ドレイク王国10
泣きじゃくるニュクスをレンは優しく抱きしめる。
短いようで長い時間。いつしかニュクスは泣き止み、見上げるその顔はいつもの優しげな表情に戻っていた。
そっとニュクスを離し席に戻らせる。
これで一件落着。そう思った矢先、カオスが先程のやり取りを振り返す。
「レン様に謝罪をさせるとは、どういうつもりだニュクス!」
その怒声からはカオスの心情が窺知れる。
これはアテナ、ヘスティアも同じ気持ちだ。ニュクス自身もレンに謝罪させるなど、あってはならないと思っている。
だからどのような罰でも全て受け入れる。
「分かっているわ。私の失態が消えることはないもの。どんな罰でも受け入れる覚悟よ」
「ならば、その命で償え!」
カオスの右手から竜力が迸る。抜き手を作ると、それがニュクスに突きつけられた。
『まて!何をしているカオス!』
レンは慌てて止めに入る。明らかに尋常ではない。
「レン様に頭を下げさせるなど臣下にあるまじき行為です。命を持って償うほかありません」
『あれは私が悪かったのだ、ニュクスに非はない』
「しかし、それでは『私の言葉が聞けないのか!』
「……申し訳ございません」
カオスは手を引き戻すと深呼吸をする。
冷静に考えると主の許可も取らずに罰を与えるなど思い上がりも甚だしい。如何に頭に血が上っていたとは言え、冷静な判断ができずにいた自分を見つめ直し反省した。
「ですがなにも罰がないのも問題ではないでしょうか」
『アテナお前までそんなことを言うのか……』
「レン様のお気持ちはよく分かります。しかし、信賞必罰ニュクスの迂闊な発言には罰をもって応えるのがよろしいかと」
『ヘスティア……』
「レン様、私にどうか罰を、このままでは示しがつきません」
『ニュクス……いや駄目だ。やはり罰は与えない。もし、どうしてもニュクスが罰を受けるのであれば、私も同じ罰を受ける。それでもよいのか?』
「な!どうしてレン様が罰などと、私だけで十分です」
『ならば、ニュクスにも罰を与えない。この話はこれで終わりだ』
有無を言わさず話を切り上げる。
カオスたちは顔を見合わせるがレンの決定に逆らう者は誰もいない。
それからは誰も口を開かず、目的地に着くのを静かに待った。
街の外には竜人たちが溢れかえっていた。
外で待機している竜を囲むように人集りが出来ている。露払いの竜人が人集りを掻き分け道を作ろうとするが、その必要はなかった。
王宮の馬車が見えると人集りは綺麗に分かれ、集まっていた竜人たちは自然と地面に平伏した。
竜の前に馬車が止められるとレンは直ぐに馬車から降りる。
色々な意味で居心地の悪かった馬車から解放されると、外の空気を取り込むように大きく深呼吸をした。
『カオス、上位竜はどれだ』
レンの前には体高20m、体長40mの竜が30体程並んでいる。
「あちらの人間の姿になっている者たちです」
確かに人間の姿が見える。男女問わず見目麗しく、数は全部で12人。その後ろに30体の竜が並んでいる。
いつの間にか、レンの左右にはカオスたちが並び、その外側にヒューリとその重臣が並んでいた。
『さて、どうしたものかな』
「まずは、レン様が竜王である事を告げ。その後、上位竜に名前を付けては如何でしょうか?」
『名前か、そういえばお前たちの時もそうだったな』
カオスの助言通り名前を考えるも、良い名前が浮かばない。レンは考えることを放棄した。
12人だからカレンダーの月ごとでいいか。
それにしても大勢の前で話すのはいつも緊張するな。
先程のこともある、事前に俺の意思を伝える必要があるだろう。
もう、争いごとは沢山だ。
レンは尊大な態度で声を張り上げる。
『私が新たな竜王、レン・ロード・ドラゴンである』
竜は一斉に跪くと頭を垂れた。
『同胞たちよ、よく集まってくれた。先ずは私の意思を伝える』
一瞬、ほんの僅かにざわめきが起こり直ぐに収まる。
辺りが静まるとレンは竜たちを見据え声を張り上げた。
『聞け!私は他種族との共存を望んでいる。我々に危害を加える者とは戦うしかないだろう。しかし、友好的に接する者は受け入れる』
『もう一つ、私の配下になったからにはお前たちの命も私のものだ。勝手に死ぬことは絶対に許さん。私の配下同士での殺し合いなど以ての外だ』
『これに賛同できないものは今直ぐこの場から立ち去れ』
ここまで言えば殺し合いになることはないだろう。
レンは確認するように竜を見渡す。去る者は誰もいない。
最後にカオスたちに視線を向け、頷くのを確認する。
『今よりお前たちは私の配下となった。以後、私に忠誠を誓い、私に尽くすことを約束せよ』
「我らはレン・ロード・ドラゴン竜王様に絶対の忠誠を誓います」
上位竜を纏める者だろうか、目の前で跪く銀髪の女性が代表して答える。
『うむ、では上位竜には新たな名前を与える。心して聞くがよい』
名前は1月から12月までを呼びやすく直して、ジャニー、フェブ、マーチ、エイプリル、メイ、ジュン、ジュライ、オーガストまでを女性に名付け。
セプテバ、オクト、ノーヴェ、ディセを男性に名付けた。
上位竜はみな黄金の瞳をしている。髪の色は様々で赤、青、緑、茶、黒、銀、金と彩り豊か。髪型も多種多様。外見も短身、長身、筋骨隆々、細身、幼女など様々。肌の色は数人だけが小麦色に焼けたような褐色で、その他は透き通るように白い。
『カオス、下位竜の名前はいいのか?』
「はい、いまは必要ございません。名前をいただけるだけの力をつけた時にお願いいたします」
『そうか、ではこれで終わりにしよう』
『私からは以上だ。今後のことはカオスの指示に従うように』
「レン様、私は上位竜と下位竜を引き連れ新たな居城に向かいます。それと、ウェンザー山脈にある居城の守護に下位竜を10体使いたいのですがよろしいでしょうか?」
『お前に任せる』
「畏まりました」
レンは緊張感から解放されると、ほっと溜息を漏らす。
これで良かったのかは分からないが、竜たちは従ってくれるようだ。
カオスたちが飛び立つのを確認すると、レンは馬車に乗り込みこの場を後にした。




