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ドレイク王国8

 レンは全てを終えて寝室に戻ったきた。

 緊張感から解放されると、もう何もしたくないとソファに倒れこんでしまう。

 テーブルの上に置かれている水差しからグラスへ水を注ぐと、一気に煽るように飲み込んだ。

 一息ついたレンは自分の衣装に視線を落とす。

 この衣装のままでは寛げない。レンはヘスティアに手伝ってもらい普段着へと着替えを行った。

 ヘスティアは普段と変わる様子はない。

 しかし、玉座の間でのことが気になり、ヘスティアに訪ねてみることにした。


 失望されていなければいいが……


 心配になるレンだが、もう終わってしまったことだ。今更どうしようもない。


『ヘスティア、あれでよかったのだろうか?』

「申し分ないお言葉でしだ。流石はレン様でございます」


 ヘスティアは満面の笑みで答えてくれる。

 だが、ヘスティアはレン贔屓ひいきだ。話半分に聞く必要がある。

 恐らく良くはないだろう、レンは溜息を漏らすと肩を落とした。


『私は疲れた少しの間眠りたい。誰も部屋にいれるな』

『それと、今日は夕食を取らない。ヒューリたちにも伝えておけ』

「畏まりました」


 ヘスティアが頷くのを確認すると、ベッドの上に倒れ込む。


 これで、もし晩餐会があっても回避できるはずだ。

 もう堅苦しいのは勘弁して欲しい、精神が持ちそうにない。


 レンは布団も掛けずに瞼を閉じると、直ぐに意識は遠のいていく。



 目を覚ますと辺はすっかり暗くなっていた。

 僅かな明かりだけが灯された薄暗い部屋の中、時計は0時を過ぎている。

 ヘスティアはソファに座り、こちらの様子を静かに窺っている。


「レン様、お目覚めですか?」

『ああ、少し仮眠するつもりが熟睡していたようだ』

「お疲れだったのでしょう。まだゆっくりお休みになられては如何ですか?」

『その前に風呂に入る。新しい着替えを用意してくれ』


 ヘスティアがチェストから着替えを取り出すと、レンがそれを受け取りに行く。

 当然だがヘスティアにも部屋の奥には入らないように言ってある。そのため、脱衣所まで直接持っていくことが出来ないのだ。

 レンは着替えを受け取ると軽くシャワーを浴びた。

 汗を流しすっきりすると、またベッドに潜り込む。瞼を閉じて横になると意識は徐々に遠のいていく。


 しかし、一度熟睡していたためか眠りが浅かったのだろう。暫くすると目が覚めてしまう。

 薄らと目を開けると何故かヘスティアが横で添い寝をしている。


 ヘスティア!?何をしているんだ?入るなって言っていたのに。

 まさか俺が寝た後、いつも添い寝をしていたのか?

 もしかしてヘスティアだけじゃなくアテナやニュクスもなのか?


 ヘスティアはレンが目を覚ましたことに気付いた様子もなく、幸せそうに添い寝をしている。

 レンに触れないように布団の上から添い寝をしているが、それでも隣で寝ていると意識してしまう。

 このままでは不味い。自然と目を覚ましたように起き上がる。背を伸ばし周囲を見回すが、ベッドの上からヘスティアの姿は消えていた。

 ヘスティアはソファに座り、いつもの様にレンの様子を窺っている。

 いつの間に移動したのか、足音すら聞こえない。


 なんて無駄に高い身体能力なんだ。

 確かにこれなら気付かれずに添い寝できるはずだ。

 ニュクスとアテナも調べる必要があるな。

 寝ている間に何をしているのか調べないと、落ち着いて眠ることすらできない。


 結局その後は一睡もできずに朝を迎えることになった。




 今日の護衛はニュクスが担当している。

 昼はいつも通り書庫で過ごし、就寝時間までじっと待つ。

 いよいよ、夜も更け就寝時間になるとベッドに潜り込んだ。

 ニュクスの様子を窺う様に、ちらりとソファに視線を向ける。

 ニュクスはソファに座り動く気配は見られない。

 レンは瞼を閉じると静かに寝息を立てた。だが本当に寝ているわけではない。ニュクスの行動を観察するため、寝たふりをしているのだ。

 何分そうしていただろう、不意にベッドが僅かに沈む。

 ニュクスがベッドに上がり込んできたのだろう。そのまま寝たふりを続けていると、あろうことか布団の中に入ってきた。

 ヘスティアは近づくだけで直接触れることはなかったが、ニュクスはレンを抱きしめるように添い寝をしてくる。

 柔らかい感触がレンを包み込み、ニュクスの香りが鼻を通り抜ける。


 不味い!体が反応してしまう!

 どうにかしなければ!


 レンは慌てて寝返りを打つように、ニュクスと逆方向に体を向けた。しかし、今度は背中に柔らかい感触が押し当てられる。

 これはもう起きるしかない。レンは起き上がり振り返るも、そこにニュクスの姿はなくなっていた。

 直ぐにソファへ目を向けると、いつものニュクスが静かに座っている。


 どうやって移動しているんだ?

 天蓋が動いた形跡すらない、足音も聞こえない。

 身体能力が高いだけでは説明がつかないことが多い。

 まるで瞬間移動の様に姿が消えている。


 レンは起き上がりニュクスと向かい合うようにソファへ座る。

 そんなレンをニュクスは不思議そう見つめ首を傾げた。


「レン様どうかなさったのですか?」

『私が寝た後、いつも添い寝をしているのか?』


 途端にニュクスの目が泳ぎ顔から笑みが消える。しかし、その表情は直ぐに元に戻り変わらない笑みを浮かべる。


「いったい何のことでしょうか?」

『先程、私のベッドに潜り込んできただろう?』


 もう隠せないと思ったのかニュクスの表情が暗くなる。


「お、起きていらっしゃったのですか……」

『少し思うことがあってな。寝たふりをしていたのだ』


 ニュクスの顔は青くなり黙り込んでしまう。


『別にそれほど怒っているわけではない。ただ私と約束したはずだな、このソファより奥には入らないと』

「申し訳ございません。しかし、どうしてもレン様の近くにいたかったのです」


 ニュクスは跪き頭を下げながら涙ながらに懇願してくる。

 レンは溜息を漏らすと仕方ないかと諦めることにした。

 ヘスティアにしてもニュクスにしても悪気があるわけではない。レンを慕っての行動だと思えば許さないわけにはいかない。

 なにより居城作りなど様々なことでレンのために働いているのだ。何もしていないレンが強く言うことなどできるはずもなかった。


『もうよいニュクス。頭を上げよ』

「レン様……」

『お前を許す。以後気を付けよ』

「ありがとうございます。レン様のご慈悲に感謝いたします」


 ニュクスは深く頭を下げるとレンに心から感謝する。

 寛大な心で配下の失態も許してくれる慈悲深い主に更に忠誠を誓うのであった。


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