* 呪 縛 * 4
しかし、良くなったとはいえ、“幾分”良くなっただけで、身体を動かすことも辛かった。
「なんか……無理……」
「どうしようと」と思いながらも、身体が言うことをきいてくれなかった。
「そっか……じゃ、これで口とか覆ってて」
そう言って、森田先輩がタオルを渡してくれた。
森田先輩が渡してくれたタオルを口に当てて、目をつぶっていた。
何かを話し合っているらしく、先輩たちの小さな声が聞えていたけれど、その内容までは聞き取ることは出来なかった。
私に気を遣ってくれているのだと思い、「大丈夫ですから」とだけ声を掛けた。
私のその言葉に森田先輩が「いいから」という感じで手を振っているのは見えた。
今、思えば、意識も相当、薄くなっていた私がいたようだった。
それから、また寝てしまった私がいたようだったけれど、その時は“深い眠り”ではなく、うたた寝状態。
先輩たちの声が、途切れ途切れではあるけれど、聞こえていたから。
「やっぱりさ!」
どのくらいの時間がたったのかは定かではなかったけれど、突然、大きな声が耳に入り、そのうたた寝から目が覚めた私がいた。
それは鈴木先輩の声だった。
「もう一度、行ってみるしかないよ!」
またも、鈴木先輩。
私は、その大きな声に、何事かと思い、身体を半分起こした。
その時は、あの物凄い吐き気も大分、治まっており、身体もいうことを聞いてくれた。
自分の体調のことなのに、その急な治まり方に自分自身が不思議な感覚もしていた。
「……どうしたんですか?」
そう問い掛けた私の方を振り向いた森田先輩。
「大丈夫?」
「なんとか……」
もう少し、身体を起こそうとしていた私の背中に手をまわしてくれ、手伝ってくれた。
「寝てなさいって言いたいけど、危ないからね。出来たら、起きてて」
「ごめんね」と言いながら、森田先輩は私の背中を支えてくれていた。
何故か、森田先輩の手が温かく感じられる。
そのせいもあってか、どうにか布団の上へ座ることが出来ていた。
しかし、前にいる鈴木先輩が酷く焦っているように見えていた。
「……あの……鈴木先輩……?」
そう声をかけた私に、隣で支えてくれていた森田先輩が事情を説明してくれた。
「やっぱりね、ガスの臭いがだんだん強くなっているみたいだし、たぶん内線も通じないだろうから、直接、フロントへ行こうかって話していたのよ」
鈴木先輩の焦り具合と反比例でもするかのように、森田先輩の口調は穏やかだった。
内心は……尋常ではなかったと思うけれど、また私を気遣ってくれているのだと直感した。
「……私は、大丈夫ですから」
思わず、そう口にしていた。
「うん……で、フロントへ行くにもね……躊躇っちゃうでしょ……だから、行った方がいいんだけど、どうしようかって話してたの」
「そうだったんですか」
「フロントへ行っても、誰もいないと思うんだけど……あの感じじゃ……」
そう言うと、森田先輩は、あの黒電話の方をチラッと見た。
「でも、いるかもしれないし……動かないことには、どうしようもないしで」
「ですよね……」
すると、鈴木先輩も私の隣へ来て、手を強く握ってくれた。
私は一瞬、その意味が判らずにいた。
「あのね。1階へ行くのに、やっぱりふたりで行かないと危険だからね」
そう言うと、更に強く私の手を握った。
「そうなると、香里ちゃん、このお部屋にひとりになるけど、気をしっかり持って。今、送ったから」
鈴木先輩が私の手を強く握った理由がわかった。
「鈴木先輩……あの……」
「本当は、いざという時にしか使わないでおこうかと思ったけど、これくらいは出来るから。しばらくは、香里ちゃんには近寄れないからね」
私が言いたいことを代弁してくれるかのように鈴木先輩が話してくれた。
「わかりました」




