追 章 2- 9/11 高校一年生・初夏
校内で、上級生たちと利沙のやり取りです。体つきから話し方までがある種の迫力がある相手にも、動じることなく自然体で対応する利沙の様子を、もう少しご堪能下さい。
「ほら、図星。知識で勝てなかったら、暴力にでる。
典型的な〝バカ〟でしょ!」
利沙が、明らかに喧嘩を吹っかけてるのだけは理解できるが、
なぜそこまで利沙が二人を挑発しているのか、三枝達には分からなかった。
「友延、もういいって。なんかよく分からないけど、それくらいでいいんじゃないか?」
なだめようとして、
「なんで? こいつら三枝君と井東君を使って、ハッキングさせようとしたんだよ。
このままにしておけるわけないでしょ!」
「なんだと!」
「それに売ったって言ったって、どうせその日のうちに帰されてるはずだし、それが……何?
ちょっとくらい痛い目見ないと、これからどんどんエスカレートしてくる。
こんなの、どこかで歯止めをかけないと、絶対に引き返せなくなる。……しおどきだよ!」
「その日のうちに帰れた、ってなんで知ってるんだ? 連絡でもあったのか?」
「そんなことあるわけないでしょう?
私のメモリーにコピーしてて、それを解析された。
そこにあったパソコンのハッキングデーターと、次回ハッキングがあった時の通報システムを。
だから、……もし、これで通報してきても、ちょっと注意するくらいにしてほしいって。
……せいぜい長くても一泊するくらいかなって思ってたし、
データーは、すでに解析されてるから、その日の内に帰されるのも、有りかなって」
「なんで、そんなこと出来るんだよ。
そんな、システムって? あの時、そんな時間なかっただろ? あっさり本題入ったし。
そう言えば、あの時ハッキングしてたって言うけど、そんなに簡単に出来るもんなのか?」
「そうね……私には。
ちょっと覘いたら、簡単にシステムファイル覘けたからね?
よくまあ、あんなものでハッキングしてたね。ちょっと驚いた。
確かに、たいした所には侵入してなかったけど、もうやめた方がいいよ。
それにもう、マークされてるだろうし」
戸惑っているのは三枝だけではない。
そこにいたみんなが、戸惑っている。
「友延、お前何者だよ。
俺達はお前が元ハッカーって事しか知らない。
だから、先輩達にハッカーがいるらしいから、これ使わせてみろ、って言われたんだ。
でも、お前が警察に連れて行かれて、焦ったんだよ。
どうしようって。
しかも、警察で、お前のお父さんの様子やなんかが。
……もう、どうしたらいいか分からなくて」
「そうか、そうだね? クラスの人でも知らない人がいるだろうし、私は中学の時捕まった。
でも、保護観察処分で帰された。
もし、今回のハッキングで処分されたら、もう、家に帰れないかもしれない。
だから、保険を掛けた。もしもの時、用に。
そのデーターと引き換えに出来ないかって。
それで、もし、ハッキングしなかったら、それで万事OK。
でも、したとしても、注意で済むだろうと思ってね?
でも、一度、忠告画面、出て来なかった?
……おかしいな? 思いとどまるようにしたのに」
「……出てきたけど、あれ、お前が? お前が、……余計なことしやがって」
棚元は、興奮しながら、
「じゃあ、お前のコードネームは、なんだよ!」
利沙は、それには触れなった。
「いいじゃない。それより一日で帰って来れたんでしょう?
良かったじゃない、私なんて一ヶ月以上、家に帰してなんてもらえなかった。
その間、あの刑事達に一日中尋問されたのに。
それに保護観察なんて処分、結構厄介でね、なんでも(保護者の)許可がいるし。
そうならなかっただけでも、感謝してほしいくらいよ。
……もういい? 用事はそれだけ、もう行くね?」
そう言って、教室に戻ろうとすると、棚元は、利沙の前に立ち塞がった。
「言えよ。コードネーム」
身長差が結構あるので、棚元の胸のあたりに利沙の頭がある。
そこで強く言われると、かなりの効果が期待できる。
はずだった。
「言わない。言う気ないもの。そこ、通してくれる」
全く怯んだ様子のないのに、反対に棚元の方が、
「なんで言わない? 言えないのか?
どうせ簡単に見つかるようなハッカーだったんだろ? 偉そうなこと言っといて……」
「言わない。挑発されても、言わないよ。残念でした。
それより、私、これ以上関わりたくないのよね? もう、いいでしょう。
とりあえず全部言ったし、納得はしてないみたいだけど。もう、戻るね」
そう言って通りすぎようとすると、棚元は、利沙の二の腕を強くつかみあげた。
そして、顔を利沙に近づけて、何か言おうとした時、利沙が何かつぶやいた。
と、利沙はそのまま腕を引き抜いて教室へと戻って行った。
棚元は、しばらく呆然としていた。
「……おい、棚元! 行っちまったぞ。良かったのか、行かせて? おい!」
「あ、ああ、いいよ。もういい……」
なんだか気が抜けた感じの棚元に、戸野は、
「どうしたんだ? おい!」
「なあ、戸野、知ってるか? 知ってるよな?」
「何だ、何を知ってるって?」
どうも、要領を得ない。棚元に視線を合わすと、
「フラワー・ポットだよ。ハッカーの」
「……ああ、知ってるよ。あの有名企業と政府の機関を専門に荒してたハッカーだろ。超有名な。
それがどうした?」
お互い少し静かに話し始めた。
「あいつ、自分がフラワー・ポットだって、言いやがった」
「それはないだろ?
あれは、侵入したことにも気づかせずに、好きなことしまくってたんだぞ。
それをアイツがしてたとは思えないだろ?」
「本当にそう思うか?
俺達のパソコン、あれだけ改造されてたのに、お前だって気がつかなかったじゃないか。
俺、それで、その名前聞いて、なんか納得したんだよ。
……もういい、それなら納得がいく。
もう、ハッキングは、やめだ。
アイツの言う通り警察にばれたんじゃ、面白くない。
もういい。
それに……、お前等も悪かったな。変なことさせて。
もう、無茶なことは言わない。だから、……部活来いよ」
そう言うと、まだ納得してない戸野を連れて戻って行った。
残された二人はお互い顔を見合わせて、慌てて教室に戻って行った。
ちょうど午後の授業の開始を知らせるチャイムが鳴ったから。
この話で、校内でのやり取りを終わります。ハッカーとしての実力は、校内中の話題になったかもしれません。もしくわ、まったく話題にならなかったか。どちらかでしょう。そして、この後は、今までとは少し違う視点でお楽しみ下さい。




