第三章 16
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三月に入って桜の蕾が膨らんで、もうすぐ花が咲きそうな頃。
卒業の日が近づいていた。高校を卒業した後は、みんな三光園も卒業していく。
そんな卒業生達に、ささやかではあるが、卒業おめでとう会と送別会を催す事が、ここの恒例となっていた。
残る子ども達全員で劇をする。
と、いうのが決まりごとで、今まで受け継がれていた。
それを三月二十日に控え、みんな練習に励んでいた。
「ほら、そこちゃんとしろよ」
「お前、出番忘れてるだろう」
「あ、ごめんごめん。そうだった」
「しっかりしろよ」
などなど、色々やり取りが交わされていた。
そんなある日、三光園に男女の二人組がやってきた。
三光園に来る男女の二人組みといえば、大体、里親候補が多いのだが、
見た感じそういう雰囲気は見られなかった。
職員室に入っていった後、しばらくは気にしていた子ども達も、そのうち気にしなくなった。
「今度は、誰が行くのかな?」
そんな風に何人かが気にする程度だった。
なのに、職員室に呼ばれたのは、みんなの予想を覆す子だった。
なんと、利沙が呼ばれて入っていった。
それを見て子ども達は、一斉に職員室のドアの前に集まった。
「なんで、利沙が?」
そんな声がいくつも交わされ、それに気づいて職員は、
「ここはいいから、練習してなさい」
「でも、利沙って。どうするの?」
「里子に行くわけじゃじゃないから、少し話したいって事なの。さあ、ここはいいから」
なんとなく、煙に巻かれたように、子ども達は劇の練習に戻っていった。
それからしばらくして、利沙は、女の人と一緒に職員室から出てきた。
利沙は、そのまま自分の部屋に入って行った。
子ども達は、
「美菜、ちょっと見て来いよ。お前、同じ部屋だし、追い出されたりしないだろう?」
「何しに行くのよ。今、行ったら、ばればれでしょう?」
「いいから、何か取りに来たって事にして、行って来いよ」
美菜はしぶしぶ部屋の前まで行くと、その後ろを他の子がじっと見つめていた。
美菜は部屋の前で、一度立ち止まると、後ろを振り返った。
すると、みんなして、
「さっさと行け」
と、身振り手振りで指示した。
仕方なく美菜は大きく、しかもゆっくり深呼吸してから、ノックして入っていった。
それをみんなは息を殺して見守っていた。
そのうち、美菜がタオル一枚持って部屋から出てくると、みんなが駆け寄ってきた。
「どうだった? ……なんだよ、このタオル。それよりどうだった、何て言ってた?」
「何か持って来いって言ったの誰よ?」
美菜は不満そうに言うと、
「そんな事より、どうだった。何か言ってたか?」
「…………」
美菜が何も話さずにいると、
「どうしたんだよ。何があったんだ?」
「それが、何も言ってなかった。それに、利沙、どこか行くのかも?」
美菜が自信なさそうに言うと、
「なんで、そう思うんだよ?」
「だって、カバンに荷物詰めてたの。まるでどっかに行くみたいに」
その言葉に、みんなは一瞬何も言えなかった。
それでも、
「でも、里子には行かないんだろ? 先生言ってたし」
答えの出ない問いかけに、誰も何も言えなかった。
「すぐ、帰って来るのかな? ほら、利沙ってパソコンしてるじゃないか、それかもよ。
いい腕してるから、引き抜きみたいな?」
「でも、利沙は楽しそうじゃなかった。全然笑ってなかったし」
美菜が、言葉に詰まった。
いつも利沙は笑ってた。
よっぽどの事があっても、いつも利沙は笑ってた。
その利沙が笑ってなかった?
それがみんなには、不思議な、いや、不気味だった。
「何があったんだろう?」
そう言ってると、利沙が部屋から出てきた。
いつもは手にしていない、杖を持って。
部屋の中では、あまり使うのなかった杖を持っているという事は、出かけるという事だ。
しかも、付き添いの女性が、利沙のカバンを持っていた。
利沙は部屋から出てくると、女性と何か話を交わしてから、子ども達が自分の方を見ている気配に気づいた。
子ども達が何か話そうとした時、利沙がニコッと微笑んだ。
それにつられて、子ども達も微笑んだ。
それを見た利沙は、そのままトイレの方に歩いて行った。
その後を追いかけてトイレを見ると、入り口に荷物を持った女性が一人いるだけだった。
それを見ると、子ども達は戻らざるを得なかった。なんとなく、近づけなかった。
でも、時間がいくら経過しても、利沙はトイレから出てこなかった。
男性が、女性を探してトイレまで来ると、女性はトイレ中の利沙に声を掛けた。
しかし、返事がなくトイレの中を確認すると、誰もいなかった。
それどころか、利沙の使ったトイレには、外部に通じた窓があり、その窓が開いていた。
それを確認した男性は、どこかに連絡を取った。
その声があまりにも大きく子どもにも聞き取れた。
「友延利沙が逃走した。大至急応援を頼む」
そう言うと、女性に怒鳴っている。
女性はひたすら謝っていた。
そんな様子を見ると、子ども達は不安になった。
「何が、起こってるんだ?」




