* 逃 避 * 5
またひとり……。
カーテンの向こうには医者や看護師さんはいるけれど……と、ふと、不安がよぎった。
先輩たちがフロントへと降りて行き、ひとり、部屋へ残された時の自分と重なった。
『まさか……この病院も……!』
余計な妄想だったのかもしれないけれど、その思いを打ち消すのは難しかった。
シンっとした診察室の中。
見えるのは、少し古い感じのする、ポツポツと小さい穴があいたような四角い天井板が合わさっている、良くテレビなどでも見る診療所の天井。
そして、周りは薄い黄色がかったカーテンで覆われている。
覆われて……そう……逃げ場がない……感じ。
とはいえ、やはり、どうすることも出来ない。
ただ、先輩たちが戻ってくるのを待つだけ。
完全にシンクロしていた。
時々、「ご気分はいかがですか?」と看護師さんが訪ねてくれるのが唯一の救いだった。
それから、点滴が効き始めたのか、不覚にも、また寝てしまった。
先輩たちが戻ってくるまでは、絶対に寝ないと決めていたのに……。
何かの夢を見た。
何の夢だったか、まるっきり覚えていないけれど、その夢の途中で、ハッという感じで目が覚めた。
先ず、目に入ったのは、寝る前に見ていた天井でもなくカーテンでもない。
森田先輩の顔だった。
そして、鈴木先輩。
私の目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
不安からの解放と安心と……何とも表現し難い安堵感だった。
「先輩……よく……」
言葉にならない。
「いいよ。まだ休んでなよね」
「そうそう。大丈夫だから」
二人の先輩のその言葉が、今までにないくらい温かく聞こえていた。
点滴もまだ半分くらい残っていた。
その時の私の中では、今までのこと全てが存在していなかったような変な感覚が残っており、心の一部では、今、目の前にいる先輩たちも幻なのではないかとさえ思えていた。
勘の良い森田先輩が笑っていた。
「大丈夫だって。本物だから」
「やだ、香里ちゃんったら」
続いて、鈴木先輩も笑っていた。
“笑っていた”という事実。
先輩たちには、あれから、それ程のことはなかったと、その時は思えていたのだった。




