* 逃 避 * 4
私を乗せた救急車が、サイレンを鳴らさずに走り出した。
付き添ってくれていた消防隊員が「夜ですし、田舎ですからね」と言っていた。
山道を走っているのか、変に横揺れがして気分は相当悪かったけれど、先輩たちのことが気になり、それどころではなかった記憶がある。
病院につくと、軽度の一酸化炭素中毒とのこと。
実際に消防隊員の測定器にも部屋のガス濃度は数値として表れたわけで、医師の診断でも、所謂“ガス中毒”。
そこに“ガス”が存在していたことは間違い様のない事実ではあったものの、旅館の部屋からずっと付き添ってくれていた消防隊員も不思議そうな顔をしていた。
消防隊員の人と目が合った。
私の表情も何処か腑に落ちないといった感じだったと思う。
「軽度……って……」
ふたり、ほぼ同時に発した言葉だった。
というのも、私の症状からも、測定器からの数値からも、どう考えても“軽度の”ではない。
素人でも判断出来る。
とはいえ、医者が軽度ということなら、軽度なのだろうと、診断には素直には従い、点滴の治療を受けた。
消防隊員の人も、それ以上のことは口にはしなかった。
病院といっても、どちらかというと“町の診療所”という感じ。
入院設備があったのかどうかは判らなかったけれど、私はというと、診察室内にあるベッドの上で横になり、点滴を受けていた。
それから少して、付き添ってくれていた消防隊員が、再び、旅館へ戻ると言って、診察室を出ようとしていた。
私は、慌てて引き留めた。
隊員は、ここでも私が不安がっていると勘違いしている感じで、ニッコリと微笑み、「もう、お医者さんもいますし、大丈夫ですよ」と。
隊員を引き留めたのは、実は、私は先輩たちに強く伝えたいことがあったのだった。
そう……“あの”老婆のこと。
ただ、隊員を引き留めたまではよかったけれど、やはり、あの老婆のことは言い出せずにいた。
そして、まだ少しだけ朦朧とする頭の中で、先輩たちが通じてくれることを祈りながら、一種の暗号のような言葉を伝えた。
「そこにいてって言いたいけど、どうも違うらしいよ」
何とも支離滅裂……というか、日本語にもなっていない感じ。
それでも、その時の私の症状が幸いして、隊員はメモを取っていてくれた。
「これを、そのまま伝えればいいんですね」
「はい……お願いします」
「了解しました」
そして、ずっと私に見せていてくれた同じ笑顔で「じゃ」という様に手を挙げ、「お大事に」と、診察室を出て行った。




