馬鹿者め!』
「……確かに仰る通りです。出過ぎたことを申し上げました。お許し下さい」
反論は上がらない。レンの言葉を聞き全員が納得していた。確かに国の統治など竜王から見れば些事に等しい。そんなことは配下で十分ではないかと。
そして、大役を任命されたオーガストに羨望の眼差しが向けられる。任されたオーガストも必死で表情を取り繕ってはいるが嬉しくて仕方ない。
『分かればよい。ノーヴェお前はオーガストを補佐せよ。お前たち二人の働きには期待している。この国をより豊かにするのだ』
「はっ!お任せ下さい。ご期待に応えるよう全力を尽くします」
オーガストが代表して発言し、二人が同時に頭を下げる。
よし、カオスに勝った!
今日はとてもいい日だ。
俺の中でカオス記念日と名付けよう。
「レン様、一つお尋ねしたいのですがよろしいでしょうか?」
『何だオーガスト?かまわん発言を許す』
「国家樹立を宣言するに当たって、国の名前を教えて頂きたいのですが、よろしいでしょうか?」
国の名前?しまった!考えてない。
どうする?もう分かりやすく竜王国でいいんじゃないか?竜王の国なんだし。
うん、なんかそれでいい気がしてきた。
よし、それでいこう。
『国の名前は竜王国だ。分かりやすくて良い名前だろ?』
「はい、とても素晴らしいお名前でございます」
『皆も異論はないな』
異論を唱えるものは誰もいない、静かに時間だけが流れる。
『では国の名前を竜王国とする。それと同時に、お前たちを竜王国の重臣とする』
「竜王国の重臣としてのお役目、謹んでお受けいたします」
カオスが代表して答えると皆が一斉に頭を下げた。
暫くして頭を上げるとカオスが今後のことを話し始める。
「レン様、血を流さずに国家樹立を成し遂げるにはドレイク王国の支持だけでは難しいでしょう。そこでノイスバイン帝国を取り込もうと思うのですが如何でしょうか?」
ノイスバイン?何かあっただろうかとレンは首を傾げ、そして思い出す。ドレイク王国に侵攻しようとしていることを。
『どうするつもりだ?』
「ノイスバイン帝国は食糧難と聞いております。それならば大量の食糧支援を行うことで協力を取り付けることができるでしょう。それと同時に土地の再生も行い、実りを豊かにすることを条件に他国への侵攻を止めさせるのです。」
『土地の再生はヘスティアが行うとしても大量の食料はどうする?』
カオスが一人の女性に視線を向ける。
「ジュライできるな?」
「当然でございます、カオス様」
深い緑色の髪をした女性が優雅に答える。外見は20歳前後、長い髪の一部が花飾りのように編みこまれている。白い華奢な体を覆うのは薄緑色のドレス。おっとりしたような、落ち着いた雰囲気の女性。
与えられた名前はジュライ、森竜である。
「私の固有魔法で育成を早め、食料の大量生産を行います。収穫には人手が必要になりますので、ドレイク王国から人材を借りるのがよろしいかと」
何でもありだな、まぁ平和的に解決できるならいいか。
上手くいけば戦争は回避できるとしても、人材や物資を運ぶ乗り物が必要になるな。
下位竜に運ばせることはできないだろうか。
『ではそのように進めるがよい。カオスよ、人材と物資の輸送に下位竜を使うことは可能か?』
「はい、下位竜にゴンドラを取り付けたいと思います。ご許可願えますでしょうか」
『許可する。お前たちも移動の際は下位竜を使うがよい。移動の度に裸になられては私の品位が疑われる』
「畏まりました」
よし、これで移動の度に目のやり場に困ることはないだろう。
あとは城の警備状況か、隣国や魔物が襲ってこないとも限らない。
皆の命を守るためにも警備体制はしっかりしておかないといけない。
『この城の警備はどうなっている?』
その質問にアテナが自慢げに胸を張る。
「この城は4つの塔で張られる強力な結界で守られております。今は竜種以外は入れないようにしておりますのでご安心ください」
『それは素晴しい。では、私の寝室での護衛は必要ないな。今後、私の寝室への立ち入りを禁止する。ただし、例外として私を起こす時と、私がいない時の部屋の清掃等は認めよう』
彼女たちには悪いが、立ち入り禁止にした方がいいはずだ。
上位竜も加わったことだし、何が争いの種になるのか分からない。
アテナが見る間に落ち込んでいく。
追い打ちをかけるように女性陣の冷たい視線がアテナを突き刺していた。




