* 再 来 其の一 * 6
鈴木先輩も、母の言葉を肯定しているかのような表情をしていた。
「旅館の人へ連絡取ってみます。支払いのこともありますし、謝罪だって……そしたら……」
そこまで言って、鈴木先輩は言葉をやめてしまったけれど、その後に続く言葉は容易に想像がついた。
「そうね……謝罪とかはいいけれど、やっぱり、ちゃんと確かめた方がいいかもしれないわよね」
母も鈴木先輩の真意を察していたようだった。
その場で鈴木先輩が携帯を取り出すと、ここは大人の配慮とでもいう感じで、携帯代のことを言っているように、「うちの電話を使いなさい」と母が言った。
ただ、いつも、おっとりした母には珍しく、先輩の行動を止めようとはしなかった。
いつもなら、「お茶を飲んでから」などという言葉が出るはず。
『そんなに凄いことなの?急ぐことなの?』
私は、また、恐怖が蘇ってしまっていた。
『また、繋がらなかったら……!』
あの旅館での黒電話も鮮明に蘇っていた。
「大丈夫だよ」
鈴木先輩は、一言、私に向かってそう言うと、「お借りします」と、私の家の電話の受話器を取った。
旅館の電話番号が登録してある携帯を見ながら、ゆっくりプッシュホンを押している先輩の後ろ姿を見ているうちに、妙な感覚に捕らわれた。
『うちの電話が、あの旅館に行っちゃうの?』
『また、あの声が聞えたら、電話が呪われちゃう!』
「あの!」
無意識に、先輩の電話を止めようとしていた私がいた。
と同時に、「あ、もしもし」という鈴木先輩の声。
一気に脱力状態になってしまっていた。
『繋がっちゃったんだ』
本来、旅館へ電話が繋がったことは、旅行での一連のことを思えば安心してよいはず。
しかし、その時の私は、電話が繋がった安堵より、自宅の電話が旅館へ繋がっていること自体を恐れているような感覚だった。
本当に妙な感覚。
ソファにもたれるようになっていた私の耳には、鈴木先輩の話し声が聞こえてきていた。
きちんとした会話が成り立っているよう。
聞こうと思えば聞こえたはずではあったけれど、何故か、会話の内容が入って来なかった。
鈴木先輩が電話で話をしている間、私はずっと目をつぶっていた。
妙な脱力もあったと思うけれど、“あの”旅館の人と話をしている鈴木先輩の姿を見ることも無意識に拒否していたようでもあった。
鈴木先輩だけに“押し付けて”いるような、自己嫌悪にも似た感覚だけはあった。
先輩が電話を切ったようだったので、私も姿勢を正すように座り直した。
「明日、こちらへお詫びと説明に来てくれるそうですよ」
再び、ソファに座ると、鈴木先輩は母へ向かって話しかけた。




